SICF10 グランプリアーティスト展
酒井翠 『にっき』
会期: 2009年10月29日(木) – 11月3日(火・祝)
会場: ショウケース(スパイラル1F)
主催: 株式会社ワコールアートセンター
企画制作: スパイラル
コンセプトを逸脱し、自由に踊りだす身体とクレヨン
2009年5月に開催したSICF10でグランプリを獲得した、酒井翠の個展を開催しました。
酒井翠は8月の絵日記を描くため、1日に1箱ずつ使用した12色入りのクレヨン31箱で表現したインスタレーション「えにっき 08/01〜08/31」でグランプリを受賞しました。ピンクのクレヨンばかりが短くなった日、12色が一様に減っている日など、彼女は「残されたクレヨンから、作家が過ごした一日を鑑賞者に想像させる」というコンセプトから制作をスタートしましたが、日々、絵日記を描くという連続した行為を繰り返すうち、いつの間にかクレヨンの上に絵を描いてみたり、連続するクレヨンで物語を語ってみたり…。クレヨンは、コンセプトを置いてきぼりにして一人歩きを始めます。この作品は、「本来のコンセプトが、行為を通じて次第に変容していく」さまを表現しています。SICFでは、色とりどりのクレヨンがリズミカルに配置された作品の美しさに加え、幾層にも重なり鑑賞者を作品世界に引き込む巧妙なコンセプトが高く評価されました。
「えにっき 2009/08/01〜10/31」
本展では、「えにっき 08/01〜08/31」の期間を3か月に延長した発展作である「えにっき 08/01〜10/31」に加え、これまでの作品の中でも作家が注目してきた「声」を扱った新作「こえにっき 08/01〜10/31」を展示しました。「こえにっき」も、「えにっき」と同じく8月1日から10月31日までの92日間にわたって制作されました。毎日録音した作者の声が、会場のさまざまな場所からラジカセを通して、ランダムに流れる作品です。体調やその日の出来事によって日々微妙に異なる作者の「声」。そこに記録されているのは、同じ酒井翠でありながら、92の異なる記憶を内包した異なる人物であるともいえます。連続しているようで、日々異なる作家の「声」はズレながら、また重なりあいながら会場を満たしました。
作家が描いた絵日記の痕跡として残された92箱の「クレヨン」と、カセットテープに録音された92の「声」。この異なるメディアで綴られた92日間が、二つのレイヤーによって立体的に構築されました。また、両作品ともに、展覧会最終日の10月31日に完成するため、予測不能な要素を孕んだまま、制作は会期中もリアルタイムで進行しました。
作家コメント
なにかが連続すること、羅列されることの単純な美しさと魔力や、運動/行為とそのリズムがそれ自身の加速度的/突然変異的なエネルギーにより、そこにあるロジックやルールからずれていく様、逸脱していく様が好きです。本展では、同じようで違い、違うようで同じ92日の間に制作された2つの作品、絵日記を描いた残りのクレヨンとそのルールから逃れていったクレヨンたちの色彩が踊る「えにっき」と、分裂した自己同士とその先に逃げていく自己が織りなすハーモニーから成る「こえにっき」、それぞれのエネルギーを表現します。
「こえにっき 2009/08/01〜10/31」
Profile
酒井翠(さかい みどり)
早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒業。
大学ではサミュエル・ベケット作品を中心に研究。また、在学中より小劇場を中心に役者として活動する。
2004年より役者業と並行して、アーティストとしての活動を開始。ジャンルに囚われず、さまざまな形態の作品を発表している。
【グループ展】
2004年
art-link 2004 (K’s Green Gallery/日暮里)
2005年
Reading Room展 (BankART Studio NYK/横浜)
横浜トリエンナーレ2006 (山下埠頭/横浜) *BOAT PEOPLE Associationとのコラボレーション
北仲OPEN! (北仲WHITE 116号室/横浜) *BOAT PEOPLE Associationとのコラボレーション
2006年
fly! bus! fly! (SUPER DELUXE/六本木)
そこにある水 (RAFT/中野)
2009年
SICF10 (スパイラル/青山)
【その他の展示】
2004年
「ぼくらの記憶は、どこへ消えるのですか?」(於: 東京駅近辺の路上)
「素敵な街をつくるのに、一番大切なものはなんですか?」(解体パフォーマンス/於: 谷中近辺の路上)
2006年
「地球のために、何をしてあげればいいですか?」39art ver. (アートイベント『39artの日』参加)
「願いごとは、どうすれば叶いますか?」(メールアート、個人宅に郵送)
【参考 舞台・映像作品 出演】 (抜粋)
2000年 遊階級第10回公演『トオアサ』主演 (こまばアゴラ劇場/駒場東大前)
2002年 菱沼康介監督『つづく』主演 (第24回ぴあフィルムフェスティバル グランプリ作品)
2003年 劇団 明日図鑑 第18回公演『キッチン』 (ザ・スズナリ/下北沢)
2006年 月刊口遊第7回公演『そこにある水』主演 (RAFT/東中野)
Photo: Katsuhiro Ichikawa