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受賞者一覧

SICF23受賞者一覧

EXHIBITION部門11組と、MARKET部門6組の受賞者を審査員のコメントとともに紹介します。


EXHIBITION部門

グランプリ

 

みょうじなまえ

 

<作品タイトル>

You or someone like you , JEWEL NURSERY

 

<作品について>

私は自分自身のこれまでの体験をもとに、女性の身体、性、アイデンティティとその消費をめぐる問題をテーマに作品制作を行っています。
受賞作品では、資本主義下におけるマーケットというものがひときわ情報が自由市場に乗って大衆意識へトリクルダウンし、その再生産がなされていく現場であることに着目しました。
映像「You or someone like you」と、宝石を貼り付けて遊ぶフィギュアとその販売用什器を模して作られた立体「JEWEL NURSERY」は、2点で1対の作品になっています。
一見するとポップな作風の中に、父権制社会に管理され消費されていく女性性や生命の営み、強迫観念とも呼べるような画一的な美意識の植え付けなど、女性の心身や性に関する問題が社会的連鎖していく様子を表現しています。

 

<受賞コメント>

展示会場では大変多くの方と作品テーマについて意見を交わす事ができました。様々な背景を生きてきた人達とのお話から新たな視点を発見する事は、私の作品制作にとって何にも代え難い価値のある時間です。その大きな機会となったSICF23への参加やグランプリを受賞させていただけた事を、来場者やスタッフの方々、審査員の皆さま、並びに作家活動を応援してくださっている全ての方々へ心より御礼を申し上げます。

 

<審査員コメント>

■荒木夏実/キュレーター

みょうじなまえさんの作品は、自身に割り当てられたジェンダーや身体への自意識や違和感、社会から課せられるステレオタイプなイメージを「ジュエル(宝石)」という、安っぽいキラキラしたファンシーな物質を使って強調するものでした。これまでのみょうじさんの展示にもしばしば現れる、体当たり(?)の「出産」シーンもキッチュで嘘くさい。キモ可愛いおもちゃに着せ替え人形よろしく「キラキラ」を纏わせる「ごっこ遊び」にも薄気味悪さが漂う。女性性や身体、趣味や趣向に一度疑いの目を向けてみるという、アートのもつ政治的視点が際立っていました。

 

■大巻伸嗣/美術作家

自分の生に関して、目を逸らす事なく向き合い、その中に社会性のかけらを見つけ出し、作品として昇華していく、その実直さと強さを感じ、心惹かれた。それは今回提出した作品だけでなく、これまで展開してきた作品たちにも一貫しており、美術作品としてのクオリティも備え持っている。来年のスパイラルでの個展では、どのように個人と社会のつながりを示してくれるのか、大変興味深く期待している。

 

【略歴】

2019年 東京藝術大学絵画科油画専攻卒業

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 グランプリ
2019年 平成藝術賞
2018年 国際瀧富士美術賞 特別賞

 

【主な活動】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門(スパイラルホール/東京)
2022年 個展「Some Fairy Tales」(Taku Sometani Gallery/東京)
2021年 「Consuming Commodity」(銀座中央ギャラリー/東京)
2021年 「Any Kobe with Arts」(神戸市内)
2021年 「Familiae Sylvanian」(Art Lab TOKYO/東京)
2021年 「トミモとなまえ・」(LIMITED GALLERY/大阪)
2020年 「SHIBUYA STYLE Vol.14」(西武渋谷オルタナティブスペース/東京)
2020年 「New New New Normal」(GALLERY MoMo/東京)
2020年 個展「あなたのような誰か」(Taku Sometani Gallery/東京)
2019年 「第5回平成藝術賞 受賞作家展」(平成記念美術館/東京)
2019年 「東京藝術大学卒業・修了作品展」(東京都美術館/東京)
・メディア掲載
2021年 美術手帖2月号「2020年代を切り開くニューカマーアーティスト100」選出
2019年 美術の窓5月号「新人大図鑑2019」作品掲載

 


 

EXHIBITION部門

準グランプリ

 

 

鍛治瑞子

 

<作品タイトル>

The Traces of the Environment and Textures -TSUKIDE-

 

<作品について>

千葉県市原市にある月出工舎(旧月出小学校)の体育館の改修を計画していく過程で、体育館へと連続する月出の環境をテクスチャーから読み解いていった作品のシリーズ。(ベースは、いちはらアートXミックス2020+にて発表)記憶の中に残る月出の風景と場所の関係を、わずかな奥行きと陰影が作り出す触覚的なドローイングとして描き取ると共に、月出の風景と質感を構成する要素を撮影、編集し、光と音が映し出すテクスチャーとして空間的に体感できるインスタレーションを製作しました。
建築が社会活動的な側面を強める一方で、建築の本質の1つである空間をつくるということを純粋に表現できないか、いろいろな分野・手法・場所を通して探っています。この作品は、建築のコンセプト・思考過程を、建築の記述方法に囚われることなく表現することができないか試みたものです。ドローイングは、一般的な建築を示す図面や模型のように現実を正確に写しとるのではなく、感覚的に捉えた要素を分解・変換し記述することで、月出の環境が持つ肌触りそのものを抽出しようとしています。建築をベースとしながらもその枠を超え、独自の空間表現を探っていく過程の作品です。

 

<受賞コメント>

この度は準グランプリを頂き誠にありがとうございます。私自身、建築、服飾、舞台と活動を広げていく中、昨年より美術の展覧会に出展するようになりました。分野毎の募集・発表が多い中、SICFはジャンルを超えた作品に対して積極的に門戸を開いて頂き感謝しています。ご来場頂いた方、関係者・出展作家の皆様、どうもありがとうございました。これからも国内・海外で発表していけるよう、作品をつくり続けていきたいと思います。

 

<審査員コメント>

■荒木夏実/キュレーター

鍛治瑞子さんの白いレリーフと薄布を使った映像は絶妙な組み合わせ。建築家のバックグラウンドをもつ鍛治さんは、建築図面やマケットを応用させつつ極めてユニークで魅力的なレリーフを創作しています。図像化された植物と建築の関係、森の木々の姿を投影したイメージからは、自然と人の営みが感じられます。舞台美術やコスチュームデザインも手がける彼女がどのような展開をしていくのか楽しみです。

 

■鈴野浩一/建築家

まず鍛治瑞子さんがドローイングと呼んでいるレリーフ作品に、目を惹かれました。触感が感じられるドローイングは、光と影を可視化していて美しかったです。一緒に展示されていたインスタレーションは、光と影の中をすり抜けて行きたくなるような魅力がありました。本来、別の展示の場所と大きさが想定されて作られた作品だったため、今回の小さな空間は少々窮屈に感じましたが、スパイラルガーデンだからこそできるインスタレーションを、受賞者展で見てみたいと強く思わせる力を感じました。おめでとうございます。

 

【略歴】
大学・大学院で建築を学んだ後、建築設計事務所、妹島和世+西沢立衛/SANAAにて、国内・海外のプロジェクトを担当。事務所を退所後、文化服装学院にて服飾を学び、ニューヨークにて劇場系のコスチュームデザインを行う。帰国後独立(Atelier MIZUKO KAJI設立)。空間として表現することを軸に、建築・服飾・舞台、3つの経験を持つからこそ生まれる、それらの分野を横断、融合した作品づくりを行っている。

2004年 法政大学工学部建築学科卒業
2006年 法政大学大学院工学研究科建設工学専攻修士課程修了
2006-2014年 妹島和世+西沢立衛/SANAA勤務
2015年 文化服装学院服飾専門課程服飾研究科卒業
2016-2017年 ニューヨークにて劇場系のコスチュームデザインを行う
2017年- Atelier MIZUKO KAJI 設立
2018年 法政大学デザイン工学部建築学科 兼任講師
2018-2020年 横浜国立大学大学院/建築都市スクール Y-GSA 設計助手
2020年- 法政大学デザイン工学部建築学科 教務助手

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 準グランプリ
2004年 法政大学工学部建築学科 卒業設計賞
2003年 法政大学工学部建築学科 建築研究賞

 

【主な活動】

2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 出展 (スパイラルホール/東京)
2021年 「いちはらアートXミックス2020+」出展(月出工舎/千葉、体育館改修及び作品展示)
2019年 「Awave」公演(両国門天ホール/東京、主催:CreArtBox、担当:会場デザイン・照明計画・衣装)
2019年 「CACCIA AL TESORO」公演(Queens Theater/ニューヨーク、主催:Incanto Productions、担当:衣装)
2017年 「EVERGREEN」公演(Queens Theater/ニューヨーク、主催:Incanto Productions、担当:衣装)
2016年 「VISUALITY」公演(Queens Theater/ニューヨーク、主催:CreArtBox、担当:衣装)


EXHIBITION部門

準グランプリ

 

山本アンディ彩果

 

<作品タイトル>
「記憶の在処」

 

<作品について>

“日々の出来事を記憶するたび 私の中の本棚に一冊づつ本が 増えていくような感覚がある 過去の記憶が思い出せなくなった時 あぁ、もう二度と読み返すことのできない物語になってしまったんだなと思う 忘れられた物語は少しづつ読み物ではなくなって 「ただ美しいもの」としてずっと私の中に存在していく”

砂糖漬けという手法で作品をつくり始めたきっかけは、認知症の祖父との二人暮らしだった。一瞬前の出来事ですらすぐに忘れてしまう祖父を前に、記憶が消えたり曖昧になることによって、私たちの記憶がフィクションになっていくように思えた。砂糖漬けという刻々と溶けていってしまう儚い保存方法を用いることで、どうしても忘れていってしまう記憶に対する自覚と、記憶が永遠に残ることを願う思いの両面を表している。
今回の展示では自分の記憶(本棚)の中に、思い出せる記憶(本)と、思い出せない記憶(砂糖漬けの本)が混在していることを表現する。そして投影される映像が記憶を思い出すプロセスを可視化する。
思い出せる記憶と、思い出せない記憶、そして思い出すプロセス。この三つから構成し、ここに私の「記憶の在処」をつくる。

 

<受賞コメント>

ありがとうございます。とても嬉しいです。これからもずっと作って生きていけたらと思います。

 

 

<審査員コメント>

■大巻伸嗣/美術作家

提出されたインスタレーション作品だけでなく、おじいさんを砂糖漬けにしていく過去作のビデオと写真を見たことで、砂糖が単なる素材ではなく、彼女とおじいさんをつなぐエマルジョンであり、おじいさんとの記憶を引き出すトリガーになっているということが理解できる。ものすごく個人的な感覚なものなのだが、死を迎えていくおじいさんが、水分が抜ける砂糖漬けのプロセスそのものと重なっていくように感じられた。単純に物語を作るということではなく、生命に関わった時間そのものをメタファーとして、砂糖が介在していくということが、生々しく実感が伴っているところに興味をひかれた。実際にものを作るということは、発想をするということだけではなく、心がそれを訴えかけているということを、改めてこの作品を見て感じることができると思う。きっと大変だと思うが、次の展開を楽しみにしたい。

 

■加藤育子/スパイラル キュレーター

認知症の祖父と暮らし、目の前で溶けるように消えていく「記憶」。それを物語のごとく永遠に留める手法として、本を砂糖漬けにした作品です。とろとろ、キラキラと変化する砂糖の甘さ、古い本の匂い、ページのザラつきなど、見る者の五感に染み込んだ記憶を揺さぶります。「記憶」をテーマにした出展作品は多かったのですが、実体験から生まれたアプローチの明確さ、表現の強度が群を抜いていました。古書や棚、映像をうまく構成して、時間を取り込んだ空間に仕上げた点も評価しました。

 

【略歴】
1992年 生まれる
2016年 多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコース卒業

 

【主な受賞歴】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 準グランプリ
2019年 「京都国際映画祭 クリエイターズファクトリー アート部門展」 優秀賞
2016年 「2016年度多摩美術大学卒業制作」 優秀作品

 

【主な活動】
・個展
2022年 「ずっとここに本があって、」(無用之用と神保町ブックセンター/東京)
2021年 「存在の輪郭」(無用之用/東京)
2021年 「還る」(飯島商店/神奈川)
2019年 「永恆的故事 ─エターナルストーリー」(象の鼻テラス/神奈川)
2019年 「永恆的故事」(Pier2アーティストインレジデンス/台湾)
2018年 「エターナルストーリー」(ARTnSHELTER garally/東京)

・団体展
2022年 「SICF23」EXHIBITION部門(スパイラルホール/東京)
2021年 「食と現代美術 vol.8」(BankART Station/神奈川)
2020年 「Our Stories – つながり、つむぐ私の物語」(スパイラルガーデン/東京)
2019年 「巣くう芸術家たち」(大庭園/神奈川)
2019年 「京都国際映画祭 クリエイターズファクトリー アート部門展」(元淳風小学校/京都)
2019年 「黄金町AIR2018成果展 井戸端」(横浜市黄金町/神奈川)
2019年 「LUX Scotland Screening program Ittarikitari」(スコットランド)
2018年 「黄金町バザール2018 Flying Supermarket」(横浜市黄金町/神奈川)
2017年 「JART7TH Japanese Emerging Artists Exhibition」(ニューヨーク)

・アーティストインレジデンス活動
2019年 Pier2アーティストインレジデンス(台湾)
2018年 黄金町アーティストインレジデンス(神奈川)

・ワークショップ
2019年 ヨコハマ・アートピクニック プラネタリウムぼっくすをつくろう! (横浜美術大学/神奈川)

 


EXHIBITION部門

荒木夏実賞

 

アレトコレ ココ

 

<作品タイトル>

「Humpback whale – Songs sung somewhere now – 」(ザトウクジラ – 今もどこかで唄っている -)

 

<作品について>

ワインの蓋やコルクなど捨てられるはずの廃材だけで動物をモチーフに立体作品をつくっています。
独自の技法で金属質の蓋に加工を施し着色は一切せず、素材が持つ特性を引き出しつつ動物の個性を表現しています。
今回制作したのは、地球の約71%を占める大海原を旅し続けるザトウクジラ。彼らは、何万年も地球の秩序に従い順応しながら、種族の伝統と文化を守り、唄を伝え命を繋いでいます。
人は人間社会で目まぐるしく生きていると忘れてしまいがちですが、今私たちも彼らと同じように、大地で生かされている存在であると言う意識を頭の片隅に置いておくこと、地球の一部として共に生きていくことを、動物を通して表現したいと思い制作しています。
また、廃材を素材に扱うことで、地球上に今ある資源が再生をし価値のあるものへと生まれ変われることを感じてほしいという思いを込めて制作しています。素材はレストラン等から協力を得て集め、アート活動が自分だけで完結せずに社会との繋がりを持ちながら行うことだという意識も大切にしています。そして、活動の一環として、作品を通して得た売上の一部を動物保護活動に寄付することも私のアートプロジェクトの大事な要素としています。

 

<受賞コメント>

この度は、荒木夏実さんの審査員賞を頂き誠に感謝いたします。
今回作品を見てくださった方々に、私の活動コンセプトに共感していただける反応・ご感想を頂けた事も、とても嬉しく感じています。活動を応援して下さる方、素材の収集に協力下さっている方々への感謝も忘れず、今後も動物・社会・地球のために発信続けていけるよう精進してまいります。
ご来場頂きました皆様、関係者の皆様、他の出展者の皆様へも感謝申し上げます。

 

<審査員コメント>

■荒木夏実/キュレーター

アレトコレ ココさんのザトウクジラの彫刻は、ワインの蓋の部分、キャップフォイルでできています。裏打ちも含め他の素材を使っておらず、メタリックな光沢が独特の持ち味を見せています。大好きな動物をモチーフとし、作品が売れた収入の一部を動物愛護団体に寄付しているとのこと。大量のキャップをバーやレストランから提供してもらうことを通じて人との繋がりもできたそうです。リサイクルやエコロジー、アートと社会の循環を感じさせる彼女の活動を応援したいと思いました。

 

【略歴】

1988年 大阪生まれ
2012年 京都市立芸術大学 美術学科 彫刻専攻卒業
2018年 移住していたオーストラリアから帰国、アレトコレ ココとしてワイントップアートのプロジェクトを開始。

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 荒木夏実賞
2021年 OSAKA INTERNATIONAL COLLECTION 2021 北野美術館賞、Chignitta賞
2021年 Unknown Asia 2021 スポンサー賞(Festival City賞)、レビュアー賞(板倉康裕賞・中川悠賞)
2020年 Unknown Asia 2020 スポンサー賞(モトックス賞)、レビュアー賞(横山大地賞・藤川和也賞)

 

【主な活動】

2022年 「神戸アートマルシェ」(神戸メリケンパークオリエンタルホテル/神戸)
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 (スパイラルホール/東京)
2022年 個展「On the earth」(GALERIE CENTENNIAL/大阪)
2022年 「第20回 NAU21世紀美術連立展」(国立新美術館/東京)
2021年 「UNKNOWN ASIA 2021 EXTRA」(中之島フェスティバルタワーWEST/大阪)
2021年 個展「Beaujolais nouveau 2021」(天野が原ギャラリー/大阪)
2021年 「POP-UP UPCYCLING Art & Design」(阪急百貨店高槻店/大阪)
2021年 「OSAKA INTERNATIONAL COLLECTION 2021」(大阪市中央公会堂/大阪)
2021年 「Unknown Asia 2021」(グランフロント大阪/大阪)
2021年 「UPOP-UP Keep on Using!!」(京阪百貨店守口店/大阪)
2021年 個展「Amazon」(同時代ギャラリー/京都)
2020年 「Unknown Asia 2020」(オンライン)
2020年 個展「Isle of Birds」(ONthe Umeda/大阪)
2020年 「Material + ART展」(ZENT ART MUSEUM/名古屋)
2020年 個展「Spring Celebration」(a&w/大阪)
2019年 個展「Wine Top Art Exhibition」(MANIFESTO GALLERY/大阪)

 


 

EXHIBITION部門

大巻伸嗣賞

 

上野悠河

 

<作品タイトル>
メーデイアの方位、パロールの混信
Azimuth of Mēdeia [parole confusion]

 

<作品について>
時代の流れとともに、あらゆるメディアや物事は更新され蓄積され、ときに途切れ忘れられ消えてゆく。ゆえにふるい物質や価値観は、現代における異質なものとして驚きと新しさを想像してもくれるし、自身を取り巻く関係性の原初的な感覚を呼び起こすのかもしれません。
作品は、それぞれ5セットのAMラジオ、蛍光灯・蛍光灯器具、スピーカー等のアナログ機器から構成されています。蛍光灯は劣化して完全に切れてしまう寸前の「明滅する」ものを各所で集め用いました。
ラジオは音声放送をリアルタイムに受信しようとするも、チカチカと点滅する蛍光灯(の起電力/電圧変動)によって受信直前の不可視の電波に干渉し、さまざまなノイズが混信したままスピーカーから発音・可聴化されます。またそれぞれの蛍光灯の角度(向き)は、その場において地面から「上」を北と見立てた際のラジオの受信角をあらわしています。
干渉すなわち対立・衝突の知覚化が、聴こえたり聴こえなかったりする数多の呼び声として空間にリアルタイムに生成され続けると同時に、流動する社会や個の位置関係を相対化させようと作品に試みました。

 

<受賞コメント>
絶えず激しい光の点滅とノイズが流れ続ける作品ですが、観に来てくださった多くの方々が「心地いい」「とても楽しめた」とお話しされたことが印象的でした。審査員やクリエイターともこの空間をとおして深いコミュニケーションができ、作品の、ひいては自分自身の知りえなかった特性を初めて知れることもできました。
このような賞をいただき大変嬉しく思うと共に、作品をご覧いただきました皆さま、関係者の皆さまに心から感謝申し上げます。

 

<審査員コメント>

■大巻伸嗣/美術作家

上野さんの作品を見た時、懐かしい気持ちになった。最近では、どこもLEDのライトになってしまい、こんなチカチカするような風景を見ることも無くなったが、それは私の記憶の中にあった。変わりゆく時代を受け入れ、その光景を脳の奥底に追いやりながら、私たちは日常を生きている事を感じさせてくれる作品。作家は、小さい頃、蛍光灯を見ると喜んでいたと母から聞いたことで、見えなかった遠い記憶と時空間を繋ぐことができたのではないだろうか。

見えないもの、消えていくものを拾い上げ、ある因果関係の中に再構成することで立ち上がる、作者の中にある思いを受け止めてくれるモニュメントのようなものにも感じられた。 今後、大きな空間でどのように展開できるのか見てみたい。

 

【略歴】
1997年 千葉県生まれ
2019年 和光大学表現学部芸術学科 中途退学

 

【主な受賞歴】
2022年 島村楽器 録れコン2022 グランプリ・インストゥルメンタル部門優秀賞
2022年 「SICF23」EXHIBITION部門 大巻伸嗣賞
2021年 島村楽器 録れコン2021 アレンジ賞
2013年 平成24年度習志野市教育功労者顕彰
2012年 JSECC日本学校合奏コンクール ソロ&アンサンブルコンテスト全国大会 金賞(ソロ・マリンバ)

 

【主な活動】

2022年 「SICF23」EXHIBITION部門 (スパイラルホール/東京)
2022年 「Zの視線」(ギャラリイK/東京)
2021年 「中央線芸術祭2021」スペースシェアリングプログラム「ともにある場所」(KOGANEI ART SPOT シャトー2F/東京)
2021年 個展「そこに太陽ある限り、わたしの最後の青い時間」(千葉市民ギャラリーいなげ /千葉)
2021年 個展「時に、糺そうとする」(ギャラリイK/東京)
2020年 ミュージシャン名義「Mus’c」としてアルバム「Archit.」リリース
2019年 「風はなにいろですか」(ギャラリイK/東京)(’19, ’18)
2019年 MZ017 「AMTHEM」パフォーマンス、舞台美術、映像、作品展示(和光大学パレストラ/東京)
2018年 「ポートフォリオ展2018」(新宿眼科画廊/東京)
2018年 個展「死/不在」(ギャラリイK/東京)
2017年 個展「画廊の距離」(ホワイトギャラリー/東京)
2017年 「第16回内海信彦絵画表現研究室展」(ギャラリイK/東京)


EXHIBITION部門

鈴野浩一賞

 

ばば ゆうた

 

<作品タイトル>

光の箱

 

<作品について>
海外の小さな町や村の様子が収められた本を見た時に、多種多様な町を形成する要素の中で「家」に興味を持った。街並みの説明が中心で、隠れている家々の私生活が気になったからである。日常の生活も同様に、家の外観を見て家と認識しているのではないだろうか。実際はそれぞれの家の中に、それぞれの質感が存在する。染み付いた匂いや色や光、そして時間がある。家の意味は「人の住む建物」であり″人の住む″はまさにその質感にあたる。質感の分からない外観の家は「箱」を見ている事になる。見えない箱の中身は無限の想像で解釈される。内と外を繋ぐ窓からの光が箱の中の想像を形成する。それは話したことのない他人をあれこれ想像する感覚に近い。外見だけでは判断できないという点で家と人を見る視線はどこか似ている。

 

<受賞コメント>

限られた空間の中でどんな展示が出来るか、あれこれ考えました。展示が始まると当初の意図を崩す「流れ」がブースの内外を繋いでゆき、私もその流れに巻き込まれていく様な、ライブ感を体験出来たのがSICFの醍醐味だったと感じました。来年行われる展示も作品と空間と鑑賞者から生まれる「流れ」を意識しながら、制作に励んで参ります。最後になりますが、この様な機会を頂き誠にありがとうございました。

 

<審査員コメント>
■鈴野浩一/建築家
ばばゆうたさんの、家の窓の外からは見ることはできない室内の想像、その視点に惹かれました。
ばばさんは、どこかには確実に存在する、または存在していた外国の窓の小さな写真を拡大して展示しました。その横にその写真の窓から入り込む光を空想で描いています。本来直線的な光が途中カーブを描いたり、反射したりしています。
建築を学んだ、ばばさんならではの現実と空想の狭間のような作品をもっと見たいと思いました。おめでとうございます。

 

【略歴】
1984年 神奈川県生まれ
2003年 建築の専門学校卒業後、建築設計会社に勤務

 

【主な受賞歴】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 鈴野浩一賞

 

【主な活動】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門(スパイラルホール/東京)

 


 

EXHIBITION部門

廣川玉枝賞

 

浜崎真帆

 

<作品タイトル>

QURURINPALIEN

 

<作品について>

QURURINPALIEN(クルリンパリアン)は、「くるりんぱ」と「エイリアン」を掛け合わせた言葉で、日常のワンシーンにぽっと登場して、今まで見てきた景色をくるりと変えるクリーチャーです。
八百屋、駐車場、住宅街といった「日常空間」を「非日常」に変えてみたいという思いで制作しています。シリコン製のスーツを自ら装着し、身体を変容させて街中で即興的なパフォーマンスを行います。
また、本作はシリーズで展開しており、SICF23では、#1 SHAGGY SUN、#2 PRICKLE COCOONを発表いたしました。今後も、さまざまな場所で、さまざまなキャラクターで制作を続けていきます。クルリンパリアンが11人集まったらサッカーできるな、一軒家にたくさん集まったら生活してる様子を覗き見できるな…などなど展示を通してたくさんの妄想が膨らみました。

 

<受賞コメント>

たくさん話して、観て、とても濃厚で、刺激的な3日間を過ごすことができました。また、SICFのようなオープンな場での展示は初めてのことで、SNSだけでの発表では得られない、リアルな反応を得ることができました。いただいた言葉を大切に、今後も自分らしく制作を続けていきたいです。
最後に、今回このような賞をいただけたこと大変嬉しく思います。観てくださった方々、運営の皆さま、本当にありがとうございました。

 

<審査員コメント>

■廣川玉枝/服飾デザイナー

荒削りでありながらも、自ら情熱を持って創出した独創的な世界観が高く評価された。衣服は可動性を持ったアートであり、偶発的に驚きや喜び、恐れなど人々の内側にある様々な感情を引き出す装置となる。日常的な空間を、たちまち異次元に変容させる力を持った作品であり、言語を超えたコミュニケーションツールとして衣服の可能性を引き出した。今後の発展や可能性に対して大いに期待がある。

 

【略歴】

2002年 東京都生まれ
2022年 武蔵野美術大学空間演出デザイン学科 2年次在籍

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」EXHIBITION部門 廣川玉枝賞

 

【主な活動】

2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門(スパイラルホール/東京)
2022年 「ミートピポピポ」(reload/東京)

 


EXHIBITION部門

スパイラル奨励賞

 

櫻井隆平

 

<作品タイトル>

みどりのうつわ

 

<作品について>

本作品は、フラワーフォーム(生花用吸水スポンジ)を彫り出して制作している。
彫刻素材として、粘土ほど生ではなく、石や木ほど恒久的でも密でもない、無と有、裏と表の間としてそこにあるような質感に魅力を感じている。それは、人やモノの解釈と似ていると考えている。私たちは身の周りにある事象を理解しているようで、実際には曖昧な印象や表層を捉えているに過ぎない。自身のバイアスや過多な情報量により、物理的には存在しているのに、身近な存在は意識の範囲からこぼれ落ち、曖昧で空虚な状態で留まっていることが多いのではないだろうか。
今回は「模刻」という行為に焦点を当て制作を行った。観察し、触り、距離をおき、形を探り、内包するその意味や時間を慎重に読み解くことで、作品はその過程で得た情報をたっぷりと吸い込み、実物以上にはっきりとしたかたちで目の前に現れるのである。
現代において、対象と具に向き合うことや、プリミティブな方法で作るという行為は少なくなりつつあると感じている。改めて、身体的に触ることや作ることに焦点を当てながら制作し、対象との関係を探ってみたいと思う。

 

<受賞コメント>
たくさんの方々と作品を通して対話できたことが刺激的で、本当に貴重な時間を過ごさせていただきました。発表することの楽しさや、人との繋がりを改めて感じることができました。今回の経験を糧に、制作を続けていければと思います。ありがとうございました。

 

<審査員コメント>

■加藤育子/スパイラル キュレーター

フローラルフォーム 、通称「オアシス」と呼ばれる生花の保水用素材を用い、身近な日用品などを象った彫刻作品を制作。もろい素材を削り出す確かな技術と、美しく仕上げる構成力を評価しました。モチーフとなったアイテムについては、「自分の身の回り」以上の、選んだ必然性をより明確にすると説得力が増すと思います。過去作品には、本作と異なる趣向のものも多く、そこに垣間見える「実直な意外性」に興味を持ちました。今後も新たな作品をつくり、跳躍されることを期待しています。

 

【略歴】
1993年 群馬県生まれ
2015年 多摩美術大学彫刻学科卒業
2015年 国立台湾芸術大学 留学
2017年 多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 スパイラル奨励賞
2015年 「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2015」入選

 

【主な活動】
2020年 個展「Revealing」(アトリオン/秋田)
2019年 「かみこあにプロジェクト2019」(上小阿仁村/秋田)
2019年 「Arts Arts 2019」(アトリオン/秋田)
2018年 「日本コラージュ・2018 Part 2」(Gallery K/東京)
2016年 「ctrl+shift+B」(台湾)
2016年 個展「Trial」(多摩美術大学彫刻学棟ギャラリー/東京)
2016年 個展「大学院彫刻専攻生選抜展 櫻井隆平展」(Gallery K/東京)
2015年 「T-ism」(画廊くにまつ 青山/東京)
2015年 「SIDE」(Gallery Shimizu/神奈川)
2015年 「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI 2015」(丸ビル/東京)
2015年 「International Shoebox Sculpture」(台湾)
2013年 「くゆらす展」(KAYA gallery+studio/鎌倉)

 


 

EXHIBITION部門

ワコールスタディホール京都奨励賞

 

黒山真央

 

<作品タイトル>
血脈の愛 -姉妹-

 

<作品について>

『血脈の愛』とは、私の母方の呉服屋の家系に続く「親が子のために服を作り着せる」という慣習を言い表した言葉である。
私はどの家族にも血の「つながり」とは別に精神的な「つながり」が存在するのではないかと考える。しかし、「つながり」は目に見えず触れることもできない。私は実体を持たないそれを視覚化することで、見る者に「つながり」の価値を問い直したい。
私は今作品を、家族の古着の解体によって制作した。「作る」ことの真逆の「壊す」行為とも言える制作工程は、その服を作り着ていた家族の時間を追体験するための手段だった。そして、服は糸へと解かれ、さらに繊維の状態まで分解され、混ざり合い再構築されるに至った。これらの持つ形状・テクスチャーは全て、「つながり」を手繰り寄せる行為の結果生まれたものであり、「つながり」そのものである。
今作品では多種多様な家族関係のサンプリングとして、私と妹の関係性を『血脈の愛』を軸に紐解き標本化している。

 

<受賞コメント>
展示させて頂いた作品は、本当に沢山の方々のご協力の上に成り立っている大切な作品でした。この作品でこのような賞を頂けましたこと、大変嬉しく光栄に思っております。
また、展示3日間、たくさんの方とお話しながら作品についてのご意見を頂くことができ、大変貴重な時間を過ごさせて頂きました。関係者の皆様、ご来場いただいた皆様に心より感謝申し上げます。今回の展示で皆様から頂いたお言葉を糧に、より一層制作に励みたいと思います。

 

<審査員コメント>

■ワコールスタディホール京都

記憶と深いところで繫がり「着ることが出来なくなった後にも捨てられず残しておきたい衣服」というものがかつては誰にでもあったのではないだろうか。これらは家族のストーリーであり、だれもが持っている「もの」のストーリーでもある。さまざま記憶が、音も映像もデータ化されていく中、手をかけて 優しく愛おしい「手触りのあるもの」として再構築されていることが、このような時世の中で、特にこころに響いた。

 

【略歴】
1999年 愛媛県出身
2022年 東京造形大学 造形学部 デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻 卒業
2022年 東京造形大学 大学院造形研究科 造形専攻 デザイン研究領域 在学中

 

【主な受賞歴】
2022年  「SICF23」 EXHIBITION部門 ワコールスタディホール京都奨励賞 受賞
2020年  「JAPAN TEXTILE CONTEST 2020」 学生の部 シーズ賞受賞
2019年  「2019 MULBERRY CITY ネクタイデザインコンペ」 八王子市長賞受賞

 

【主な活動】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 (スパイラルホール/東京)
2022年 「東京造形大学造形学部デザイン学科テキスタイルデザイン専攻・大学院修士課程デザイン研究領域 2021年有志 卒業・修了制作展 『“textile”』」(スパイラル/東京)
2021年 「フジヤマテキスタイルプロジェクト2021 イマココ展2」(FUJIHIMURO/山梨)
2021年 「フジヤマテキスタイルプロジェクト2021 イマココ展」(吉田の蔵ブラザーズ/山梨)
2021年 「SHIKOU展」(オンライン展覧会)
2018年 「染めの小道」(林芙美子記念館石蔵/東京)

 


 

EXHIBITION部門

デイリーアート賞

 

大越智哉

 

<作品タイトル>
OBJECTRUM

 

<作品について>

objectrumとはオブジェの語源であり「前に投げられてあるもの」を意味します。元々は外部にあるものが心に投影されて生み出された表象のことです。このオブジェも観る者により主観的な事象内容が異なってくると思い、またそれを目指し「OBJECTRUM」と名付けました。
このオブジェを制作するにあたり、近代化が始まる以前の造形の豊かな土壌を現代に馴染むように再構築しようと思いを持ち制作に取り組みました。私は今に残る古い造形を見ると、当時の人々の物作りに対する切実さやパワーを感じます。そのような遺跡などに見られる古い造形を、どのようにインテリア空間に生かせるか、またその造形から滲み出たパワーを再現できないかと常に考えていました。そこで、私自身が一人の人間としてピュアな気持ちになり、人類の残した文化の痕跡を元に再解釈、再構築する必要がありました。
OBJECTRUMの制作過程はアイディアをスケッチするところから、加工に至るまで自分の手で行っています。なので同じ形は再現不可能であり、一つ一つに意味が込められています。本来、人間の持つ原初的な感覚を大切にしながら現代の暮らしの為の物作りを行いました。

 

<受賞コメント>
このような賞を頂いたことを含め、非常に良い経験となりました。「これに見える」「懐かしい感じがする」等、観て下さった方々には多くのお声を掛けられ私自身も刺激になりました。自宅にいることが多くなった時代に、自分自身と向き合う時間が長くなりましたが、今回の作品は室内を装飾するためのインテリアとして機能してくれることを願っています。今後も様々な形で新たなものを作り続けていきます。誠に有難うございました。

 

<審査員コメント>

■廣川玉枝/服飾デザイナー

祭や祈りにおける日本古来の装飾的な形を再解釈し、独自の形に昇華させながら、懐かしさや温かみを感じさせることに成功している。それは、日本人が得意とする自然物の象形化が本質に存在しているからであり、なおかつ、木彫でありながらオブジェに配された意外性のある色彩感覚やバランスの取り方、日常に佇むアートとしての存在感が高く評価された。

 

【略歴】
1999年 福島県生まれ
2022年 武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科インテリアデザイン専攻 卒業
2022年 武蔵野美術大学大学院 造形研究科工芸工業デザインコース 在籍

 

【主な受賞歴】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 デイリーアート賞

 

【主な活動】
2022年 「SICF23」 EXHIBITION部門 (スパイラルホール/東京)
2022年 「武蔵野美術大学修了制作展」(武蔵野美術大学/東京)
2019年 「ITO ART WORK 2019」(キネマ通り/静岡)
2019年 「Handwork展」(GALLERY33/東京)


EXHIBITION部門

オーディエンス賞

 

君とバラ色の人生ズ

 

<作品タイトル>

外界☆トイレット

 

<作品について>
私は人と居るよりも一人で過ごすことが好きです。しかし、人間は社会で生きていかなければなりません。けれど自分の気持ちには素直でいたいとも思っています。私は自分のハッピーを守るシェルターとしてトイレに逃げ込み日々をやり過ごしていました。
誰しも学校や会社のトイレに避難したり小休憩をとったことがあると思います。誰からも脅かされないこのハッピーのシェルターの壁を取り払って、便器を外へ置いてみました。便器と私たちのポートレートを作り続けることで、トイレの中で感じられるハッピーを無理矢理だとしても外界で感じたかったのです。社会の中で誰もが自分を偽ることなく、そして何よりも安全に過ごせる世の中であってほしいです。

 

<受賞コメント>
観客の皆さんが選ぶオーディエンス賞。素敵な賞を頂きとても驚いています。君とバラ色の人生ズという変な名前で、作品も奇天烈。そんな作品をご鑑賞頂き感謝の気持ちでいっぱいです。
ふざけた作風ですが、個々と社会の関係をいつも真剣に考えています。社会に溶け込むことは困難も多いのですが、なるべくならハッピーでいたい。形だけでもバラ色の人生を送りたいのです。この展示で得たハッピーを維持できるように制作に励みます。

 

【略歴】

2020年 女子美術大学アート・デザイン表現学科卒業

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23 EXHIBITION部門」 オーディエンス賞
2020年 加藤成之記念賞

 

【主な活動】
2019年 「今夜三日月の見える丘に」出演
2018年 パフォーマンス「愛について」公演
2018年 デザイン・フェスタギャラリー原宿「女子力展」メインビジュアル

 


MARKET部門

グランプリ

 

Leo Koda

 

<作品タイトル>

In Fill Out

 

<作品について>
3Dプリントしたオブジェクトをお湯で茹でることによって膨らませ、ユニークな形をデザインするプロジェクトです。
3Dプリンターをハイテクノロジーな機械だと捉えることをやめると、未来のクラフトになり得るだろうか。という疑問からプロジェクトは始まりました。
3Dプリンターは魔法の機械のように思われますが、そんなことはありません。基本的には重力の影響が大きい為、ノズルから押し出されたプラスチックが垂れていくことをどのように防ぐか考える必要があります。そこで必要不可欠なのが3Dプリンティング独自のインフィルという充填方法です。
このプロジェクトはそこに空気が内包されることに着目しました。3Dプリントしたオブジェクトを茹でることで内部の空気が膨張し、熱で柔らかくなった表面にそのインフィルのパターンが浮かび上がってくることを発見したのです。表面に浮かび上がる模様は装飾のようにも見えます。ですが、内部構造からくる“必要美”なのです。
素材にはPLAという農産物などのデンプンから抽出される乳酸を原料として生産された生分解性プラスチックを使っています。
3Dプリントが未来の骨董品になる第一歩かもしれません。

 

<受賞コメント>

スイスからの参加を実現させてくれたチーム、主催してくださったスパイラルのみなさま、備品を貸していただいた方々、なによりも作品を受け入れてくださった多くのみなさまのおかげで、新しいものづくりのかたちを届けられました。昨年より新設された部門での受賞も大変嬉しく、20年以上の歴史があるのにもかかわらず、変革を恐れず挑戦し続けるSICFの姿に感銘を受けました。私も変化を恐れず今後も挑戦を続けていきます。

 

<審査員コメント>

■川渕恵理子/合同会社文化星人 代表

従来のものづくりの代替手段として使用されることの多い3Dプリンタ。その技術を「未来のクラフト」という視点で見つめ直し、インジェクション構造を活かして新しい造形を生み出す––その着眼点にオリジナリティがありました。プロダクトに組み込まれた「キッチンで茹でるとみるみる膨らんでいく」というプロセスが何とも楽しく、ユーザー自身がつくり手として参加をすることで、その人の特別なピースとなる体験価値のデザインも秀逸でした。

 

■鈴木マサル/テキスタイルデザイナー

商品として完成される前段階で販売し、ユーザー自らが手を加えて完成させるというスタイル。3Dプリントというデジタルツールを駆使しながらも手にしたユーザーはお湯に漬けるというアナログ手法を行う点がとてもユニークだ。誰でも出来る手法に帰結する事でユーザーとのコミュニケーションを成立させている点が非常に面白い。モノ主体の考え方に留まらず、商品とユーザーとの関係性まで踏み込んだ考え方に共感しました。

 

■林口砂里/一般社団法人富山県西部観光社 水と匠 プロデューサー

3Dプリンターで造形された樹脂を「茹でる」という発想に、まずはとても驚かされました。その背景には、新しいテクノロジーが「未来の工芸」たり得るのか、というLeoさんの深い考察と真摯な態度がありました。同時にユーザーに訴えかけるPOPなデザインやプレゼンテーションも工夫されており、今後の可能性を非常に感じました。

 

■西村直子/スパイラル 販売部 商品課長 統括バイヤー

個人的に一番評価した点はバランス感覚でした。作品の素材や色、フォント、ブースはもちろん、使い手との関係性、生産方法などに関して、本人の思いと、今のものづくりに求められていることを考え抜く力の釣り合いが取れていて、とても将来性を感じました。作家本人が不在でも「伝える」仕組みもよく考えられており、今後SICFに参加する作家の方にもよいお手本になったのではと思います。今後どんな活動をされるのか、来年のスパイラルでの展示も大変楽しみです。

 

【略歴】

2010-2016 Sakuyakonohana Secondary School Art and Design
2018 Yamagiwa Art Foundation Scholarship
2016-2020 Musashino Art University  BA Industrial, Interior, Craft Design
2020- ECAL / École cantonale d’art de Lausanne MA Product design

 

【主な活動】
2022 Rossana Orlandi GP  M7 / Qatar Museums, Doha, Qatar
2021 The Lost Graduation Show  Rho Fiera / Salone del Mobile, Supersalone, Milan, Italy
2021 Rossana Orlandi GP Leonardo da vinci Museum / Fuori Salone, Milan, Italy

 


MARKET部門

川渕恵理子賞

 

ASAZU HITOMI

 

<作品タイトル>

line

 

<作品について>

京都の伝統工芸品・西陣織に使用される金銀糸と彫金を組み合わせたコンテンポラリージュエリーです。金銀糸を使用するきっかけは、2012年に京都で開催されていたフリーマーケットでのことです。お店が並ぶ隅の方でキラキラと上品に輝く糸の束が並んでいるのを見つけました。この糸は何なのか、なぜ売っているのか、見たことのない糸に魅了された私は次々と質問していました。元々西陣織の着物を織る仕事をしていたが、廃業したために大量に余った金銀糸を販売しているのだと教えてくれました。私はなんてもったいないんだろう、私みたいに金銀糸を知らない人にこの糸を知ってもらいたい、と思ったのが始まりです。私はジュエリーを人と人、また自身とのコミュニケーションツールとして考えています。実用性だけでなく芸術性を重視したジュエリーの制作を心掛けています。作品の中には使い方の選択ができるものが数点あります。使用方法に正解はなく、ジュエリーを通して自分の考えを提示するということを身につけられたら素敵なのではないかと思い、作品に落とし込んでいます。他の人が提示した考えを受け入れつつ、対話をすることが健康的な未来をつくる第一歩だと考えます。

 

<受賞コメント>

今回このような賞を頂き、大変光栄で恐縮でございます。卒業制作から続けてきた金銀糸の作品を改めて認めて頂けた気がして、地道に制作を続けてきて良かったなぁと思いました。久しぶりの東京での出展でしたが、素敵な出会いも沢山あって有意義な時間を過ごさせて頂きました。関係者の皆様、本当にありがとうございました。今後も自分のペースで続けていくことを目標に、新しい作品にも挑戦していきたいと思います。

 

<審査員コメント>

■川渕恵理子/合同会社文化星人 代表

廃業によって使われなくなった金銀糸、その素晴らしい伝統的な手仕事を美しいジュエリーに生まれ変わらせた、そのアップサイクルの手法が見事でした。糸の束をゆるやかに絡ませたり、その断面で四角や丸の幾何学を表現したり、金銀糸の気配を残しながらコンテンポラリーな世界観をつくりあげているところに作者の力量を感じました。また身に付ける人がアレンジ出来る余地をつくるなど、使い手との間のコミュニケーションを想定したものづくりにも可能性を感じました。

 

【略歴】

2014年 大阪デザイナー専門学校プロダクト学科アクセサリーコース 卒業

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」 MARKET部門 川渕恵理子賞
2014年 大阪デザイナー専門学校卒業制作 学科賞

 

【主な活動】

2022年 「SICF23」 MARKET部門(スパイラルガーデン/東京)
2021年 UNBIRTHDAY COFFEE 委託販売(福知山/京都)
2021年 「やりとりする境界面」2人展(Art Gallery ESPACE446/大阪)
2021年 「PLAY」グループ展(阪急うめだ本店/大阪)
2020年 「JUBILEE」初個展(The Terminal Kyoto/京都)
2019年 「コンテンポラリーアートジュエリー展」(阪急うめだ本店/大阪)
2019年 ギフトショー“絲”(東京ビッグサイト/東京)
2018年 “絲”POPUP(梅田蔦屋書店/大阪)
2018年 ギフトショー“絲”(東京ビッグサイト/東京)
2017年 「コンテンポラリーアートジュエリー展」(阪急うめだ本店/大阪)
2017年 ホテルカンラ京都 委託販売(烏丸五条/京都)
2016年 MARK’STYLE TOKYO 委託販売(Paris Le Marais店/パリ)
2016年 「IFFT」(東京ビッグサイト/東京)
2016年 「コンテンポラリーアートジュエリー展」(阪急うめだ本店/大阪)
2016年 「New Jewelry NEXT」(CLASKA/東京)
2016年 「66展」(細野ビルヂング/大阪)
2015年 「大阪デザイナー専門学校グループ展」(大阪髙島屋/大阪)

 


MARKET部門

鈴木マサル

 

ninnpin nibi

 

<作品タイトル>

生きててえらい

 

<作品について>

きょう一日を生きている、えらすぎる人類におくるプレゼント。をコンセプトに1年間の時の経過を、二十四節季になぞらえて、テキスタイルブランドをつくりました。
今回展示させて頂いたスカーフは、2年ほど北欧を中心に、世界を旅していた時に、描いていたスケッチや写真をもとに制作しました。春から冬までの24枚と、わたしが誕生日を迎えた時期のチューリップ柄で、Happy Birthdayのプラス1枚、合計25枚とし、また一年生きててえらかったな~!頑張ったなじぶんっ!!とどんな時期でも自分の生活が素敵で素晴らしいんだぞ、という気持ちを込めました。そして、なかなか思うようにいかない人生のなかで、自分がきめた決断や考えを、迷いながらでも肯定する気持ちを忘れないでいてほしいな、というメッセージを込めています。

 

<受賞コメント>

このような賞を頂けて、本当に嬉しいです。様々なジャンルの方々と共に展示できたこと、久しぶりに多くの方とお話することができクリエイターとして、とても学びのある有意義な時間を過ごすことができました。反省点も多いですが、作品を更に多くの方へ届けられるように制作を続けていきたいと思います。
関係者並びに、協力していただいた皆様、ご来場いただいた皆様に感謝申し上げます。
みんな今日も生きててえらい~!!!!

 

<審査員コメント>

■鈴木マサル/テキスタイルデザイナー

テキスタイル関連全般、商品コンセプトがポエティックなものやナラティブなものに傾倒し過ぎている印象がある中、自身を鼓舞するような自己肯定感をテーマにした、もはや痛々しささえ感じるブランドコンセプトはある意味突き抜けていて魅力を感じました。デジタルプリントによって作られた生地はテキスタイルやパターンデザインの文脈からは外れているのですが、それがまた目新しさにも繋がり、今の時代の空気をすくい取った雰囲気を獲得しており、新鮮でした。

 

【略歴】
チューリップが咲く、春生まれ
2018年 Jyderup Hojeskole 卒業(Denmark)
2019年 Skals Hojeskole 卒業(Denmark)
北欧を中心にワーホリをしつつ、旅人になる
2022年 東京藝術大学美術学部デザイン科卒業

 

【主な受賞歴】

2022年 「SICF23」 MARKET部門 鈴木マサル賞

 

【主な活動】
2022年 「SICF23」MARKET部門(スパイラルガーデン/東京/日本)
2022年 「第70回東京藝術大学卒業・修了作品展」(東京/日本)
2019年 Skals Hojeskole graduate exhibition(Denmark)
2018年 Jyderup Hojeskole graduate exhibition(Denmark)

 


MARKET部門

林口砂里賞

 

石橋陽子

 

<作品について>

手法にこだわらず、図形・点・線のフォルムを使いミニマルに表現しています。
言葉が世界を表現しているように、形や図形も世界を表現しています。それはとても身近な物から宇宙まで。例えばマンホールの丸や窓の四角、ピラミッドの三角、自然界には、地球や年輪、雪の結晶など図形で表現されています。そして物質的な物だけでなく目に見えないもの、精神も図形で表現されています。禅の世界の円相は悟りやとらわれのない心、宇宙全体を。三角形は禅。仏、宇宙と一体になること。四角は、枠に囲まれ、とらわれた心を表しています。すべての物が表現でき世界中の認知がある。そして誰しもが使える図形を自分というフィルターを通し心地よいバランスを探しながら新しい形を生み出し、見る側の想像力の喚起へと繋いでいます。

 

<受賞コメント>
この度はこのような素晴らしい賞をいただき誠にありがとうございました。新しい一歩を、確かな一歩に、寄り道しながら歩んでいけたらと思います。
自分の感覚を信じ、より多くの方の心に響く作品を届けられるよう励んでまいります。皆さまに心からお礼申し上げます。

 

<審査員コメント>

■林口砂里/一般社団法人富山県西部観光社 水と匠 プロデューサー
石橋さんの作品は今回の出品作の中で最も日本的・東洋的なものだと思いました。図形を組み合わせたシンプルな平面・立体作品ですが、単なるミニマリズムではなく、彼女自身が「言葉が世界を表現するように、図形も世界を表す」と言っているように、自然のエッセンスを極限まで煮詰めて抽象化する東洋思想が感じられたのです。自然、人間を含めた生きもの、感情、記憶などをもシンボライズした図形は、見る者に飽きることない想像の余白を与えます。

 

【略歴】
1981年 東京生まれ
1999年より製作活動を開始。民俗学に興味を持ちプリミティブな作品を製作。
2013年より図形の持つ深遠さに魅了され現在に至る。

 

【主な活動】

2022年 「SICF23」 MARKET部門(スパイラルガーデン/東京/日本)


MARKET部門

ベストセールス賞

 

ikuellé

 

<作品について>

棒針編みという技法でやわらかいフォルムのニットオブジェを制作しています。
立体になるよう型紙の段階から設計しているので中に入っているのは綿だけです。なめらかなシルエットが出るよう接ぎ目を少なくし、綿の詰め方にも気を配っています。
メリヤス目のフラットな表面感を生かしながら構造上どう折り合いをつけていくか、日々試行錯誤しながら制作しています。

 

<受賞コメント>
この度はこのような賞をいただき誠にありがとうございます。お越しいただきました皆様、関係者の皆様に感謝申し上げます。貴重なご意見、ご感想をいただき、出店者の方々からも沢山の刺激を受けた3日間でした。今回の経験を糧に、今後もより精進してまいります。

 

【略歴】

大学、専門学校でファッション、ニットについて学んだのち、アパレルメーカーでニットデザイナーとして働く。
2021年より制作活動を始める。

 

【主な活動】

2022年 Solo Exhibition「kukkula」(plateau books)
2021年 FEIL LIMITED STORE ディスプレイ(横浜高島屋)
2021年 FEIL LIMITED STORE ディスプレイ(日本橋三越)
2021年 グループ展(AAA gallery)

 


MARKET部門

オーディエンス賞

 

藤原未遊

 

<作品タイトル>

雪崩 時雨

 

<作品について>

“透明感”をテーマに、熱した時のガラスの自然な流れや、光に照らされた時の影の表現を活かし、作品を制作しています。
成形技法の一種である、フュージングというガラスを融合する技法を用いて制作しています。「時雨」にはプラチナ箔をガラスの間に挟んで積層し、焼成しています。板ガラスを同じ大きさで、同じ積み重ね方をしても、焼成する温度や時間によって、異なる形が生まれるため、全て一点ものとなっております。
また、自然の情景の瞬間を、映像に切り取るような表現を目指しています。
「雪崩」斜面を急激に崩れ落ちていく瞬間の切り取り。「時雨」雨がほどよくぱらぱらと散っている瞬間の切り取り。
今回は、生活の中に自然に溶け込んで日常生活を豊かにすることができるような、オブジェとしても楽しめるフラワーベースをメインに展開しました。

 

<受賞コメント>
この度は、オーディエンス賞をいただき、誠にありがとうございます。皆様の投票のおかげでこのような素敵な賞をいただけて大変光栄で、とても嬉しく思っております。また、お越しくださった皆様、SICF関係者の皆様、出展者の皆様、本当にありがとうございました。たくさんの方々に作品を実際に近い距離で見ていただけて、貴重なご意見やご声援をもらい、とても励みになりました。これからも皆様からの言葉を大切に、いいものを作り出せるように作品と向き合い、ひたむきに頑張っていきたいと思います。

 

【略歴】
2000年 愛知県生まれ
2022年 女子美術大学 デザイン工芸学科 ガラス専攻 在籍

 

【主な受賞歴】
2022年 「SICF23」 MARKET部門 オーディエンス賞

 

【主な活動】
2022年 「SICF23」 MARKET部門(スパイラルガーデン/東京)
2022年 ISETAN呉服×女子美2022(伊勢丹新宿店/東京)

 

 

Photo: TADA(YUKAI)