【※この対談は、2019年3月28日発行のスパイラルペーパーno.149に掲載されたものです。】
エピソードが多すぎる、劇団子供鉅人
億なつき、古野陽大、キキ花香、益山貴司、ミネユキ、山西竜矢、益山U☆G、うらじぬの、影山徹
益山寛司、地道元春
photo : Nozomi Toyoshima
今やすっかり東京の演劇シーンに馴染んだ子供鉅人だが、もともとは2005年に大阪で結成された劇団だ。筆者が初めて観た作品は、2012年に東京・ザムザ阿佐ヶ谷で上演された『幕末スープレックス』だったが、「幕末の見世物小屋」という設定をそのまま再現したような猥雑で艶やかでいかがわしい劇空間と、そこで繰り広げられる不条理かつ野太い人間ドラマ、また主宰で劇作・演出を手掛ける益山貴司の言葉に対する鋭いセンスと、舞台美術、衣装、音楽、小道具に至るまで徹底してこだわる美意識の高さに圧倒され、すっかり魅了されてしまった。
子供鉅人は、とにかくエピソードが多い。例えば益山は現代には珍しい6人兄弟の長男で、その「長男気質」がクリエーションに大きく影響していること、大阪時代は古き良き長屋で飲食店を開きつつ、お客に小作品を披露していたこと(ちなみに益山は料理の腕前にも定評がある)、2014年にトラック1台で、劇団ごと東京に引っ越してきたこと……などなど昨今の小劇場劇団では珍しいほど団体としてのバイタリティがあり、その「規格外な感じ」がそのまま作品の原動力になっている。
また子供鉅人には実に魅力的なメンバーが揃っている。中性的な魅力を持つ益山寛司は貴司の実弟で、劇団では振付も手掛ける唯一無二の看板俳優。パワフルなセリフまわしと妖艶なダンスで注目を集める傍ら、近年はしっとりとした役どころで新たな魅力を発揮している。さらに、可憐さと芯の強さを持ったキキ花香、狂気を孕んだ演技で魅せる影山徹、品のある大胆さが魅力の億なつき、立ち居振る舞いが美しくデザイナーでもあるミネユキ、自身のユニット、ピンク・リバティでは作・演出も手掛ける山西竜矢など、さまざまな才能が集まったクリエイター集団なのだ。
そんな子供鉅人を紹介する際にひとつ難を言えば、先述した音楽劇『幕末スープレックス』と、黒田育世が振付で参加したダンス性の強い『モータプール』、シェイクスピアの『マクベス』をモチーフに見立てを駆使した『逐電100W・ロード100Mile(ヴァージン)』、抒情詩的な世界観が魅力の『真夜中の虹』など、毎回あまりに作風が異なるため、劇団のカラーを非常に説明しづらいこと。5月に上演される『人力お化け屋敷』も、サービス精神旺盛な彼らのこと、そのまま再演するとは思えないので、初演をご覧になった方もぜひその点をお含みおきのうえ(!)、作品の、そして劇団の進化を見届けてほしい。
文 熊井玲
劇団子供距人(げきだんこどもきょじん)
2005年、益山貴司・寛司兄弟を中心に大阪で結成。音楽劇や会話劇など、いくつかの方法論を用い、世界に埋没する物語を発掘するフリースタイル演劇集団。近年の作品に『真夜中の虹』(初演2016・再演2018)、『ハミンンンンンング』(2018)など。これまで、「CoRich舞台芸術まつり!2012」準優勝、「関西ベストアクト」1位、「SICF19PLAY」グランプリなどを受賞。2019年4月1日〜29日まで目黒にある一軒家を貸し切り新作『SF家族』を公演するほか、5月6日に開催されるSICF19 Winners Performanceに参加。