SICF24受賞者一覧
EXHIBITION部門11組と、MARKET部門6組の受賞者を審査員のコメントとともに紹介します。
EXHIBITION部門
グランプリ
クニト
<作品タイトル>
Pillars of Creation
<作品について>
粘土を宇宙から地球に向かって落としたら、大気圏突入の際の圧縮熱で焼成され、作品のような形や色になるのではないかと想像して作ったFRPの作品です。やきものの焼成温度は一般的に1230℃〜1280℃で、大気圏突入の温度は、角度などを調整すると1300℃程度に抑えることができます。土の種類にもよりますが、この温度帯は、土が溶け柔らかくなり始める温度でもあります。柔らかくなった土は、空気の抵抗で作品のように変形し、さらに高温になると、土もガラス化し表面がピカピカになるのではないかという妄想を形にしました。誰しもが気軽に宇宙に行くことができるようになった未来では、宇宙でさまざまな文化が生まれているでしょう。やきものをやっている家で生まれた私は、そんな未来のやきものがどのように変化しているのかを想像します。趣味でやきもの教室に向かうかのように、人々は宇宙に上がっていき、粘土の塊を地球に落とすのです。地球には作品のような焼きもながたくさん転がっているのではないかと妄想を膨らまします。
<受賞コメント>
この度、グランプリを受賞できたことを大変光栄に思っています。今回の作品は、インスタレーションなどで表現しているモチーフの1つを引っ張り出して展示しました。私の中でインスタレーションの風景になりつつある作品を見つめ直す良い機会にもなりました。このような素晴らしい機会を与えてくださった主催者や審査員の皆様、そして展示を見に来てくださった皆さまにも、心から感謝いたします。
<審査員コメント>
■金澤韻/キュレーター
宇宙から粘土の塊を地球に向けて落としたとしたらこういうものができるのではないか?という、コンセプトがまずぶっ飛んでいました。そして、その壮大なアイデアをしっかりとした作品に仕上げた技術がすごかった。こちらを驚かせるような造形、かつ質感も面白く、陶のようでもあり金属のようでもあり、また漆のようでもあり。その密度と重量感と完成度は、今回の高レベルな出展者の中でも群を抜いていました。多くの審査員から高評価を得てグランプリを獲得しました。
■加藤育子/スパイラル キュレーター
陶磁を学んでいたバックグラウンドをベースに、宇宙から粘土を投げたら大気圏の温度によってやきものができるのでは、というスケールの大きな発想が魅力の作品です。ネットに塊を入れて吊るし、重力で生まれた形から型を取るという制作プロセスも着想との一貫性があり、また仕上げの美しさに表れる確かな技術力も評価しました。来年行われるグランプリの個展では、スパイラルの広い吹き抜けの空間に粘土がまさしく落ちてきたような、ダイナミックな展開になることを楽しみにしています。
【略歴】
2005年 金沢美術工芸大学美術工芸学部工芸科陶磁コース卒業
2007年 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程工芸専攻陶磁コース修了
2018年 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科博士後期課程美術研究領域彫刻分野修了 博士(芸術)取得
主にモノゴトの二面性をコンセプトに樹脂や布、陶器や金属、木材、光、その他のさまざまな素材を用いて、インスタレーションや彫刻などの幅広い表現で概念的な境界を見つけ出し、時間や記憶などの非物質なテーマを制作している。
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 グランプリ
2020年 「KAIKA TOKYO AWARD」入選
2018年 「農村舞台アートプロジェクト2018」入選
2010年 「第13回岡本太郎現代芸術賞」入選
【主な活動】
主な個展
2022年 「ほどけた平行線とムカデ」(ギャラリー58/東京)
2021年 「標高154センチメートル」(アトリオン2階/秋田)
2021年 「非行為と非物質と透明な線」(ギャラリー58/東京)
2019年 「内にある鏡、景色になる自分」(ギャラリー58/東京)
2018年 「宇宙(せかい)のいと」(金沢市立安江金箔工芸館/石川)
2018年 「異質の、対極。」(同時代ギャラリー/京都)
2017年 「クニト個展」(ギャラリー58/東京)
2013年 「クニト個展」(MU東心斎橋画廊/大阪)
2012年 「11 010 1010」(ギャラリー点/石川)
2011年 「クニト個展」(ギャラリー58/東京)
2008年 「クニト展」(滋賀県立陶芸の森信楽産業展示館/滋賀)
2003年 「sen」(アートドラックセンター/愛知)
主なグループ展
2023年 「表出のかたち展」(重要文化財喜多家住宅/石川)
2021年 「Square展」(ギャラリー58/東京)
2019年 「壁11㎡の彫刻展 4」(いりや画廊/東京)
2018年 「Square展」(ギャラリー58/東京)
2015年 「学園前アートウィーク2015」(中村家住宅/奈良)
2008年 「Zアンデパンダン展」(金沢21世紀美術館/石川)
1987年 「二人展」(大阪現代画廊/大阪)
EXHIBITION部門
準グランプリ
佐藤 はなえ
<作品タイトル>
《1mmタトゥー》 プロジェクトより3点 (展示左から)
1mm tattoo
A new added color to the Mother Nature, or a gift flowing in the river
It has its own compressed story from the point of initiation, drifting in the skin over time, and eventually disappears with the body
<作品について>
《1mmタトゥー》は人体を支持体として自立する世界最小の絵・タトゥーであり、現在1000人を超える志願者(多国籍老若男女)の皮膚の中で、作品として存在しています。
大自然である人体に新しく加えられた色は、個体差や環境の影響を受け、治癒しながら皮下を漂流し、やがて目視できなくなります。
それぞれの1mmは一見すると点または色面ですが、一つ一つに個人のイニシエーションのストーリーが圧縮されている為、体験者にとっては記憶を想起させて鑑賞する装置となります。
今回の展示では3人分の《1mmタトゥー》を平面作品として発表しました。現在修士論文のテーマとしても取り組んでいる為、残り約1000人分の作品やアートブックは来年発表予定です。
タトゥーは1万年以上前から続く身体表現ですが、《1mmタトゥー》はタトゥーを手法に用いたアートワークであり、見せるファッションタトゥー・隠すイレズミ・宗教や民族の象徴とは異なります。スーパーダイバーシティにおいて、《1mmタトゥー》はアイデンティティのみならず、より個で心理的な存在であり、自と他に向き合う時間を作り出すような気がしています。
<受賞コメント>
この度は光栄な賞をありがとうございました。応援してくださった皆様のおかげです。会場では来場者の方々と考察できて楽しかったです。私は現代を生きるホモサピエンスとして普遍的に感じる引っかかりをキッカケに制作しています。特に流動的な自然物である人体に興味があります。作品を通して人体に刺激を加えることで、生の追体験や新しい問いを生みたいです。今後も国際的な作家を目指し制作と交流を続けていきます。
<審査員コメント>
■金澤韻/キュレーター
1mmの刺青を入れるアイデアがどこから来たのかと聞いたところ、もともと作品を「圧縮する」ことに興味があったとのこと。それは、世界中のどんな人でも——家がない人や、過酷な状況にある人でも——所有することができる作品の形の探究だったと思います。すでに1000人が1mmタトゥーをしたと聞きました(確かに「これ、アート作品なの」と示す時の誇らしい気持ちが想像できます)。ユニバーサルなアートとは何か、という、美学的な問いに、一つの答えを示しています。
■山城大督/美術家・映像作家
国籍、姓、年齢、時代を超えて誰もが持つ身体そのものをメディウムとし、広く拡張して展開する可能性を持った作品である。他者からは気づくこともできないほどの《1mmタトゥー》を志願者の身体に埋め込み生活する体験は、それぞれが異物と共生することの「旅」のように感じた。タトゥーの一般常識を覆し、作品を所有する新しい概念を提案するそのスケールの大きさに感動した。
【略歴】
1997年東京都新宿区生まれ。
2016年東京藝術大学油画専攻入学。境界を可視化するアートワーク可動式1畳和室《my room》を発表。
2019年石橋財団海外派遣奨学生としてイタリア留学。ミラノのタトゥースタジオ&ギャラリーでインターンを行う。
2022年東京都美術館にて卒業制作として《1mmタトゥー》を発表。新しいアートワークの一つとして発表したが、アートの枠を超えて各種メディアで新しい価値観として紹介されている。
既出:FASHIONSNAP、雑誌GINZA5月号、TBSラジオ、ampule magazune vol.5。
2023年東京藝術大学大学院美術解剖学研究室に在籍、論文執筆中。
【主な受賞歴】
2022年 「SICF24」 EXHIBITION部門 準グランプリ
2019年 「藝大アートプラザ大賞展」入選
2018年 「藝大アーツイン丸の内」入選
2018年 「二十歳の輪郭」入選
2016年 「久米佳一郎賞」受賞
2015年 「学展」大賞
【主な活動】
2022年 「WEAR ME」(ABAB UENO/東京)
2022年 「G7」(京都アートゾーン神楽岡、B-gallery/東京)
2021年 「HOMETOWN TOKYO」(same gallery、そよや江戸端、kisoba.tokyo/東京)
2020年 「遊園都市の進化」 (RELABEL shinsen/東京)
2020年 「Fake Tattoo」 (WEWORK池袋/東京)
2019年 個展「SONNAMBLO」(sleepwalker gallery, Fano/イタリア)
2019年 「NI/O」 (3331 arts chiyoda/東京)
2018年 「サンサキ万博」 (さんさき坂カフェ/東京)
2018年 『FOOTPRINT vol.1』 発行
EXHIBITION部門
準グランプリ
木村 華子
<作品タイトル>
SIGNS FOR [ ]
<作品について>
私の実家の近くにある線路の踏切には、夜になると青いライトが点灯する。
田んぼの只中を通るその線路を遠くから眺めると、闇の中に青の光が一列に点々と灯っているのだった。
その理由は「駅に青いライトを設置すると自殺率が84%下がる」という内容の論文が発表され、一部の鉄道駅構内や踏切にその案が採用されたからだ。
論文によると、青い光には人の精神的な昂りを抑え、ニュートラルな状態に落ち着かせる効果があるらしい。
空白の看板は意味の有無に一切囚われず、今この瞬間も我々の頭上に堂々と佇んでいる。
本作のテーマは「意味があること/ないこと」のグレーゾーンであり、
それらがひとつの対象の中に同時に成立するということ…さらに遍く物事というものは「意味がある/ない」に関わらず、「ただ存在しているから存在しているのだ」ということを再確認することである。
私はこの作品の前に立つ人が、もしも周囲の物事や自身に対する意味や存在意義を突き詰めようとするあまり息がしづらくなっているのならば、
青い光に照らされた空白の看板を眺めて一旦それらのことを忘れ、ただ在るままにそこにいる本来のニュートラルな状態に回帰して欲しいと願っている。
<受賞コメント>
この度は準グランプリに選出していただき心から嬉しく思っています。
真摯に作品を観てくださった審査員の皆様、本当に有難うございました。
出展した作品は5年前から今に至るまで続けてきたシリーズですが、SICFで沢山の来場者の方から作品のフィードバックをいただけたことにより、私自身も改めてこの作品の捉え方の幅が広がったように感じています。
今後とも「問であり答」になるような、よい作品を作り続けていきたいです。
<審査員コメント>
■廣川玉枝/デザイナー
木村さんの作品は、街中の白い看板に着目しその存在を讃えるものでした。白い看板の上に一筋の線として存在する青白く発光するネオンが象徴的で、まるで絵のような不思議な光景に見えるのですが、実在する風景を写真撮影したそうです。青空と白い看板のコントラストの中に生まれる空間が、不思議な爽快感と静寂を生み出し、その空白と鑑賞者が対話できるようなイメージに仕上がっていました。作者の視点と美意識の視座によって完成された世界観が高く評価されました。
■萬代基介/建築家
広告看板という都市の中の隙間に設けられた構造物が広告の入れ替わりなどで真っ白になるその瞬間を捉えた作品です。都市活動の空間的余白と時間的余白が重なり合い、街の中に真っ白いキャンバスのような、何かを「待つ」空間が生まれています。それをかつては看板を彩っていたであろうネオンライトで照らし、静かに不在を表明しています。私たちがどこかで見たことあるような、しかしそれほど気にかけなかったその一瞬を切り取る才能に心を動かされました。実空間の中で情報の持つ意味が希薄化していく未来を予感させる素晴らしい作品です。
【略歴】
京都府出身、大阪市在住。
2012年、同志社大学文学部美学芸術学科卒業。
大学卒業後よりフォトグラファーとして雑誌、広告などで商業写真撮影に従事する傍ら、現代美術の文脈で作品制作を開始する。
主に「存在する/存在しない」「違う/同じ」などの両極端として捉えられている事象の間に横たわるグレーゾーンに触れることをステートメントの中心に据え、
時代性を内包したコンセプチュアルな作品を展開する。近年は写真を主軸とした表現に留まらず、立体作品、インスタレーションなども手がけている。
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 準グランプリ
2020年 「Sony World Photography Award 2020」ナショナルアワード 日本部門賞2位
2018年 「UNKNOWN ASIA 2018」グランプリ受賞 (レビュアー賞5部門受賞、審査員賞4部門受賞)
2017年 「第16回写真 1_WALL」 審査員奨励賞受賞 (菊地敦己氏選)
【主な活動】
主な個展
2023年 個展「Reflective Save Points」(PAGIC Gallery/東京)
2022年 個展「@Same_Not_Same」(PAGIC Gallery/東京)
2021年 個展「[ ] goes to Grey」(KAGAN HOTEL/京都)
2021年 個展「@Same_Not_Same」(N Gallery/大阪)
2020年 個展「SIGNS FOR [ ]」 (Sony Imaging Gallery/東京)
2020年 個展「SIGNS FOR [ ]」 (tagboat/東京)
2016年 個展「写真庭園プロジェクトVol.2 眼火閃発」(中之島Spinning/大阪)
2016年 個展「写真庭園プロジェクトVol.1 発光幻肢」(gallery Main/京都)
EXHIBITION部門
金澤韻賞
豊田 玉之介
<作品タイトル>
Untitled
<作品について>
作品を制作することは必ずしも理解されることが目的ではありません。
作品を制作し発表することは実験的なプロセスであり、この作品も文字が書かれていない吹き出し、無表情で感情を読み取ることが難しい人物、何も描かれていない背景などの要素を組み合わせることで鑑賞者の感性を刺激することを意図して制作しています。
この作品は、純粋に芸術としての魅力を追求する一方で、ナレーションの可能性やストーリー性からの断絶を試みており、従来の表現形式から脱し、これまでの表現とは違う新たな表現を追求したいという気持ちから生まれました。
この作品を通して鑑賞者が自分自身と向き合い、アートの魅力を見いだすきっかけになることを私は願っています。
<受賞コメント>
この度は、金澤韻賞を頂き誠にありがとうございます。3日間という短い期間でしたが、たくさんの方々と交流する中で今まで自分の中には無かった感覚や視点を得ることができました。このような貴重な機会を与えてくださったSICF24の関係者・出展作家の皆様、またご来場していただいた方々へ心より御礼申し上げます。
<審査員コメント>
■金澤韻/キュレーター
何を描いているのか理解できず、モヤったまま審査員のみなさんとディスカッションする中で、だんだんと、コミュニケーションのブラックボックスを描いているのかな、と思うようになりました。ペットや、子供とのやりとりで、不可解な/意外な反応をもらうときの感じに似ている(あるいは無反応の時)。大人だってわかりませんよね。その、他者のわからなさを、膨大なドローイングを経たゆるぎない線で描き切り、都市空間にコメントのように差し込んでくる。わからなさをそっと肯定する佳作だと思います。
【略歴】
1988年 群馬県生まれ
2011年 信州大学 教育学部芸術教育専攻美術教育分野 卒業
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 金澤韻賞
2022年 「萱アートコンペ2022」大賞
2021年 「萱アートコンペ2021」優秀賞
2018年 「トーキョーワンダーシード2018」 入選
2017年 「群馬青年ビエンナーレ2017」入選
2013年 「Nagano Art File2013」池田満寿夫美術館賞受賞
【主な活動】
2023年 「SICF24」(スパイラルホール/東京)
2023年 「see some scene」(GALLERY IRO/東京)
2023年 「ACT大賞展」(アートコンプレックスセンター/東京)
2022年 「アートアワード-novae-2022」(アートコンプレックスセンター/東京)
2022年 「萱アートコンペ2022受賞作品展」(ハウスM西麻布/東京)
2021年 「萱アートコンペ2021受賞作品展」(ハウスM西麻布/東京)
2018年 「ワンダーシード2018 」(トーキョーアーツアンドスペース本郷/東京)
2017年 「群馬青年ビエンナーレ2017」(群馬県立近代美術館/群馬)
2016年 「RUN RUN RUN 展」 (ニース/フランス)
2015年 「Cabane Georgina #02 」(マルセイユ/フランス)
2015年 「Bêtes d’expo !」 (ブザンソン/フランス)
2015年 「高アートcontemporary GOLDEN ACTION」(高崎駅 、ラジオ高崎/群馬)
2012年 「NAGANO 新 CONCEPTUS」(志賀高原ロマン美術館/長野)
EXHIBITION部門
廣川玉枝賞
HIRATSUKA KNIT
<作品タイトル>
あらららら
<作品について>
おうちに1つはあるかもしれない、可愛いあみぐるみやぬいぐるみ。それが実は人間と同じように生きているかもしれない、そう思ってしまうような、ちょっと可哀想で、でもかわいくて、でもグロテスク。そんな作品をSICF出展にあたり制作しました。内臓の飛び出したあみぐるみに、意味深に吊るされた凶器(布団たたき)。この「かわいい事件現場」を前に「一体何が起きたのか」を推理する楽しみを残しています。お茶の間で火曜サスペンスを見ている時のように、ゆるゆると鑑賞しながら鑑賞者それぞれのストーリーを描いてもらえたらという思いでこの作品制作に臨みました。この作品のほか、通常制作している30体ほどのあみぐるみも壁に展示させていただきました。しかし、一番伝えたいことは私たちの活動自体にあります。私たちの場合は、母が母自身で価値を見出していなかった「編む力」を、私ができる「イメージする力」と組み合わせた結果、行き着いたのが「あみぐるみづくり」でした。そばにいる誰かの気づかれぬ能力に、そばにいる誰かが気づき、その能力が価値に変わるアクションが起きたらとても素敵なことだなと思っています。
<受賞コメント>
私たちは70代と40代の親子で1つのあみぐるみ作家として、2022年の9月頃から本格的に制作活動を始めました。まだ日の浅い駆け出しの身ですが、この度こうして廣川玉枝さんより審査員賞をいただけたことは大変光栄で、身の引き締まる思いです。これを励みにこれからも制作活動に勤しみたいと思います。SICFでは出展作家の皆さんからアートの枠に囚われない十人十色さまざまな考え方や表現に触れることができ、大変刺激を受けました。このような素晴らしい機会をいただき、本当にありがとうございました。
<審査員コメント>
■廣川玉枝/デザイナー
HIRATSUKA KNITさんは、息子さんがデザインされてお母様がそれを編みで表現するという親子のユニットでした。家族の関わりで作品が生まれること自体素晴らしく、一般的に編みぐるみはレトロな雰囲気になりがちなのですが色彩や糸の質感、造形力で新しい編みぐるみの世界を実現されていました。各キャラクターにユニークな名前もつけられていて、他にない愛らしい編みの世界観が素晴らしかったです。来年の受賞展示では大型作品を期待しています。
【略歴】
2022年9月 栃木県足利市に親子共々移住し、あみぐるみ制作を始める。
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 廣川玉枝賞
【主な活動】
2023年5月 「SICF24」EXHIBITION部門(スパイラルホール/東京)
2022年10月 「TERRE POP-UP SHOP」にて初の展示販売(スパイラルSHOWCACE/東京)
EXHIBITION部門
萬代基介賞
万 年
<作品タイトル>
竹の構造体
<作品について>
本作品は、竹をユニット化し、ジョイントをデザインすることによって、「竹の線で構造した空間」「光と影で構造した空間」「空気の流れで構造した空間」という3つの空間の相互作用を考察した作品です。
竹材の「線」は幾何学的な重複を行うことで、異なる角度から見た際の構造体の雰囲気に変化を与えます。また、竹ひごが光に照らされ透かされると、竹ひごは半透明になり、同時に光も竹ひごの色の影響を受けて、やわらかい体験をもたらします。さらに、投射された影の変化も楽しみの1つです。光の差し込む角度や、そこにあるものによって、さまざまな光が干渉してテクスチャーをつくり出します。普段気にもとめない光を捉え方から変えて、新鮮な感覚を与えるのです。
本作品は竹によって作り出された静寂な空間を体験してもらい、人の心を落ち着けるデザインです。体験は記憶の中に残ります。竹という自然素材は時間や光によって徐々に色が付き、感情を持ち、生命力を携えて進化していきます。これはまさに「静寂」の持つもう1つの側面ではないかと思います。
<受賞コメント>
この度はSICF24に出展でき光栄です。三日間、クリエイターの皆様と観客の方々とたくさんのお話をする中で、様々な貴重なアドバイスと評価をいただき、私自身の成長をしっかり感じました。そして大変ありがたいことに、審査員賞(萬代基介賞)の栄誉にあずかることができ、制作の苦労が報われる素晴らしい思い出となったと感じています。今後も精進いたしますのでどうぞよろしくお願いいたします。
<審査員コメント>
■萬代基介/建築家
中国の伝統的な竹細工の技術と現代のレーザーカッターの技術を融合することによって、新しい構築をしようとする試みです。本当に小さな簡単なジョイントを設計することによって、誰でもつくることが可能となり、伝統工芸が開かれていき、美しい竹の構造体が無限に広がっていく未来が見えました。何種類かのユニットが展示されていることによって、バリエーションの豊かさと組み合わせの可能性を感じることができたので、受賞展示ではより空間的に構築してもらえると良いと思いました。
【略歴】
1993年 中国生まれ
2021年 多摩美術大学大学院プロダクトデザイン専攻 卒業
2023年 東京藝術大学博士後期課程 デザイン専攻 在籍
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 萬代基介賞
【主な活動】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 (スパイラルホール/東京)
EXHIBITION部門
山城大督賞
彌永 ゆり子
<作品タイトル>
flotsam
<作品について>
子供の頃から続けている「パソコンで絵を描く」という行為を表現の中心に据え制作している。従来の絵画表現とパソコンで描いた絵を比較したとき、”質感がない”という質感や、ピクセルという単位で構成されていることなどが特徴として挙げられる。しかし、ピクセルを意識した描画方法では描かれた痕跡が見えづらい。そこで、描画の過程を見せることにより「描かれたことの実感」を補足しつつ、絵画に時間性を持たせることを試みている。また、絵の完成形を目指しながらもループさせることで絵の完成という定義を曖昧にした。
今回の展示では、変容していく漠然としたイメージの集合体としてインターネットを海や庭などに見立てて構成した。モニターにはパソコンで描いた絵の描画過程が映し出されている。絵のモチーフはネット上に溢れる集積されたイメージ(flotsam※)から拾い集めた。また、ネットの普及でモノの流通が簡便化したことにより、ものを手にいれるということもネット上でイメージを拾い集める行為と近い感覚となった。そうした感覚を体現するモノとして、ありふれた身近な素材を組み合わせて表現している。
※flotsam:漂流物、がらくた
<受賞コメント>
この度は山城大督さんの審査員賞に選定頂き大変ありがたく光栄に思っております。
限られた空間で、常時よりもインスタレーション的な展示になったかと思います。普段と少し違う見せ方が出来、良い経験になりました。会期中は来場者や参加作家の皆様、審査員の方々と交流でき、とても刺激的な3日間を過ごせました。また、展示が実現できたのはパートナーや家族・友人、運営の方々のご協力があってこそのものでした。皆様本当にありがとうございました。
<審査員コメント>
■山城大督/美術家・映像作家
日用品、網、ビニール、光沢材、小型モニター、再生機材、配線ケーブルなどさまざまな素材にて織りなされた作品は、まるで現代を生きる私たちにとっての風景画のように見えた。映像を物質と等価に扱い、空間の中でブリコラージュし、モンタージュする。無関係だったはずの素材を結びあい配置されるその手法から、まるで詩を読んでいるようにも感じた。巨大な空間の中での作品が見てみたい。
【略歴】
1991年 神奈川県生まれ
2016年 京都市立芸術大学 美術学部 美術科 油画専攻 卒
2018年 京都市立芸術大学 修士課程 美術研究科 油画専攻 修了
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 山城大督賞
2019年 「Kyoto Art for Tomorrow 2019 ―京都府新鋭選抜展―」 読売新聞社賞
【主な活動】
2023年 「SICF24」 (スパイラルホール/東京)
2023年 「Substance, Screen」 (FINCH ARTS/京都)
2022年 個展「(inter)ference」(氵さんずい/京都)
2022年 個展「flotsam」(堀川新文化ビルヂング Gallery Neutral/京都)
2022年 「artbit #2」(ホテル アンテルーム 京都/京都)
2022年 「ARTISTS’ FAIR KYOTO」(京都新聞社 地下1階/京都)
2021年 個展「on the (inter)net」(Monkey Cafe Gallery/東京)
2021年 「OBJECT 2021 -object&book- 」(京都岡崎 蔦屋書店/京都)
EXHIBITION部門
スパイラル奨励賞
大谷 陽一郎
<作品タイトル>
ki/u
<作品について>
従来の文字組みにおける順序に基づいた統語的・論理的な制約から、同時的・直接的に受容する世界へと言葉を解放し、新たな詩を発生させることをを目指している。
作品《ki/u》では、「キ」と「ウ」という音節に基づく漢字を無数に配置することで雨が降る様を描いた。雨乞いを意味する「祈雨(キウ)」という言葉の音節を起点とし、「気宇」「喜雨」「樹雨」「鬼雨」「雨期」「雨季」などの既存の言葉に接続させながら、さらなる派生によって最終的に50種ほどの漢字を選択している。
アーネスト・フェノロサが漢字を「思想絵画(thought-picture)」と呼んだように、長い歴史なかで文字体系を合理化せず複雑化させてきた漢字には、自然や人の姿、ものや情感が形に含まれている。線行から解放された漢字は作品のなかで同時的に存在しており、同一平面上にある全ての漢字と接続する可能性をもつ。鑑賞者の視線のなかで漢字同士が縁によって出会うことで、あらゆるインスピレーションが生まれる。漢字の形態、音節、意味が相互的に作用し絡み合い、祈りのイメージを介しながら漢字同士が共鳴する場として作品を提示する。
<受賞コメント>
様々なバックグラウンドをもつクリエイターの方々と交流できて刺激になりました。
スパイラル奨励賞をいただけてとても嬉しいです。受賞者展を楽しみにしてます。この度は本当にありがとうございました!
<審査員コメント>
■加藤育子/スパイラル キュレーター
漢字で景色を作り出すような「視覚詩」を応用した平面作品。今回は「キ」と「ウ」で表音される漢字を用いて、雨を描いた作品でしたが、過去作品、とりわけ旧平櫛田中邸でのインスタレーションが素晴らしく、空間と呼応した作品展開が期待できると感じ評価しました。漢字(表音)選びの綿密さと同様に、モチーフについても何故それを選んだのか、必然性をより明確にすると、作品としての強度が高まると思います。来年の受賞者展では、スパイラルという都市の建築ならではの展開を期待しています。
【略歴】
1990年 大阪府生まれ
2015年 桑沢デザイン研究所専攻デザイン科卒業
2018年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了
2018-2019年 清華大学(北京)交換留学
2023年 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 スパイラル奨励賞
2022年 野村美術賞
2020年 NONIO ART WAVE AWARD グラフィック部門 グランプリ
2018年 サロン・ド・プランタン賞
2017年 IAG AWARDS IAG奨励賞
【主な活動】
主な展覧会
2022年 東京藝術大学大学院美術研究科博士審査展(東京藝術大学美術館/東京)
2022年 RAYS from the FUTURE(the Seouliteum/ソウル)
2022年 PRIVATE HOUSE 生きられた家(練馬の日本家屋/東京)
2021年 未来可期的日本新鋭藝術家們(上海梅龍鎮伊勢丹/上海)
2021年 孤帆の遠影(MONTBLANC銀座本店/東京)
2020年 DenchuLab.2019(旧平櫛田中邸アトリエ/東京)
2018年 BAY ART(MixC Shenzhen Bay/深セン)
出版
2021年 絵本『かんじるえ』(福音館書店)
2017年 作品集『雨』(リトルモア)
EXHIBITION部門
デイリーアート賞
河嶋 菜々
<作品タイトル>
パンジーのなかの夢
<作品について>
私はパンジーの中にリボンのような星々を感じます。その星々はまるでCGCG396-2というオリオン座の方向にある銀河同士が合体して1つに形成された銀河に見えるのです。私にとって星はインスピレーションをかき立てる夢のような存在であり、そう感じることができたきっかけがあります。
4年前から私は庭の様子を描いていました。夜の庭の様子を描いてみたいと思い筆をとりましたが、真っ暗でなにも見えないので記憶をたよりに描くしかありませんでした。その記憶にあるシュロチクやチューリップ、パンジーなどかつて咲いていた草花たちのつながりがまるで星座のようだと感じたのです。その出来事をきっかけに、植物と星の関連性をテーマに制作するようになりました。
今回の展示では、パンジーの中から感じたモノ、パンジー視点で見る夜の庭の様子を表現しました。この作品を見たときに、宙に浮いている星たちのように心地よい浮遊感を感じていただけますと幸いです。
<受賞コメント>
私は日本画を含め絵画は特別なものではなく日常の一部であってほしいと願い制作しているので、このような賞を頂けましたこと、大変嬉しく光栄に思います。
また会期中に、沢山の方とお話ししながら作品についてのご意見を頂くことができ、大変貴重な時間を過ごさせて頂きました。関係者の皆様、ご来場いただいた皆様に心より御礼申し上げます。今回の展示での経験を糧に、より精進し制作に励みたいと思います。
<審査員コメント>
■加藤育子/スパイラル キュレーター
夜の庭を描く中で、記憶の中の草花が星座のように感じたという河嶋さん。パンジーの視点で見た夜の庭を日本画材で描いた本作は、さわやかな色調の中に顔料の煌めきがあり、身近な草花の可憐さと宇宙に広がる星々を想像させる魅力があります。生活空間に飾って楽しみたい作品として「デイリーアート賞」にふさわしいと考え、選出しました。
【略歴】
1997年 おとめ座生まれ
2022年 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(日本画)修了
現在京都を中心に活動中。
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 デイリーアート賞
2022年 京都市立芸術大学制作展 同窓会賞
2021年 第7回東京装画賞 学生部門審査員賞
【主な活動】
2023年 SICF24 EXIBITION部門(スパイラルホール/東京)
2023年 個展「きらきらひかる」(ギャラリーモーニング/京都)
2022年 チャリティ&オークション オノマトペ(+1art/大阪)
2022年 個展「last night…」(+2/大阪)
2022年 個展「庭にまつわるエトセトラ」(ギャラリーモーニング/京都)
2021年 第46回学生日本画展示(ホテルグランヴィア京都)
2020年 個展「やわらかな眠り」(GALLERY35 kyotoKAMANZA/京都)
2020年 オンライン2人展「うつわとにわ」
EXHIBITION部門
オーディエンス賞 A日程
辻 一徹
<作品タイトル>
Mobile #02
burned composition 〈white〉 01
burned composition 〈white〉 02
burned composition 〈white〉 03
burned composition 〈white〉 04
burned composition 〈black〉 01
burned composition 〈black〉 02
<作品について>
自身初のペインティング作品となるburned compositionシリーズと、彫刻作品Mobile #02 を展示しました。
今回は、操作不能な偶然性を孕んだ物質や現象を素材として作品に取り込み、作品と人と空間との間で起こるその一瞬の現象が、それが目の前にあるということをこちら側に自覚させてくる。そんなことを考えながら制作しました。
burned compositionシリーズでは油絵具にバーナーを使用、高熱による油絵具の表情の変化を秒単位で不可測的に出現させ、プロセスの中で構成を幾度か組み直しながら作品を完成させます。偶然的に生まれる表情が理想とは違くてもそれに向き合いながら瞬間の現象を常に肯定的に捉え直し描いています。
何も振動や風などの外的要因がなければ揺れ動くことがないはずの作品Mobile #02は、展示された空間や目の前の鑑賞者の動きや流れに刺激されある種の 感覚器官的な役割を果たし、揺れ動くという動作によってその時の偶然的な状況をこちら側に伝えてきます。
<受賞コメント>
このような賞をいただけて非常に嬉しいです。作品を見に来てくれた方々の濁りのないリアクションを目の前で感じることができ、とてもいい経験になったと思います。今後の制作もより一層精進していきたいと思います。ありがとうございました。
【略歴】
2001年 東京都出身
2021年 東京藝術大学大学美術学部デザイン科入学、現在在学中
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門オーディエンス賞 A日程
2022年 COMITÉ COLBERT AWARD 2022 グランプリ受賞
【主な活動】
2023年 gray (アメリカ橋ギャラリー/東京)
2023年 SICF24 EXHIBITION部門 (スパイラルホール/東京)
2022年 COMITÉ COLBERT AWARD2022 (東京藝術大学美術館/東京)
2022年 進化論? (東京藝術大学/東京)
2022年 APARTMENT アパルトマン展 (文房堂ギャラリー/東京)
2022年 藝大100ドロ展 (東京芸術劇場 Atelier West /東京)
EXHIBITION部門
オーディエンス賞 B日程
NON SUGISAWA
<作品タイトル>
いつも の ちがうΘ常
<作品について>
わたしたちの日常は、いつも同じことの繰り返しのように思えるかもしれません。
けれど心にちょっぴり余裕をもって、周りを見渡せば、新しい発見があるはず。
SNSの向こうのキラキラした世界も良いけれど、いつもの日常だって本当は、もっと愛おしくて、大切にしたいもの。
便利じゃなくても、かっこよくなくても、なんの役に立たないものだっていい!
そんな思いを込めて、「いつもの日常だけど、いつもとはちょっとちがう日常」をテーマにしました。
<受賞コメント>
私は作品を通して多くの人々に笑顔になってもらうため、日常に潜む密かな気づきを大切にしてきました。
この度初めてSICFに参加させていただき、多くの方々とお話をする機会を得て私の気づきを共有することができ、学びの多い時間となりました。
結果的にこのような賞を頂けたことは私自身とても励みとなります。この喜びを忘れることなく、引き続きより良い作品を制作して参ります。
本当にありがとうございました。
【略歴】
1995年 神奈川県生まれ
2021年 桑沢デザイン研究所 昼間部ビジュアルデザイン科 卒業
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 EXHIBITION部門 オーディエンス賞 B日程
【主な活動】
2023年 SICF24出展
2019年 BAUHAUS 100周年記念イベント : ドイツ ベルリン(作品制作・展示/パフォーマンス)
MARKET部門
グランプリ
ARADOMO
<作品タイトル>
bobo
<作品について>
今はまだまっさらな、赤子のような存在。
「no face」…あなたの感情にただ寄り添う。悲しい時は共に涙を。楽しい時は一緒に笑ってくれる。
「pose」…その姿はまるでハイハイをするぼぼ( 岐阜県飛騨地方の方言で赤ちゃん) の様。
boboはあなたと過ごす事でこれから何にでもなれる。
これから何にでもなれる存在「赤ちゃん」をモチーフとしたこの作品は人と生活を送ることでその人の家族のような存在になっていく、その家の住人になれるというストーリーをコンセプトにしています。
また、布物の経年による手触り、ボリューム、(空間の香りを吸うことによる)匂いなどの変化をそのものの個性が増えていく「成長」とポジティブに捉えていきたいという思いがあります。
<受賞コメント>
この度はグランプリを頂き大変光栄です。幅広い世代の方と直接お話しながら作品を知って頂く機会は普段の発表の場とはまた違った気付きがありました。私の作品は人の生活に直接役立つ機能がある訳では無いですが、心が何か良い形で作用していくきっかけとなればいいなと思っております。
<審査員コメント>
■小林マナ/設計事務所ima(イマ)、インテリアデザイナー
犬や猫や熊やハイハイしている赤ちゃんにも見えるこのぬいぐるみは実は飛騨高山に伝わる「さるぼぼ」というさるの赤ちゃんという意味を持つ人形が由来だそうだ。「安産」や「良縁」などを願うお守りとして親が子供に持たせたもの。そんな、郷土人形をなんとぬいぐるみにしてしまった。しかも顔がないことで見る人や触る人に余白を残しているところが面白い。実際さるぼぼも顔がないことでその人形を持つ人の悲しみや喜びに寄り添うという意味合いも含まれているそうだ。商品としても手に取りやすく、つい触りたくなってしまう愛らしさがとても秀逸な作品だと思った。
■鈴木マサル/テキスタイルデザイナー
顔のない動物のぬいぐるみ。私もよく動物のモチーフを使いますが、目を描いた瞬間に良い意味でも悪い意味でもそのモチーフ自身が意思を持つように思います。このぬいぐるみは目どころか口も鼻もない、単純に動物のフォルムだけが存在しています。顔の表情が全くない事でかえってユーザーが想像を膨らませる事で自由なコミュニケーションが生まれ、それぞれ独自の想いがそこに宿ります。同じ商品でも持ち主によって存在が全く違うパーソナルな存在となる、とてもユニークなプロダクトだと思います。
■西村直子/スパイラル 販売部 商品課長 統括バイヤー
ご自身のアート活動とリンクした、より手に取りやすい生活シーンにも馴染む作品として発表されたシリーズ。さるぼぼをモチーフにした顔のない作品はどこかあたたかく、使い手との距離の取り方(余白の作り方)に魅力を感じました。テキスタイルのアーティストが作るオブジェ作品、昨今増えている印象ですが、ARADOMOさんは、要素をできるだけ削ったシンプルさとフォルムとのバランス、視覚と触覚の両方を満たす作品づくりが秀逸でした。またグリットを使用した展示構成のデザイン力も優れていたと思います。グランプリ展ではぜひソフトスカルプチュア作品との共演を楽しみにしています。
【略歴】
1994年 神奈川県出身
2018年 武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻 卒業
【主な受賞】
2023年 「SICF24」 MARKET部門 グランプリ
【主な活動】
2023年 個展「OBOE」(GALLERY 石榴/東京・長野)
2022年 個展「trace」(gallery IRO/東京)
2022年「P.O.N.D.」(GALLERY X BY PARCO/東京)
2022年 「オキモノ展示会」(マガザンキョウト/京都)
2021年 個展「ARADOMO ! 」(VINYL TOKYO/東京)
2021年 二人展 「ある/いる 」(にじ画廊/東京)
2019年 二人展 「住処」(gallery MADO/東京)
2018年 「武蔵野美術大学 工業工芸デザイン学科卒業制作展」(スパイラルガーデン/東京)
MARKET部門
準グランプリ
もりたるな
<作品タイトル>
くるくる
<作品について>
「くるくる」は、磁力が持つ特性である、引き合う際に生じる「回転」に着目した、磁力で動く触るモビールです。外枠を握ることで中の立体が回転し、手で握る力の強弱の差により、回転の速度と向きをコントロールすることが出来ます。1シリーズ目の外枠は曲木、2つ目のシリーズは紙の積層を使用しており、適度な反発力により操作感も良く、中の回転物は色や形状を変えることで視覚的な面白さが生まれました。また、付属の台座に乗せることで、風などでゆったりと自然に揺れるので、触るモビールとして使用しない際はインテリアとして楽しむこともできます。
<受賞コメント>
外枠を握るという単純な動きで回転するので、大人の方だけでなく、沢山のお子様にも遊んでいただき、今後の可能性が広がったと感じております。引き続き制作活動を続け、新しいシリーズの発表もして参りますので、その際には是非くるくる回転させて遊んでみて下さい!
この度は、素敵な機会をありがとうございました。SICFに参加をさせていただいたことで、出会えた人々との繋がりや経験を大切にしていきます。これからもよろしくお願いいたします。
<審査員コメント>
■小林恭/設計事務所ima(イマ)、インテリアデザイナー
このプロダクトは、電力ではなく磁力が引き合う際に生じる回転によってまるで風に吹かれた風車のようにくるくると回り、単純だけど楽しい点がよかった。機能的なプロダクトが多い中、SPIRALの「アートを日常に」という理念と重なる生活必需品ではないアート的な遊び心を感じられる点も良かった。オブジェクトの動きやプロダクトの形状はまだまだ発展する可能性があると思うので、これからを更に期待したい。
■鈴木啓太/PRODUCT DESIGN CENTER 代表、デザイナー、クリエイティブディレクター
準グランプリの受賞、おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。もりたさんの磁石と手を使って遊ぶモビールは、ユーモアのある動きとチャーミングなデザインで、誰もが笑顔になってしまう楽しい作品でした。出展者の中でも際立つ存在感を放ち、ご本人のパーソナリティと遊び心溢れる個性が見事に調和していました。また、作品を眺めていると、もりたさんが強い情熱を持ち真摯に制作に取り組んでいる姿が想像され、私は大いに感銘を受けました。今後も笑顔が溢れるような作品づくりを期待しています。もりたさんに対して、心からの賞賛と祝福を送ります。来年の展示も今から楽しみにしています!
■西村直子/スパイラル 販売部 商品課長 統括バイヤー
磁力で動くモビール作品。各オブジェのデザイン力や色使いの感性に将来性を感じました。またオブジェというと視覚性や動性を楽しむものが一般的ですが、もりたさんの作品は触れてにぎっても楽しめる、使い手が加担する部分も備えていることは作品をより魅力的にしていました。PRのための動画や作品パッケージ、展示方法など、発信するため世界観もシンプルに全体統一されていたのも評価ポイントでした。ブースに立ち寄った方々が思わず笑顔になるそのパワーを、今後もさらに磨いてもらいたいと思います。挑戦されたいとおっしゃっていた大物作品も、今後楽しみにしています。
【略歴】
2021年 多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業
2021年〜 柳工業デザイン研究会
2023年〜 多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻副手
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 MARKET部門 準グランプリ
2023年 SEAL idea Competition 優秀賞
【主な活動】
2023年 「SICF24」 MARKET部門(スパイラルホール/東京)
2022年 かちのかたちたち展(TUB/六本木)
2022年 ゴミ展 (TUB/六本木)
2021年 プロダクトデザイン専攻卒業制作・修了制作展2021 (BankART Temporary/横浜)
2019年 SPEEDFLAT 2019(AXIS GALLERY/六本木)
2018年 Pacific Rim TASTE MAKING TOKYO(アートテーク/東京)
MARKET部門
小林恭+マナ賞
天野 菜美子
<作品について>
日常でふっと見かける些細な光と陰、日々の景色、旅先で見る風景や体験などをビーズ刺繍とクレイで表現しています。それらは意図的に抽象化しているので伝わりにくい部分でもありますが、受容者への余白を残す事により、様々な考え方や使い道を思い浮かべられるよう心掛けています。
工芸とアートとファッションの間にあるものを意識し製作しており、タイトルがついた作品群ではありますが、型などはなく、全て布に絵を描き、時に変化しながら手刺繍で仕上げており、使用するビーズは色、形にムラの多いアンティークやヴィンテージビーズを使用している為、全て一期一会を楽しんでいただける一点ものの作品となっています。
<受賞コメント>
この度は小林恭+マナ賞を頂き、誠にありがとうございました。製作活動自体は長く続けておりましたが、惰性や妥協ではなく、本当に表現したいものを作りたいと方向転換をし、2022年より新たな活動を開始してからはじめて頂いた賞となります。まるで背中を押して頂けたようで、大変嬉しく励みになりました。
より良いものを作っていく為、今後もより精進していきたいと思います。
<審査員コメント>
■小林マナ/設計事務所ima(イマ)、インテリアデザイナー
ジュエリーであれ何であれ、あれこれ作りたい、見せたいと思うのが作家の心情ではないかと思う。天野 菜美子さんの作品は、要素をかなり削ぎ落とし、色は白のみ、素材はアンティークビーズ、そして形状は幾何学的である。非常に明快で見せ方も美しかった。本来は白と黒という意味を持つmaison de BLANC ET NOIRというブランド名ではあるが、今回は白一色で見せていた。白の使い方、角度を変えたり、色は白でも違うビーズを組み合わせることで作品に奥行きを出していた。何個も欲しくなるような重ね付けも楽しめる作家の世界観がわかる作品で好感を持った。
【略歴】
1982年 兵庫県生まれ
2003年 大阪文化服装学院 ファッションクリエイター学科 卒業後 アパレルメーカーでデザイナーとして入社
2012年 独立開業
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 MARKET部門 小林恭+マナ賞
【主な活動】
2023年 「SICF24」MARKET部門 (東京)
2023年 山口アーツ&クラフツ(山口)
2023年 静岡手創り市(静岡)
2022年 灯しびとの集い(大阪)
2022年 にわのわアート&クラフトフェア チバ(千葉)
MARKET部門
鈴木啓太賞
高橋 星一
<作品タイトル>
紙ペン/紙時計
<作品について>
今回出展しました紙ペンと紙時計は、紙というマテリアルの持つ可能性を探究した試みの成果物になります。トムソン加工、いわゆる紙を圧力で打ち抜く一般的な技術を用いての紙の新たな用途、表現を探しました。
紙ペンは縦110mm×幅55mmの紙の展開図とボールペンリフィル(替え芯)から作る簡易紙製筆記具です。平面的な紙片から成る紙ペンは、構造が簡易であるほかに印刷との相性が優れている点などから、ノベルティや選挙などに用いられる「短命な」ペンの代替となり得る可能性を感じています。
紙時計は、平面的な展開図から丸い輪郭を持ったプロダクトを制作できないかと模索した作品です。紙はその素材特性上、切ったり、折ったり、貼ったりが基本の加工になります。そうしたプロセスで形作られる紙製品は「カクカクな」四角い輪郭を持つことがほとんどです。紙時計はそんな「紙のジレンマ」にささやかな抵抗を試みた作品です。
<受賞コメント>
何かを作り続けていることを共通点にもつ他の出展者の皆さんとつながることができたこと、それらが一堂に会する場を用意してくださったSICFの関係者の方々に深く感謝しています。
そしてこのような大変光栄な賞を頂けたことは今後の励みとなりました。ありがとうございました。
<審査員コメント>
■鈴木啓太/PRODUCT DESIGN CENTER 代表、デザイナー、クリエイティブディレクター
心からおめでとうございます!審査員特別賞として、誇りを持って私の名前を冠した賞を贈らせていただきます。高橋さんの作品は、製品からパッケージに至るまでシンプルでありながら、詳細に目を凝らすと狂気的なほどの工夫と実験が連続していることが感じられます。細部まで究極に研ぎ澄まされた作品群からは、高橋さんの情熱とデザインへの真摯な姿勢が反映されています。私は、高橋さんの情熱と創造力に大いに感銘を受け、ファンになりました。今後も世の中を驚かせるような作品をどんどん生み出し続け、皆を魅了する才能を持つ作家として更に飛躍していってください。高橋さんに、心からの賞賛と祝福を送ります。
【略歴】
1994年 東京都生まれ
2017年 多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業
【主な受賞歴】
2021年 紙わざ大賞30 特別賞
2018年 陶磁器の島 AMAKUSA陶磁器コンテスト 日比野克彦賞
【主な活動】
2023年 「SICF24」 MARKET部門(スパイラルガーデン/東京)
MARKET部門
鈴木マサル賞
Maia Harima
<作品タイトル>
Re’Migrant
<作品について>
アルゼンチン出身の日系三世である私は日本の歴史や文化の周りで生まれ育ちました。
ブエノスアイレス大学卒業後日本へ移住しました。作品のタイトルは「もう一度移住する」という意味の「Re’Migrant」。
おばあちゃんの持っていたちゃんちゃんこや布団からインスピレーションを得て、ヴィンテージの着物の生地と綿わたを素材とし、紐状にしたものを編んで製作したバッグです。中綿は布団と同じ綿わたで、リサイクル(打ち直し)も可能。一本の紐でできているので、バッグとして使わなくなっても、解いてアップサイクルできます。着物の生地の手触りや柄を活かした一点ものです。
私の出身アルゼンチンとルーツの日本を組み編んだ気持ちで製作しました。
<受賞コメント>
このような賞をいただき、誠にありがとうございます。お越しいただきました皆様、関係者の皆様に感謝申し上げます。
展示中には様々なジャンルのクリエイターと交流できたこともすごく嬉しかったです。
今後は作品を更に多くの方へ届けられるようにブラッシュアップして、制作を続けていきたいと思います。
<審査員コメント>
■鈴木マサル/テキスタイルデザイナー
着物のテキスタイルをアップサイクルする企画は数多く行われていますが、日本的なスタイルに囚われ過ぎて中途半端なものになってしまうものが多いのが現状です。これも同様のアップサイクル企画のバックですが、柄のチョイスやチューブ状に縫製するスタイルなど、既視感のない印象に仕上がっています。作者のナショナリティーによるところかもしれませんが、着物文化とは異なる視点がとても新鮮です。今後のロングスパンで取り組もうとしている姿勢や使用後の生分解性まで視野に入れた活動に大いに期待したいと思います。
【略歴】
2019年 筑波大学芸術部ビジュアルデザイン専攻短期留学
2020年 ブエノスアイレス大学ファッションデザイン専攻卒業
2020年 3月 日本へ移住
2023年 文化ファッション大学院大学ファッションビジネス研究科ファッションクリエイション専攻テクノロジーコース卒業
【主な受賞歴】
2022年 Fashion Frontier Program ファイナリスト
2021年 Feel the Contest, イタリアニットコンテストセミファイナリスト
2019年 ブエノスアイレス大学若手デザイナー (Semillero UBA賞)
【主な活動】
2022年 Fashion Frontier Program 展示 新国立美術館
2022年 PUMA×BFGU「Graphic Project」 参加及びデザインの製品化
2021年 Pitti Filati ニット展示 フィレンツェ、イタリア
2020年 ブエノスアイレスファッションウイーク AW2020デビュー
MARKET部門
ベストセールス賞
hyu
<作品について>
[making delicate shoes]をコンセプトに職人の視点から生み出される細部までこだわり抜かれたシンプルでミニマルなデザインの靴をデザインから生産まで担っております。 足が最も美しく見えるよう木型を設計し、素材が最も美しく見えるパターンラインを意識して制作。もので溢れる現代に 普遍的な価値を見出し、いつもそこにいる靴をテーマにいつの時代も様々なシーンにもフィットする靴を提案しております。
<受賞コメント>
この度は多くの方にhyuの商品を手にとってもらい、ベストセールス賞という素晴らしい賞をいただけましたこと、大変嬉しく光栄に思います。
お越しくださった方々、関係者の皆様や出展者の方々には誠に感謝申し上げます。イベント中は靴に込めた思いやこだわりを直接お客様にお話しができる貴重な機会となり、とても充実した三日間を過ごせました。今回いただいた賞に恥じぬよう、より一層良いものづくりに注力し、今後さらに成長できるよう励んで参りたいと思います。
【略歴】
2011年にエスペランサ靴学院卒業。その後、OEMメーカーの下請工場で国内アパレルブランドなどの靴の製造に携わり靴作りの技術を磨く。
2019年に合同会社クランクに入社し、翌年ソロプロジェクト[hyu]を立ち上げ、百貨店にて定期的に受注会を開催している。
【主な受賞歴】
2023年 「SICF24」 MARKET部門 ベストセールス賞
【主な活動】
2023年 SICF24 MARKET部門
2022年 松屋銀座 受注会
2021年 松屋銀座 受注会
2021年 横浜そごう 受注会
2021年 千葉そごう 受注会
Photo: TADA(YUKAI)