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SPECIAL INTERVIEW

vol. 27「SPINNER MARKT-OUR GIFT-」開催インタビュー 五十嵐桃子×榎本マリコ×長谷川海

 

相手を思うことで、自分の中にある豊かな気持ちに気づかせてくれる「ギフト」。スパイラルでは、2020年12月22日(火)〜27日(日)まで「ギフト」をテーマに、クリエイター17名が選ぶ作品や商品を販売するイベント「SPINNER MARKT-OUR GIFT-」を開催します。このイベントにセレクターとして参加し、SICFにも参加経験のある、世代も作風も異なる、五十嵐桃子さん(SICF21スパイラル奨励賞)、榎本マリコさん(SICF21出展)、長谷川海さん(SICF19出展)に、ギフトにまつわる話や、作家活動における葛藤など、多岐にわたってお話をしていただきました。

 

五十嵐桃子(いからしももこ)

1993 年新潟県生まれ。武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科ガラス専攻卒業。ガラス工芸の中でも電気炉を使うキルンワークという技法を主に使い、オブジェや蓋物などを制作している。ガラス素材そのものの新しい表現を模索しながら、近年では「view」をテーマに作品の制作、発表を行なう。2020 年SICF21 にてスパイラル奨励賞受賞。

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榎本マリコ(えのもとまりこ)

1982 年、埼玉県生まれ。ファッションを学んだ後、2004 年より本格的に絵の創作活動を始める。国内外のグループ展や個展で作品を発表しながら、書籍の装画やCD ジャケット、雑誌、広告など幅広い業種のアートワークを手がける。最近の個展に「STRANGERS」(2015 年、L’illustre Galerie LE MONDE)、「flowery ghost」(2019 年、AL) 、「I saw a rainbow at midnight(真夜中に虹を見た)」(2019 年、梅田 蔦谷書店) など。装画を手がけた書籍に『82 年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ、筑摩書房)、『むらさきのスカートの女』(今村夏子、朝日新聞出版)など。 雑誌『anna magazine』は創刊時より、表紙のイラストを手がける。

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長谷川海(はせがわうみ)

女子美術大学卒業。日常や旅行先などの非日常で感じたことをインスピレーションに絵画を制作。リラックスや休息をテーマにした、お風呂やプールを描く作風で知られる。主な展覧会に「ボクのビーチはときどきうかぶ 」(2018年、本郷 RiverCoffee&Gallery、)、「長谷川海展」(2019年、南青山 スパイラル)。主な受賞に、第20 回グラフィック「1_WALL」都築潤審査員奨励賞。第213 回 イラストレーション ザ・チョイス入選。JAAT「100人10」展選出。

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自分の現在地を再確認するためのSICF

 

五十嵐桃子 SICF21会場風景

榎本マリコ SICF21会場風景

長谷川海 SICF19会場風景

—SICFに応募した理由を教えてください。

 

五十嵐:ガラスを溶かして作るキルンワークという技法で、作品を作っているのですが、普段は工芸の領域にいるので、立体を扱っているギャラリーにご縁があって出展させていただくことが多く、観に来てくださる方は、器やガラスが好きな方が大半だと感じています。そういった人以外にも、専門知識を持たない人、不特定多数の人に観てもらえる場所というのを探していて、行き着いた場所がSICFでした。

 

榎本 :  私は、自分の力試しではないですけど、自分の今いる場所、立ち位置的なものを客観的に確認する。そういう場所に自分を置いてみて、皆さんがどう反応されるかという事に興味がありました。元々イラストレーターになりたいと思って、絵を描いていたのですが、ここ数年でアートの領域にも力を入れてきて、少しずつ自分の作品とクライアントワークの境目がなくなってきた時期に出展しました。なので、『82 年生まれ、キム・ジヨン』や『むらさきのスカートの女』といった小説の装画を知っている来場者からも出展理由を聞かれてしまって……。逆にそう思われていることを知られて新鮮でした。

 

長谷川 :  SICFについては、大学の同じ学部の人が出展していたので元々知ってはいたのですが、私が出展したのは何年も後のことでした。やっぱり自分も発表する機会が必要だと思っていたんですね。実際、参加してみたら、スペースが決まっているというのが面白くて、数日間で色んなクリエイターの作品が拝見できるというのは、興味深かったのです。いろんな人とお話しして、今後、制作をどういう風に進めていくかを改めて考えさせられる機会になったので、個展などとは違う面白さを感じました。

 

人に会わなくなって気づいた、相手を思う豊かな時間

 

—「SPINNER MARKT-OUR GIFT-」では、ご自身の作品と、独自にセレクトしていただいたものを展示していただく予定ですが、選出理由を教えていただけますか。

 

五十嵐  : まずは自身の作品ですが、SICFに出展した「view」というシリーズの作品のなかのひとつを出す予定です。セレクトの方は、スパイラルマーケットの商品の中から、素敵だなと思うものを選んだのですが、作家ものを多く選んでいます。私自身がものを作っているので、その人が作っている様子が想像できるものにしました。

 

榎本 : コロナの自粛期間中に、自分を鼓舞するためにも、一日一枚と決めて描いていたもの中から一枚をピックアップして出展します。鹿の親子が寄り添っている絵なんですけど、その時に描いていた気持ちと今回のギフトというテーマの中で、誰かに気持ちを差し上げる、渡すという行為が合うと思い、選びました。セレクトの方は、何年か前にスパイラルマーケットで購入して自宅にも飾ってある「vivo stained glass」を展示します。大切な人たちへの贈り物の定番として、私の中で位置付けられていて、それを皆さんにも共有したいと思い、今回は迷わず選択しました。

 

長谷川 : 作品は、現在制作中の新作を出展します。セレクトの方は、スパイラルマーケットの商品から何点か選んだのですが、例えば、人から、お花とか好きなものをもらった時に、部屋に飾ったり、置いたりした時に、心地良いものという基準で選ばせていただいています。また、書籍も展示させていただくのですが、自分の支えになった本と、すごく綺麗な言葉がたくさん並んでいる本を選びましたので、ぜひ皆様にみていただきたいです。

 

五十嵐桃子 SPINNER MARKT-OUR GIFT-出展作品

榎本マリコ SPINNER MARKT-OUR GIFT-出展作品

長谷川海 SPINNER MARKT-OUR GIFT-出展作品

—今回は「ギフト」をテーマにした、展示会ですが、ギフトを贈る時に、大切にしていることがあればお聞かせください。

 

五十嵐 : 誰かにものを送る時は、もちろんその人のことを考えながら選びますが、「この人にはこれしかない!」と思ったものに出会った時に買う事が多いです。誕生日など特別な日でなくても買って贈ったりします。自分用でもギフト用でも作家ものを買うことが多くて、もちろん既製品にもいいものはたくさんあるのですが、惹かれるのは、いつも人が作ったものです。世の中に1つしかない事に魅力を感じます。

 

長谷川 : 新型コロナの事もあり、人と会う機会が減ってしまって、何かを送ったりすることが増えました。ちょっとしたお菓子のプレゼントに手紙を添えて贈ったり、少し会話をするだけで、すごく嬉しくなって、今まで以上に相手を身近に感じるようになりました。今何しているんだろうとか、こういうものあげたら、どう反応するんだろうとか、相手の事をものすごく考えるようになりました。また、その時間にすごく癒される事にも気付きました。

 

制作、仕事、子育て……作家として、つくり続けるための葛藤。

 

—今後の展開などあれば教えてください。

 

五十嵐 : 今働きながら仕事場で作品制作もしているのですが、現在の場所にいるのが来年の3月までの予定で、今後制作環境が変わるというのは作品にとっての影響も大きいと思います。新しい環境で、新しい気持ちで制作できるのは不安もありますが楽しみな気持ちが大きいです。より現実的に考えていかなければならないとも思っているので、作品を販売していくということも視野に入れ、より魅力的な作品になるように今作っているシリーズの新しい形を考えていきたいです。

 

長谷川 : 今の作品の自分の好きな部分は残しながら、新たなものを取りいれたいと思っています。
電車とか車とか描くのが苦手なので、不得意なものを描いてみたいという気持ちもあります。今は休息やリラックスをテーマにしていますが、もう少し重みがあって自分の中にストンと落ちてくるものがあればいいなと思っています。
ただ、今働きながら絵を描いて少しオーバーワーク状態のところがあり、でも、経済的なこともあるので、どうしたら絵を描き続けるんだろうというのは、すごく考えています。働き方を見直なおすというのが目下の課題かもしれません。

 

榎本 : 6歳と3歳の子供がいるんですけど、今ようやく制作と子育てのバランスが取れてきたと感じています。また、制作面では、イラストレーターとしてのクライアントワークも楽しいのですが、アーティストとしての作家活動を求めてくださる方もいらっしゃり、中途半端に見られているのかもしれないと思っていて、そろそろ覚悟を決めないといけない時期だと考えています。
また、個展も控えているので、いろんな方の助言をいただきながら、やったことのない事にも挑戦していきたいです。

 

インタビュー・文 編集部

 


 

Spinner Markt -Our Gift-
会期:2020年12月22日(火)〜12月27日(日) 11:00-20:00
会場:スパイラルガーデン(スパイラル 1F)
東京都港区南青山5-6-23(東京メトロ 表参道駅B1・B3出口すぐ)
入場料:無料

*COVID-19 の感染拡大状況によってスパイラルの営業時間・開館日程の変更や入場制限を行う場合がございます。当日の営業時間は「スパイラル営業時間のお知らせ」をご確認ください。