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受賞者一覧

SICF22受賞者一覧

EXHIBITION部門10組と、MARKET部門5組の受賞者を審査員のコメントとともに紹介します。


EXHIBITION

グランプリ

 

張静雯(チャンジンウェン)

 

<作品タイトル>

無音の風景

 

<作品について>

作品は和紙、墨、水干、岩絵具など材料による無機質な風景を描写し、現代人の「孤独」、「記憶」、「コロナの不安感」などの感情を伝えたいと思っています。現在窓と部屋をモチーフにして作品を制作しています。窓の作品を描き始めたきっかけは三木清という作家の言葉に出会ってからです。その言葉は「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのではなく、大勢の人間の「間」にある。」でした。私はそこからインスピレーションを得て、東京のマンションと窓のモチーフを用い、作品を制作しました。窓は私にとって人々の出口と入口を表すものです。そのひとつひとつの窓にストーリがあり、それぞれには記憶、孤独、不安の感情が集まる場所です。そして毎日、見慣れた景色、教室や部屋の隅などの場所では、人がいなくても、見えない記憶や感情が存在していると考えています。さらに、空間の閉鎖的な構図を利用して、物語が溢れるような場面を作りたいと思っています。

 

<受賞コメント>

この度グランプリをいただきまして、誠にありがとうございます。展覧会場では、さまざまな来客と交流し、たくさんのご意見を頂戴しました。文化と言葉を超えて、外国人の私にとっては、貴重な経験をさせていただきました。今後作品制作に精進して参ります。どうぞよろしくお願い致します。

 

<審査員コメント>

■田中みゆき/キュレーター・プロデューサー

チャン ジンウェンさんは、今回の出品作品及び過去作品を含めて、高い評価を得ました。
チャンさんは、「無音の風景」として都市の風景を描写されていますが、人物が描かれないにも関わらず人間の営みが感じられる作品は、コロナ禍においてその不在をより色濃く伝えるものとなっています。輪郭線が特徴的ですが、墨独特の濃淡の揺らぎも、記憶に訴えるような効果を持っていると思います。多くの鑑賞者はそれぞれが過ごした孤独を投影すると思いますが、それを超えてこれからどのような作品をつくっていかれるのか、楽しみにしています。

 

■加藤育子/スパイラル キュレーター

和紙に墨や岩絵具などを用いて、実在するマンションや窓、部屋を描いています。人物のいない、淡々とした筆致が都市の孤独を感じさせる一方、カーテンの揺らぎや洗濯物は個々の生活が確かに存在することを伝えています。階段や室内を描いた近作は、パースのずれがコロナ禍における日常の違和感のように映り、今だからこそ生まれた作品だと感じました。過去に3mを超える大きな作品を制作していたことも空間に対する実績として評価。グランプリ展に向けて、新しい挑戦を期待しています。

 

【略歴】

1979年    台湾生まれ

2002年    国立台湾芸術大学美術学科水墨画専攻卒業

2015年    東海大学大学院美術研究科修了

2020年    多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画研究領域修了

現在    多摩美術大学大学院美術研究科博士後期在籍

 

【主な受賞歴】

2021年    SICF 22 グランプリ

2020年    台南新芸奨

2019年    第37回上野の森美術館大賞展 入選

2019年    ART OLYMPIA 2019 準佳作

2018年    第54回神奈川県美術展 平面立体部門 準大賞

2018年    タケダアート ヘルプ プレークスルー 入選

2013年    桃源美術展 膠彩画部門 入選

2013年    全国美術展 膠彩画部門 入選

2012年    桃源美術展 膠彩画部門 大賞

 

【主な活動】

2021年    台南アートフェア(シャングリ・ラファーイースタン/台湾)

2021年    記憶を構築する風景(月の美術館/台湾)

2021年    FORMOSA展(石川画廊/日本)

2021年    SICF22(スパイラル/日本)

2020年    「裏・外」— 光の風景 (かわべ美術/日本)

2020年    台南新芸奨「参差の平行」(Soka Art. Tainan/台湾)

2020年    未来の博物館(SOKA ART/台湾)

2020年    ART FORMOSA アートフェア(誠品行旅/台湾)

2020年    都美セレクショングループ展2020  東アジア絵画のなかへトランスする「日本画」の可能性(東京都美術館/日本)

2020年    アートアワードトーキョー 丸の内2020(地下行幸ギャラリー/日本)

2020年    掛軸と絵画の未来展(田中八重洲画廊/日本)

2019年    第37回上野の森美術館大賞展(上野の森美術館/日本)

2019年    IAG AWARD 2019(東京芸術劇場/日本)

2019年    何厭之有 (台湾東海大学芸術センター/台湾)

2019年    日本KENZAN 2019 (新宿 Park Tower/台日本)

2019年    蔵と現代美術展 (恵比寿屋/日本)

2019年    高雄漾アートフェア(駁二芸術特区/台湾)

2018年    ACT ART COM アート&デザインフェアー(ACT ART COM/日本)

2018年    第54回神奈川県美術展(神奈川県民ホールギャラリー/日本)

2018年    タケダアート ヘルプ プレークスルー (EKATERINA 文化財団/ロシア)

2018年    日本Independent TOKYO2018 (ヒューリックホール/日本)

2017年    未来の収穫祭(丸亀生涯学習センター/日本)

2015年    懐かしい眷村の味わい眷村美食饗宴 張静雯X賀羽薇(馬祖新村/台湾)

2015年    生活の「窓景」:生活空間、環境とアイデンティティ (芸術銀行/台湾)

2015年     顯 / 隠:このOO世代 (彰化県立美術館/台湾)

2015年    日常・遊走と観察—張静雯創作個展(東海43号創芸実習センター/台湾)

2014年    蘊芸(東海大学芸術センター/台湾)

2014年    LOOP —自覚と自抉の中で(静宜大学芸術センター/台湾)

2013年    日常塵埃(東海43号創芸実習センター/台湾)

2013年    都市漫遊 張静雯個展(東海大学A+芸術空間/台湾)

2013年    全国美展(国立台湾美術館/台湾)

2013年    桃源美術展(桃園市政府文化局/台湾)

2012年    新生2012年東海膠彩画創作展(東海大学芸術センター/台湾)

2012年    桃源美術展(桃園市政府文化局/台湾)

収蔵    台湾文化部芸術銀行

 


 

EXHIBITION

準グランプリ

 

 

柳早苗

 

<作品タイトル>

Au fil du temps  / ときを縫う

 

<作品について>

Au fil du temps / ときを縫う

「時のつながりや時代を越えて受け継がれること」を木と紐を使って表現している。

Au fil du tempsはフランス語で時の流れ、時の重なり、時を越えるという意味の熟語である。Filは縫糸、縫う、Tempsは時間という単語が含まれている。

「時を超える」は、「時を縫う」なのだろうか?

木という素材は、時を経て成長した年輪がある。時の重なりと蓄積が見える。そこに穴を開ける。その穴は、一気に時代をワープして、時を越えていく。
木を縫う。開けた穴に紐を縫っていく。その越えていった時をもう一度思い起こす。
時をワープした幾つもの穴を、下から上へと縫っていく紐は、過去、現在を何度も行き来している。それは、私たちが、後悔して悲しんだり、想い出に浸ったり、過去に思いを馳せたりする日常に似ている。

刃物で穴を切っていく行為は男性的な面を持ち、針で縫う事は女性的である。その両面を持ち合わせ、できていく作品に人と人の関係性から生命が繋がっていく事をも感じる。

今回は少女の頃に出会う感覚を壁面と吊り作品で構成しています。

 

<受賞コメント>

この度は準グランプリを頂きありがとうございます。

多種多様な感覚のアーティストに囲まれ、久しぶりに多くの方とお話ができ、新鮮な時間でした。私はSICFのブース内だけでは終わらない外へと繋がっていく空間イメージで展示しました。その事が審査員の方々や観てくださった方々に想いが繋がって良い結果になった様に思います。更に繋げて続けていきたいと思っています。関係者の方々、皆さまに感謝しております。

 

<審査員コメント>

■大巻伸嗣/美術作家

石彫を主に制作してきた柳さんが、フランス留学を機に制作環境が変わり、日常の中に見つけ出した枝や端切れ(ファウンドオブジェクト)から、物との関係を紡ぐ方法を見つけ出した。ものを創るという行為を、無理やりにつくり出す方法もあるが、ひとつひとつ自分と物との関係を築いていく姿勢を評価した。今回の作品は、お母さんをモチーフにつくりだした作品であるが、肖像の背面から見せていく展示はよかったと思う。しかし表現が少し単調になってしまったところは再考の余地がある。今後作家として様々な空間に挑戦していってほしい。

 

■MIKIKO/演出振付家

“石”から“木”へ、“彫る”から“縫う”へ変化をみせた表現方法は、一貫して時の繋がりを紡ぐことに対する深い想いを感じる事が出来た。
作品を観賞することによって、時空を超えて点と点、記憶と想像が結びついていく体験は、なかなか得難い体験である。
木に紐を通す時、あの頃のお母樣の体の中に潜り込む様な感覚になるのではないか?
作品を裏側から見ることによって作者の制作している空間にワープし、まるで自分もそこに居るかのような感覚に。

 

【略歴】

2002年    東京造形大学彫刻科卒業

2012-2015年    ABA-アトリエ ボザール ヴィルド パリ

 

【主な受賞歴】

2021年    SICF22 準グランプリ

2021年    Brillia Art Award 2021

2020年    15th TAGBOAT AWARD  グランプリ

2020年    KAIKA TOKYO AWARD 入選

2020年    IAG AWARDS 2020 C-DEPOT 賞

2017年    SHIBUYA AWARDS 2017 入選

 

【主な活動】

2021年    Brillia Art Award2021 (東京建物八重洲ビル1階 Brillia Lounge 内「THE GALLERY」)

2021年    アート解放区 EATS日本橋 (日本橋界隈)

2021年    美の精鋭たち2020+1 (川口アトリア)

2021年    Tagboat art fair 2021 (東京都立産業貿易センター 浜松町館3F)

2020年    「Shapes of Element」ARTcolours Exhibition (パークホテル東京)

2020年    個展 オ.フィル.ドゥ.タン・ときを縫う(JINEN GALLERY)

2020年    IAG AWARDS 2020 [ C-DEPOT 賞 ] (東京芸術劇場)

2020年    KAIKA TOKYO AWARD [ノミネート] (THE SHARE HOTELS  KAIKA TOKYO)

2020年    15th TAGBOAT AWARD [グランプリ] (渋谷ヒカリエ)

2020年    個展 オ.フィル.ドゥ.タン・ときを縫う(Gallery Pepin)

2020年    アート解放区 GINZA CANBIRTH (銀座髙木ビル〔旧有賀写真館ビル〕)

2019年    アート解放区 DAIKANYAMA (TENOHA代官山)

2019年    Poissons Volants (アトリエ6b/パリ)

2019年    間の祭り(常陸國総社宮/茨城)

2017年    SHIBUYA AWARDS 渋谷芸術祭(渋谷駅構内)

2016年    8éme Le Génie des jardins – Biennale Internationale d’Art Contemporain(Square de la Roquette/パリ)

2016年    Grand Marché d’Art Contemporain(Place de la Bastille/パリ)

2015年    DANDANS Une nouvelle génération d’artistes japonais(Gallery BOA/パリ)

2015年    Unbekannte Wesen#2( Super bien/ベルリン)


EXHIBITION

 準グランプリ

 

 

寺澤季恵

 

<作品タイトル>
Another sky #2

 

<作品について>

チェルノブイリにある遊園地に興味を持った。それは一度も開園することなく、廃墟になってしまった。遊園地を「夢の国」と呼ぶことがあるが、立ち入り制限区域となってしまった今、この遊園地で遊ぶこと自体が夢のままとなってしまったのである。人は見えないものに殺され、町から人が消え、人工物は朽ちていった一方、あらゆる植物や動物は汚染されながらも繁栄しており、そこは動植物たちにとってのユートピアと呼ばれるまでになっていた。
その地で起きたことも、街の廃墟も、ユートピアも、かつて遊園地が存在するくらいの人口であったことも、知れば知るほど私にとって全て現実味のないことのように思えた。
現実、虚構、現実のような夢、夢のような現実が交錯し、私の中で見分けがつかないくらい混乱する不気味な感覚になったからだ。
いろんなものが錆びて朽ちていく一方、自然が生き生きと美しくなっていく。同じ地で二つのベクトルが同時に存在しているのが不思議だった。そのベクトルが逆に互いに交わろうしたらどうか。そうすれば新しい世界ようなものができるのではないかと思った。
人工物と自然、現実と虚構という、白黒はっきりとしたコントラストがあるよりもむしろ白と黒の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような世界。それがその感覚に近いかもしれないと思う。
廃墟、コントラスト、生きること、死ぬこと、朽ちていくこと、人体、変異する生態系、人工物と自然、楽園、自然淘汰、、、、既存のイメージと私自身の祈りをコラージュのように組み合わせて新しいイメージを構築していき、立体のドローイングとして表す。

 

<受賞コメント>

このような賞をいただき大変嬉しく思っております。あらゆるジャンルのクリエイターの方々と共に展示させていただいたことや、作品を見てくださった方々の意見や反応から、自分の扱う素材に対する意識や意味を改めて考えさせられました。関係者の皆様、協力していただいた皆様、このような状況の中でご来場いただいた皆様に感謝申し上げます。

 

 

<審査員コメント>

■大巻伸嗣/美術作家

ガラスと金属がうまく構成された作品であった。特に、金属の強さではなく、金属で作れる繊細な表現とガラスが持つ艶やかさのコントラストをうまくマッチングさせ、生かされていたと思う。コンセプトの出所に少し疑問を感じた。もう少し社会の中でリサーチを深め、その中から形を構成させていけると、より一層強い表現になっていくと思う。他の作品を見させてもらったが、ものをつくっていく力のある作家であると感じた。今後の活躍を期待したい。

 

■保坂健二朗/ 滋賀県立美術館ディレクター(館長)

廃材としての鉄、ガラス、風船のゴム、様々な素材が、寺澤の手によって組み合わされることで、ひとつの生命体のようになっている。それは動物のようでもあれば植物のようでもある。動く植物と動かない動物の中間的存在とでもいえばよいか。寺澤は、照明を含む展示空間に対して極めて意識的であったが、この作品は、たとえば全く異なる照明のもとでは、別の表情を持つことになるだろう。その意味でも、生命体的な存在と確かになっている。

 

【略歴】
1997年    静岡県生まれ
2020年    多摩美術大学工芸学科ガラスプログラム 卒業
2021年    富山ガラス造形研究所 在籍

 

【主な受賞歴】
2021年    SICF22 準グランプリ

 

【主な活動】
2021年    SICF22(スパイラル/東京)
2020年    「ひとて」(スパイラル/東京)
2019年    「glass! glass! Glass!」(みなとみらいギャラリー/神奈川)

 


EXHIBITION

大巻伸嗣賞

 

安永佳織

 

<作品タイトル>

浮寝島

 

<作品について>

これは失われたものたちの物語です。
失われたもの、失われつつあるもの、失われるであろうもの。
遠い昔に失われたもの、昨日失われたもの、今夜失われつつあり明日の朝までにはすっかり失われてしまうもの。
あなたが失ったもの、私が失いつつあるもの。
けれどこの物語の中では何も終わりません。
これは失われたものたちの物語であり、ものを失うことについての物語ではありません。

私の意識の中に存在する故郷、祖国の像があります。それは確かに私の見た日本、私や祖母の生きた日本の記憶でありながら、今日実際に地球上に存在する日本という国とは既にかけ離れたものであるように感じます。急速に私の中で失われ行きつつある祖国の心象を、何かの形で留めておく必要があると感じ、このアニメーション作品を制作しました。この作品の中に存在する島は私にとって一つの墓であり、また新たな生命の誕生する場所でもあります。

 

<受賞コメント>

この度このような賞を頂けましたこと、大変嬉しく光栄に思っております。日本で生活し始めてまだ日が浅く、知らないことばかりの生活の中で、初めてこのようなイベントに参加させて頂き、大きな志と強い姿勢で作品制作を続けていらっしゃるたくさんの刺激的な方々とお会いでき、作品を共有する機会をいただけて、とても触発されたと共に大きな励みになりました。今回改めて強く感じた作品を作り続けることの重要さ、また共有しあうことの喜びを忘れずに、これからも精進してまいりたいと思います。どうもありがとうございました。

 

<審査員コメント>

■大巻伸嗣/美術作家
アメリカに住んでいたときに、日常生活の中に飛び込んでくるメディアからの日本の様々な情報が、彼女の中で解釈され、そこで想像された日本、故郷としての日本への想いがアニメーションの中に表現されているところがとても面白かった。
作者の奥底にある仮想的な日本が創りあげていかれるプロセスが大変興味深く感じた。芸術の純粋な面に触れたような気がする。コロナ禍の中において、私たちが何かに触れたいと思う距離、その願いが、仮想的な自己内に生まれてくるリアリティとしてあらわされていて、今の時代を表現していると感じた。今後は、作品としてのインスタレーションをしっかりと考え、より訴えかけられるような展示を目指して欲しい。
【略歴】

1998年    東京生まれ
2021年    米国ロード・アイランド・スクール・オブ・デザインを卒業(学士:フィルム・アニメーション・ビデオ)

 

【主な受賞歴】

ローマ国際短編映画祭:最優秀アニメーション賞
ニューヨーク・インディペンデント・シネマ・アワード:最優秀アニメーション賞
ニューウェーブ短編映画祭:最優秀アニメーション賞

 

【主な活動】

2021年    東京国際短編映画祭
2021年   ソウル国際短編映画祭
2021年   ローマ国際短編映画祭
2021年   カンヌインディペンデント短編映画祭
2021年   ニューヨークインディペンデントシネマアワード
2021年   モントリオールインディペンデント短編映画祭 などで作品上映

イメージフォーラム
2020年    100人の映像作家にノミネート   イメージフォーラム ・ヤングパースペクティブ 作品上映

 


 

EXHIBITION

田中みゆき賞

 

み水さん

 

<作品タイトル>
等しい風景

*正面作品

 

<作品について>
正面の作品は「体毛の醜さ以外の可能性」を提示したいという考えと「目の前にある自然」を慈しむ気持ちから、体毛、草木、星を同質な線で描いています。また、自然の中でも特に湿原や沼、水田などの普段の暮らしからは見えにくい「湿地」にまつわる文化や動植物を目に見える形で表現する事について考えており、池にはスイレン科のネムロコウホネを描きました。
体毛については、今日は赤い服を着よう、いや、青い服を着ようかな、といったように毛のあるなしが気軽な選択になればいいなと思っています。体毛に対する美意識を少し拡張するだけで単に一部の人のストレスを減らすだけではなく、毛を処理するための様々な消耗品が減るのではないかと考えたからでした。体毛にある可能性を楽しむだけで環境への負荷が少しでも減るのなら、私は体毛の面白さや魅力的な一面を探し表現し続けたい。体毛について見逃されてきた、忘れられた、あるいは新たな価値観を沢山発掘できたらなと思っています。
ブース側面には関連する作品として、「線」での人物表現の可能性を感じ描いてきたもの、ゴミを支持体に絵を描くことで未来に宛てた手紙(現代の生活様式の記録)としての役割を持たせたものを展示していました。

 

<受賞コメント>
この度は田中みゆきさんの審査員賞を頂くことができ大変感謝しております。なによりも発表の機会をまた頂けたという事がとても嬉しいです!体毛と湿地、ゴミを使用した作品など、より魅力的に表現できるよう学びと制作を進めてまいります。
緊急事態宣言下にもかかわらず足を運んで下さった皆様、展示準備を進めて下さった関係者、審査員の皆様、そして素敵な作品を見せて下さった出展者の皆様、本当にありがとうございました。

 

<審査員コメント>

■田中みゆき/キュレーター・プロデューサー

私がみ水さんを選んだのは、美術的な観点というより、彼女の目線に惹かれたからです。
体毛と湿地を地続きのものととらえている彼女は、コロナなどどこ吹く風というように、遠くを見ているように感じました。海外では社会規範への抵抗として女性が体毛を剃らない流れもある一方で、この国の体毛処理への観念は強迫的でさえあります。み水さんの作風はそのような政治性とはかけ離れて見えますが、体毛、自然、ゴミといったみ水さんの関心がゆるやかにつながって、弱い力で誰かにそっと寄り添ってくれる作品を生み出していくことを願っています。

 

【略歴】
1995年    春に生まれました
2001年    母の死がきっかけで台湾の台北へ5年ほど移住、日本人学校に通う
2006年    東京帰国
2014年    東京都立工芸高校アートクラフト科卒業
2019年    武蔵野美術大学彫刻学科卒業
2019年    湿原に憧れ北海道へ移住

 

【主な受賞歴】

2021年    SICF22 田中みゆき賞 受賞

2017年    independent台北 張國權賞 受賞

 

【主な活動】

2021年    SICF22(スパイラル/東京)

2017年    independent台北(台北松山文創園区/台湾)

2015年    ハタチ ノ カタチ(LUSH LIFE daikanyama/東京)

2015年    小平アートサイト2015(鷹の台公園/東京)

2014年    小平アートサイト2014(小平市立中央公園/東京)


EXHIBITION

保坂健二朗賞

 

西村祐美

 

<作品タイトル>

untitled (#0520/#0221/#0821/#0921)

 

<作品について>
私は学校や仕事を通じて、情報デザインや映像制作などの分野で活動してきました。すべてがデータに依存したどこか実体のない制作を続けるうちに、もっと本質的な素材に立ち返りたい、自分の指で何かを形にしたいという気持ちが高まり、その手段を模索する中で独学で手織りを始めました。身につける布・生活の布として工芸的イメージのある手織り布ですが、自分なりのプロセスを経ることで物質化・立体化させ、アート作品に展開しています。

このシリーズでは、自らが手織りした線を別の素材(絵具)で辿り直すということをしています。織り作業をした過去の自分、塗り作業をする現在の自分、目の前にある素材、その三者間で各々の個性を見い出し、補い合うといったインタラクティブな対話が行われています。
通常、思考や感情を伴ってネガティブなものになりがちな”自己反芻”ですが、この手法における「自身による痕跡があり、それを消化/昇華させていく」という点には、ポジティブな意味合いでの”反芻”があり、自己肯定的であると言えます。そしてそれは自分にとって、なぜ作品を作るのかという根本的な問いに応える一つの視点であると捉えています。

 

<受賞コメント>

お世話になった皆様、審査員・関係者の皆様へ御礼申し上げます。
アートを作るということに向き合い直してからのこの数年は、言わば自作のボートで沖に出たような日々でした。不安定な海の上で様々な出会いや体験、教訓がありました。今後も波に揉まれながら、自分なりの海の漂い方、自分と海との関係、人はなぜ海に魅了されるのか?といったようなことを見つめてさらに豊かな旅をしていけたらと思います。

 

<審査員コメント>
■保坂健二朗/ 滋賀県立美術館ディレクター(館長)

手織りの布に一種の溝をつくり、その溝にアクリル絵具が入っている。また、作品によっては支持体に様々な段が設けられている。その結果、単なる抽象画=平面ではなくて立体の性格をあわせ持つと同時に、翻って、素材自体が本来持っている三次元性が際立たつ魅力的な作品となっている。その一方で、西村は、糸を染める際に、精神性を帯びがちな天然染料は用いないという。つまり彼女の作品の特徴は、ドライなフォーマリズムとテキスタイルとが融合して発展した点にある。テキスタイルといえば、ジェンダー、コミュニティ、エスニシティといった問題を取り扱うのが通常の中で、その潔さは際だっていた。

 

【略歴】
1984年    福岡生まれ
2007年    多摩美術大学 美術学部 情報デザイン学科 卒業

 

【主な受賞歴】
2021年    SICF22 保坂健二朗賞
2021年    Arte Laguna Prize 15 ファイナリスト
2019年    Independent Tokyo 2019 武石太郎賞・石橋高基賞

 

【主な活動】
2022年    iwao gallery 個展(東京)
2021年    Arte Laguna Prize 15 (イタリア)
2021年    SICF22 (東京)
2021年    Caudan Arts Centre (モーリシャス)
2019年    Independent Tokyo 2019 (東京)

 


 

EXHIBITION

MIKIKO賞

野村仁衣那

 

<作品タイトル>

Life Through Holes

 

<作品について>

本作品は、プラスチック製品の表面を微細な穴で埋め尽くし、生み出されたものです。

プラスチックという素材は、環境問題において注目を浴び、疎ましく思われつつある存在です。

しかし制作を経て、プラスチックの纏う光の反射や、熱により変形した姿の儚さを見て素材に生命感を見出し、不思議な愛着が芽生える可能性を秘めていることを知りました。

そしてこの膨大且つ繊細な作業に没頭しました。

安価で容易く手に入る大量生産品は、刹那的に消費するだけでなく、手間をかけて長く愛でる対象として見つめることも出来るはずです。

顧みられなかった日用品にかけがえのない美を見出すという発想は、じつは民藝運動にもつながっています。

プラスチックが宿す光の細胞は、現代の私たちの暮らしに潜む価値を照らし出しているようです。

すぐ手に入り、すぐ捨てられる生活は本当に豊かなのでしょうか。

モノと人の関わり方における真の豊かさとは何なのでしょうか。

それを自身に問い続けるように、今日も穴を開けずにはいられないのです。

 

<受賞コメント>

開催に向けて尽力してくださった関係者の皆様、審査員の皆様に御礼申し上げます。

初めての学外展示であるSICF22という場で、自身にどのような表現が出来るか模索しながらの展示でしたが、今回このような名誉ある賞をいただけて、大変光栄です。

ブース形式の会場で、多くの方と作品を前にコミュニケーションをとれたこと、出展者の方々から沢山の刺激を受けたことは他所では得難い経験だと思っております。今回の経験を糧に、制作を続けて参ります。

 

<審査員コメント>

■MIKIKO/演出振付家​
世の中に溢れかえり問題視されているプラスティック製品の表面を微細な穴で埋め尽くし光を投射することにより、
“再生”させたこの作品は、物の見方を変えることにより新たな物語を紡ぎ出している様に感じられた。廃棄物とされているモノたちが光の粒となって浮かびあがり美しく生まれ変わった空間で、
どのようにストーリーが始まり、どのような音楽が流れ、どのように身体が関わっていくと面白いか?舞台美術としての可能性を感じることもでき、今後の活動の展開にも期待したい。

 

【略歴】

1993年    東京都生まれ

2015年    國學院大學文学部日本文学科 卒業

2021年    桑沢デザイン研究所昼間部スペースデザイン科卒業

 

【主な受賞歴】

2021年    SICF22 MIKIKO賞

2019年    桑沢祭ファッションショー 津村耕佑賞

 

【主な活動】

2021年    SICF22 出展


EXHIBITION

スパイラル奨励賞

 

古屋真美

 

<作品タイトル>

愛着の終着点

 

<作品について>

きちんとした襟と深いポケットのついたその服を、わたしは、ヒロインになれるワンピースと呼んだ。
この服に対する愛着は執着に似ている。その終着点を見つけたくて、版画での表現を試みる。
リトグラフはアルミ版に直接描画した線を、化学反応で版に起こし紙に刷りとる技法である。
版を介して間接的に表現することで、作品と作者の間に距離が生まれる。
印刷物として軽くなったその服は、複製された版画作品である。それでもなお 個人的感情を切り離せないでいる。
わたしは、このワンピースを繰り返し モチーフとして描くことにした。
モチーフとなった衣服と、版となって展示された衣服、再び身につけられた版画の衣服。
それぞれに刻まれるきずや汚れは、全く同じと成り得るのか。
どれほど版に描き、どれほど紙に刷りとっても 複製できない出来事を わたしはずっと身につけていたいと思う。

 

<受賞コメント>
どこか所在ない感覚のある日々の近くで、衣服は、それぞれの出来事を内包しています。
限られた時間、与えられた小さなブースの中で、わたしにできることを考えました。
最も身近で寡黙な他者と向き合うことで、いま、必要な距離やコミュニケーションの方法がわかるような気がしています。
どれだけ恐ろしくても、生活が続くこと。人々が、外に出るために装う行為を 愛おしく思っています。
本当に、ありがとうございました!

 

<審査員コメント>

■加藤育子/スパイラル キュレーター

服に対する並々ならぬ深い愛着。その感情を、およそ等身大の版に起こし、新たな距離を持って再生・増幅しています。複製でありながら各々表情が異なるリトグラフの特性は、大量生産された服に込められた個々人の思いや関わりを彷彿とさせます。スパイラルはファッションとの親和性が高く、協業などの可能性も含めて奨励賞として選びました。タイトルに「終着点」とありますが、作品内で完結させずに、見る人との関係性をどうつくっていくか、空間・展示への発展性を期待しています。

 

【略歴】
1994年    山梨県生まれ
2018年    武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科 版画専攻 卒業
2020年    武蔵野美術大学 大学院 造形研究科 修士課程 美術専攻 版画コース 修了
2021年    版画工房「LITTLE PRESS STUDIO」オープン

 

【主な受賞歴】

2021年    SICF22 スパイラル奨励賞

2020年    令和元年度 武蔵野美術大学修了制作展 研究室賞

2019年    第44回全国大学版画展 優秀賞

2019年    TOKYO MIDTOWN AWARD 2019 アートコンペ 優秀賞

2018年    平成29年度武蔵野美術大学卒業制作展 研究室賞

 

【主な活動】
2021年     違和感を身につける(LITTLE PRESS STUDIO/東京)
2021年    ミッドパーク こいのぼりギャラリー(東京ミッドタウン)
2021年    START ART PRINT(+ART GALLERY 渋谷スクランブルスクエア)
2021年    SICF22(スパイラル)
2020年    武蔵野美術大学修了制作展、五美術大学連合卒業・修了制作展(国立新美術館)
2020年    Street Museum TOKYO MIDTOWN(東京ミッドタウン)
2020年    COVID-19 Support Project By Dear Art Online Exhibition Ed.1#STAYHOME(オンライン展覧会)
2019年    アートを遊ぶみんなの展覧会(羽村市生涯学習センターゆとろぎ)
2019年    TOKYO MIDTOWN AWARD 2019(東京ミッドタウン)
2019年    第44回全国大学版画展(町田市立国際版画美術館)
2018年    武蔵野美術大学卒業制作展、五美術大学連合卒業・修了制作展(国立新美術館)
2018年    古屋真美 展(JINEN GALLERY/東京)
2018年    International Lithography Days/Münchner Künstlerhaus(ドイツ)


 

EXHIBITION

ワコールスタディホール京都奨励賞

 

門田千明

 

<作品タイトル>
Portrait of my friends

 

<作品について>

白樺の木は私の大切な人、つまり友人です。
ひとりっ子で時間がたっぷりとあった子供の頃の私に寄り添い、時には遊び相手となり、見守ってくれたのが白樺の木たちでした。
帰省する度に彼らに会える事が私の喜びです。
彼らは佇まいや表情を通して「おかえりなさい」「大丈夫?」「じっとしてられないよ」など言葉をひっそりと私に呟いてくれます。
その彼らの美しい立ち姿や表情の中に彼らの感情を重ね、ポートレイトとして表現致しました。
コロナ禍で暫く彼らに会え無かったことも、より白樺への思いが一層強くなった一因かもしれません。

 

<受賞コメント>
大変嬉しく思います。
絵画表現を始め、初めての出展でしたので開催日まで不安もありましたが様々なクリエイターの方の表現や熱量に触れられた事、
アート関係の方やご来場者の皆様に直接出会い、ご意見頂けました事、とても貴重な経験をさせて頂きました。
今後の自身の成長の糧とし今後とも精進を重ねて参りたく思う次第です。

 

<審査員コメント>

■ワコールスタディホール京都

筆致の新鮮さと共に、絵を描くという行為と個人が持つ詩情の合致が心地よいです。

 

【略歴】
1983年    北海道生まれ。
服飾大学卒業後、アパレル職を経てイラストレーターを経て
2021年より表現活動を始める。

 

【主な受賞歴】
SICF22 ワコールスタディホール京都奨励賞

 

【主な活動】

2021年    葉山芸術祭
2021年    SICF22

EXHIBITION

オーディエンス賞

 

銀色なつみ

 

<作品タイトル>

りろおど-reload-

 

<作品について>

見えないもどかしさを脳が補完しようと、持ち合わせている記憶と照合し、写るものの正体を再読み込みする行為を表現した。
地下鉄に乗っていたら、私のスマホ画面が電波障害により全てローディング状態になった。ファッション、グルメ、可愛らしい猫だってこの状況に陥ればSNSで正しく共有することさえ難しい。しかしかろうじて、「服」「食べ物」「動物」の区別はついた。何をもってそう認識したのだろうか?と私は自分の視覚を疑った。
この体験を再現するべく、不要な紙袋を切り刻んで作成した花のモチーフに、すりガラスの様な半透明の板を一枚挟むことで、見る人がゴミ(正体)から花(認識)へと視覚の補完をする状況を作り出した。
-制作プロセス-
友人から不要だけれど捨てられずにいるブランドものの紙袋を回収
→解体し、ハサミで切り刻む(ゴミ生産)
→私自身が花と認識できる程度の花の形に並べる(花生産)
→すりガラスを挟む。袋かもしれないと推測できそうな点や、組み立ての乱雑さを曖昧化(視野の統一化)
→撮影し結果を記録

 

<受賞コメント>

このご時世で一体誰が会場まで来てくれるのだろう。
応募を躊躇しつつも出展に挑戦し、不安を抱えたまま駆け抜けた4日間でした。
会期終了後、いつものようにカーペットに寝転んで猫でも揉むか〜と思っていたら友人からのLINEで受賞を知りました。抱えたままだった漠然とした不安が、「オーディエンス賞」を頂けたことで、ただただ参加して良かったという爽快な後味へと変わりました。それだけではなく、展示をして誰かに見ていただくことには、やはり大きな意味があると再認識しました。皆様のおかげで頂けた賞だからこそ、です。
立ち止まってお話を聞いてくださった方、
嬉しいお言葉、厳しいお言葉をくださった方、
関係者の皆様、参加作家の皆様、
この度は誠にありがとうございました。
今後も銀色なつみの作品を心待ちにしていただけるよう、写真を用いた視覚表現を続けて参ります。

 

【略歴】

石川県生まれ東京育ち
日本大学藝術学部写真学科 卒業

 

【主な受賞歴】

全国総合写真展 優秀賞
神奈川県美術展 入選
日芸×Moleskin コンペティション 優秀賞
日芸卒業制作展 奨励賞

 

【主な活動】
2019年    個展nero展(uzna omom)
2018年    選抜展GRIP(四谷ポートレートギャラリー)
2017年    Fotochrome Camera グループ展(Paper Pool)
2017年    T3フォトフェスティバル参加

 


MARKET

グランプリ

 

岩江圭祐

 

<作品タイトル>

うねうねキーホルダー/ SUSAB/ AgingWatch/ 蓋猪口

 

<作品について>

“金属と戯れる”をテーマに、素材に触れることの面白さや驚き、時折みせる変化をじっと静かに観察しながら、機能的側面だけに囚われない日用品を制作。日常と地続きのちょっと可笑しい存在として生活に溶け込んでいくことを目指している。
『うねうねキーホルダー』硬くて強い一面を持つ金属の有機性を探った商品。棒状の金属を熱し続けると、融点を向かえる直前にぐにゃりと曲がり、冷えるとその変化を保ったまま硬化する。その一瞬の表情を閉じ込めた。
『Aging Watch』針も文字盤もない、金属盤の経年変化を通して時間の流れを可視化する腕時計。身に纏うほどに変化するその表情の移り変わりに、歳月の積み重ねを実感する。数字では計れない質的な時間を記憶する。
『蓋猪口』幼少期、ペットボトルの蓋に注いで飲むジュースはなぜか特別おいしい気がした。あのわくわくした体験を手繰り寄せるように、実物の蓋から型を取り、錫で仕上げたお猪口。
『SUSAB』“触れる”ことが贅沢になった現代における、手を慰めるための嗜好品。金属の重さや温度、匂いを通して感覚が刺激され、からだに馴染ませていくことで生まれる独特の心地よさを味わいながら、使い手だけの楽しみを見つけて欲しい。

 

<受賞コメント>

この度は、新設のMARKET部門でのグランプリという大変名誉ある賞を頂き、ありがとうございました。生活とアートの融合をテーマに、役に立つとはどういうことか、使えるとは何によって決まるのか、この先も長く使えるものなのか、本当に求められるものは何なのかなど、改めて自分の作品を見つめ直すところから取り組みました。今回の受賞をこれからの活動の大きな糧とし、より多くの方の心に響く商品を届けられるよう精進してまいります。

 

<審査員コメント>

■川渕恵理子/合同会社文化星人 代表

真鍮や銅の経年変化から歳月の積み重ねを感じさせる文字盤のない時計、使いかけの石鹸のかたちをしたオブジェ––これらにいわゆる実用性はありませんが、それを手にすることで日常に小さな変化や愉しみをもたらしてくれる、そんなモノが持つ力を感じさせてくれる作品でした。まず「何をつくるか?」という設定の秀逸さ、それを高い精度で仕上げる制作力、この両輪によって「アートと生活の融合」というテーマに対するひとつの答えを見せてくれました。

 

■鈴木マサル/テキスタイルデザイナー

物理的に役に立つものばかりが便利で、必要なものという訳では無いという作者の強いメッセージを感じました。
そして実際に、気持ちに寄り添って存在するようなたたずまいに心惹かれたのでした。
明確な用途が無いようであるような、あるようで無いような。それでいてプロダクトとしてちゃんと成立しているのはパッケージも手を抜かずに提示されているなど、難しいメッセージを伝えようとする真摯な姿勢があったからではないかと思います。
用と心のバランスが絶妙な塩梅で成立した仕事を高く評価しました。

 

■林口砂里/有限会社エピファニーワークス代表取締役・一般社団法人富山県西部観光社 水と匠 プロデューサー

岩江さんの「SUSAB」に一目惚れ。私は富山県高岡市という金属工芸の盛んな町に暮らしているので、普段から金属作品は見慣れていますが、岩江さんのアルミの質感は新鮮でした。使って小さくなっていく石鹸をモチーフにした時間の経過と、独特のアルミのエイジングの具合がシンクロしています。石ころ、貝殻、鳥の羽…自然の中からつい拾ってきてしまうような愛おしく美しいもの。用途は特にないけれど、共に暮らす喜びが得られることが、このプロダクトの大きな魅力だと思います。

 

■西村直子/スパイラル 販売部物販課商品担当チーフ

「これは間違えなく何か秘めている」と一見して感じさせる、密やかななかに力強さと温かさを感じさせる作品シリーズでした。作品にかける細やかで膨大な加工工程はひっそりと脇に置き、届けたい想いと真摯に向き合っている様子が浮かびます。機能性はない、でも使い手のことをじっくりと考えた作品たちから感じた、今の時代が求め必要としている感性と確かな技術力を評価させていただきました。グランプリ展の開催、共に頑張りましょう!

 

【略歴】

1987年    東京生まれ
2014年    多摩美術大学大学院 工芸学科 博士前期課程修了

 

【主な活動】
個展
2020年    formation(ギャラリーイロ/東京)
2018年    使えない貯金箱(ギャラリーイロ/東京)
2017年    WINE WORKS(WINE WORKS/東京)
2016年    Sing (Gallery Q/東京)
2015年    金属ノスタルジア (gallery 元町/横浜)
グループ展・企画展
2021年    sign of existence(s +arts/東京)
2020年    Meet a new art ※作品提供(銀座蔦屋書店/東京)
2019年    ART / ARTISAN / KYOTO from PARCO(RAURAUJI Gallery/京都)
2018年    PARCO の KYOTO 展(PARCO IKEBUKURO/東京)
2017年    交差展vol.10(CROCO ART FACTORY/横浜)
2016年    Shonandai Project WILL(s +arts/東京)


MARKET

川渕恵理子賞・ベストセールス賞

harunasugie

 

<作品タイトル>

harunasugie jewelry SHIBOU series / HIFU series

 

<作品について>

オブジェを身に纏うようなガラスジュエリーを展開。

ガラスの成形技法の一種で、バーナーの炎によってガラスを熔融し 成形するバーナーワークという技法で、 型を使用せず一点一点手作業で制作しています。

SHIBOU series

身体の中の肉や脂肪は、身体の中で醜いものとして捉えられることが多いと感じています。 これを美しいガラスで表現し、身体に武装するように、ジュエリーとして身に纏うことにより、 ”こうあるべき”とされている世の中の価値観から自分の身体と精神を解き放つことを目指したシリーズです。リング、バングルとして展開。

HIFU series

身体の1番外側を覆っている皮膚は、構造上、外の世界から物理的に自分の身を守っており、 それは身体と世界の境界となるものだと考えます。 しかし、心という、目に見えない存在は物理的に守ることができない。 この心を覆う為の皮膚として、薄いガラスのジュエリーを身に纏うことにより、 外の世界と自分の心の間に硬い境界をつくり、世の中の様々な攻撃から自分の心を守るということを表現したシリーズです 。イヤーカフとして展開。

 

<受賞コメント>

初めに、このような状況下でSICF22を無事に開催して頂いたスパイラルのスタッフ並びに審査員の皆様、またお越し頂いた皆様に感謝申し上げます。

この度は2つもの賞に選出して頂き、大変光栄に思います。

自分と向き合い形にしてきたものを、コンセプトや機能面含めて評価して頂いたことで、過去の自分が少し報われたような、制作を続けていて良かったと思えるようなきっかけとなりました。今後もより精進して参ります。

 

<審査員コメント>

■川渕恵理子/合同会社文化星人 代表

ふだんは醜く忌むべき対象とされている脂肪を美しいガラスのジュエリーに変換させることで、自身の身体を社会の価値観から解き放つというコンセプトには、個人的なストーリーを出発点としながら、多くの人々の共感を呼ぶ強さがありました。バーナーワークによる整えすぎない絶妙なフォルム、それでいてジュエリーとしてのつけ心地に優れていることや、展示空間の世界観が一貫しているところも評価のポイントです。

 

【略歴】

1997年    愛知県生まれ

2019年    Khan Glass Worksにて酸素バーナーワークを開始

2021年    武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科ガラス専攻在籍

 

【主な受賞歴】

2021年     SICF22 MARKET部門 川渕恵理子賞 /ベストセールス賞

 

【主な活動】

2021年    MIONA SHIMIZU × HARUNA SUGIE EXHIBITION 「透き間」((PLACE) by method / CIRCLE/東京)

2021年    コラボレーション企画 Lautashi ×harunasugie「Lautashi 0007 collection」

2021年    SICF22 MARKET部門(スパイラルホール/東京)

2021年    harunasugie POP UP (渋谷PARCOニュースタア渋谷店/東京)

2021年    Art collective半睡夢「ハレのケvol.1」 (ZaLoud house/神奈川)

2020年    harunasugie POP UP (福岡PARCOニュースタア福岡店/福岡)

2020年    コラボレーション企画 Lautashi × harunasugie「Bone collection」

2020年    POP UP ネオ縁日出展 (表参道COMMUNE/東京)

2020年    POP UP RAW TOKYO出展 (表参道COMMUNE/東京)

2019年    POP UP VLOOKMARKET出展 (新宿NEWoMan/東京)

 


MARKET

鈴木マサル

 

古川礼規

 

<作品タイトル>

PAPER SKIN

 

<作品について>

PAPER SKIN(色動紙)はレーザーカッターによって緻密に切り出された小さな紙のパーツを糸で束ねた新しい構造体。紙1枚ではあまり意識しないが紙には厚みがあり、そこには色がついている。それが幾重にも重なることではっきりと色面として現れ、その ”積層面” が持つ機能性と魅力を模索し、試行錯誤を繰り返しながら現在はシート状の構造を制作している。互いにずれ合う紙の積層面はとても滑らかな肌触りを持ち、単純でアナログな機構でありながらCGのような美しい色のグラデーションを発生させる。

 

<受賞コメント>

このような賞を頂き大変光栄です。そして親切にサポートして下さったスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。展示にお越し下さった方々には貴重なご感想ご意見頂き、作品の強みと弱点を再認識し、身の引き締まる機会となりました。用途は一体何なのか、プロダクトなのかオブジェなのか、私自身迷走しながら進めている作品です。その答えをいつか出せるよう、また制作を続けたいと思います。

 

<審査員コメント>

■鈴木マサル/テキスタイルデザイナー

そもそもこれはジャンルも含めて一体何なのか、実はいまだに私の中でフワッとしているのですが、見たことのないテクスチャーや色の美しさに心を奪われました。

素材は紙ですが、タテ糸とヨコ糸を思わせる構造はまるでテキスタイルのように変幻自在に形を変え、様々な用途を想起させます。

作者も着地点を明確に定めてはいないようでしたが、おそらく彼自身もこのマテリアルの美しさや面白さに心奪われ、膨大な時間と手間をかけてのめり込んでいるのだと思います。

美しい色の積層と触感が人の心に作用し、寄り添うような可変性が様々な可能性を示唆する美しいプロダクトだと思います。

 

【略歴】
1991年    北海道生まれ
2015年    多摩美術大学プロダクトデザイン専攻 卒業
2018年    多摩美術大学プロダクトデザイン研究室 副手 退任 タイのチェンマイに移住
2020年    帰国、現在は東京を拠点に活動中

 

【主な受賞歴】

2021年    サンスター文房具アイデアコンテスト 優秀賞 (グループ応募)
2020年    DESIGNART TOKYO 2020 UNDER-30選出
2018年    LEXUS  DESIGN AWARD  ファイナリスト

 

【主な活動】

2020年    DESIGNART TOKYO 2020(文喫 /六本木)
2020年    Bangkok Design week 2020   (Bangkok, Thailand)
2019年    Chiang Mai Design week 2019   (Chiang Mai, Thailand)
2019年    Bangkok Design week 2019   (Bangkok, Thailand)
2018年    Chiang Mai Design Week 2018   (Chiang Mai, Thailand)

2018年    Designers’ Saturday 2018    (Langenthal, Switzerland)
2018年    European textiles fair MoOD   (Brussels, Belgium)
2018年    Surface design show 2018, Business Design Centre  (London, United Kingdom)
2018年    LEXUS DESIGN EVENT「LIMITLESS CO-EXISTENCE」, Milan Design Week 2018


MARKET

林口砂里賞

 

中村圭

 

<作品について>

竹の美しさが伝わるような “シンプルで力強いもの造り” を目指しています。
私の学んだ別府竹細工は「編みの多様さ」が大きな特徴ですが、「編み」ではなく、もっと「竹という素材そのものの美しさ」を活かすような作品を作りたいと思うようになり、「編まない竹細工」が生まれました。
編まない竹細工を制作していると、逆に “竹細工がなぜ編んでいるか”、という、当たり前なのにそれまで意識しなかった事に気付かされます。構造的にも強度面においても必要なことでした。
中々思った通りに制作できず、理にかなっていないことをしていると思います。ですがそれは承知の上で、その中でできる限り、現代の生活に取り入れやすく、強度や使いやすさもある作品を生み出していきたい、と模索しながら製作しています。

 

<受賞コメント>
この度はこのような素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。
ここ一年近く発表の場が限られていたため、開催してくださったこと自体がとても嬉しかったです。
お客様や関係者の方々と直接お話させていただけたことで、今後の課題も見えてきました。
これを励みに今後も精進して参ります。
本当にありがとうございました。

 

<審査員コメント>

■林口砂里/有限会社エピファニーワークス代表取締役・一般社団法人富山県西部観光社 水と匠 プロデューサー
竹を伐採するところから、ひご加工、プロダクトのデザイン、商品化まですべて一貫してやっておられることに驚きました。新しいデザインの竹細工商品はありますが、確かな技術力とデザインセンスの両方を持ち合わせ、質の高いプロダクトを作っている若い方は実は少ないのではないかと思います。
世界的に手仕事の編組品が失われている中で、これからも竹細工の魅力を高い技術力と柔軟な発想力で伝えていただけたらと思います。

 

【略歴】
栃木県生まれ
2017年    大分県立竹工芸訓練センター 修了
2017年    竹工房オンセ 高江雅人に師事

現在 大分県別府市在住

 

【主な受賞歴】

2021年    くらしの中の竹工芸展 別府市議会議長賞
2020年    くらしの中の竹工芸展 MPP賞
2019年    くらしの中の竹工芸展 大分合同新聞社社長賞
2017年    日本クラフト展 入選
2017年    くらしの中の竹工芸展 別府竹製品協同組合理事長賞

 

【主な活動】

2020年    ARTS & CRAFT 静岡手創り市


MARKET

オーディエンス賞

 

ソワ

<作品タイトル>

心の標本

 

<作品について>

■心の標本
「心を洗い流すようなブルー
一瞬の感動が人生の力になる」
時に人は困難に直面します。気持ちを励ますのは、花の美しさや小さなやさしさに気づく、ふとした瞬間。それはとても些細なことかもしれないけれど、ぱっと視界が開ける変化を与えてくれることもある。
「変化」をキーワードに、変わること=進化として自分らしさを開花してきた植物をモチーフに、心が動く瞬間を幸せの種としてとらえ、作品に染め仕立てました。
装心具を手にしたときに生まれる感情が、手にした人の「今」を肯定し、病める時も健やかなる時も人生に寄り添う心の標本となりますように。
■装心具ブランド「ソワ」
誰もが持つ繊細で美しい心の動きを染め残す装心具ブランド。
「sower(種蒔く人)」と「ソワカ(幸あれ)」を由来とするソワは、作品が幸せが芽吹く種となれれば。という願いのもと、布や糸を手染めし、アクセサリーやオブジェ、テキスタイルなどに展開する。
身に纏うだけでなく心を纏うことで生まれる感情豊かな暮らしを言葉とともに提案している。

 

<受賞コメント>
このような賞をいただきありがとうございます。作品とディスプレイには、変化の激しい時代に流されることなく「自分の心が動く瞬間こそ幸せの種となる」というメッセージを込めて展示しました。作品に添えた言葉や背景エピソードに面白がってくれたり、共感を抱いてくださる方が多く、心を動かすストーリーの価値に改めて気付かされました。ご覧いただきました皆様、応援いただきました皆様、関係者の皆様に感謝申し上げます。

 

【略歴】

1986年    大阪府生まれ
2010年    京都市立芸術大学 工芸学科 染織専攻 卒業
2010~2016年    株式会社フェリシモ
2016~2020年    株式会社エイトブランディングデザイン
2020年    装心具ブランド「ソワ」設立

 

【主な受賞歴】
2021年    SICF22 MARKET部門 オーディエンス賞
2020年    第31回公募2020日本ジュエリー展 入選

 

【主な活動】

2020年12月    個展「心が芽吹く装心具」展(Crative Lounge MOV aiiima 2/渋谷)
2021年3月    個展「心が芽吹く装心具」展(iiba GALLERY/神戸)
2021年5~6月    Wonder Journal(Britomart/オークランド・NZ)
2021年9月    MIKI KAWAMURAコラボレーション(大丸福岡天神/博多)
2021年9月    SICF22 MARKET部門(スパイラル/表参道)

 
Photo: TADA(YUKAI)