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SPECIAL INTERVIEW

vol.13 SICF受賞者特別対談 
髙﨑紗弥香 × 南條史生

 

作家として生きる、作家としてつくるということ


都市にはない、静寂に満ちた自然の姿を写し出す写真家、髙﨑紗弥香さん。もみの木や松などの枝葉を写したシリーズ『木々の肖像』で「SICF13」準グランプリを獲得した。当時の審査員であり、「SICF15」でも審査員をつとめる森美術館館長 南條史生さんは、髙﨑さんの写真に作家としての潔さを見たと語る。SICFがきっかけとなり、2013年冬〜2014年早春には六本木ヒルズクラブにて個展も開催された。ここでは、展示会場となった六本木ヒルズにて、写真の話から作家としての生き方、作品の見せ方についてまで、語っていただいた。

 

※六本木ヒルズの会員制クラブ「六本木ヒルズクラブ」にて開催された「髙﨑紗弥香 作品展」は2014年2月24日(月)をもって終了しました。

 

南條史生

1949年東京生まれ。森美術館館長。慶應義塾大学経済学部、文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。国際交流基金等を経て、2002年より森美術館副館長、2006年11月より現職。過去にヴェニスビエンナーレ日本館(1997)及び台北ビエンナーレ(1998)コミッショナー、ターナープライズ審査委員(ロンドン・1998)、シドニー・ビエンナーレ国際選考委員(2000)、ハノーバー国際博覧会日本館展示専門家(2000)、横浜トリエンナーレ(2001)、シンガポールビエンナーレ(2006及び2008)のアートディレクター等を歴任。慶應義塾大学非常勤講師。近著に「疾走するアジア-現代アートの今を見る」(美術年鑑社、2010年)「アートを生きる」(角川書店、2012年)がある。

http://www.mori.art.museum/jp/

 

髙﨑紗弥香

1982年生まれ。写真家。法政大学社会学部社会政策科学科卒業。在学中よりカメラマン宅間國博氏に師事。その後、独立。「SICF13」(2012)にて準グランプリ獲得。以後、GALLERY エクリュの森(静岡)、六本木ヒルズクラブでの個展、ART FAIR TOKYOなどのアートフェアやグループ展に参加し、活躍の場を広げている。

http://www.sayakatakasaki.com/


夏場の約4ヶ月間、山小屋で働きながら写真を撮っているんです。(髙﨑)

 

 

—髙﨑さんがSICFに参加されたきっかけからお聞かせいただけますか?

 

髙﨑:私は写真の公募展に全く通らず、ずっと審査に落ち続けていたんです。そんな時に、インターネットで偶然SICFを見つけて応募し、初めて審査を通過しました。ですので、SICFは私にとって初めての展示だったんです。SICFはノンジャンルで、展示の場に居てお客さんと話せるということが魅力でした。その時の審査員が南條さんでした。

 

南條::紗弥香さんの写真は、切りとり方がすごくユニークだと思いましたね。カラフルではないんだけど、ものすごく特徴があるというのかな。樹が上の方にあって、あとは真っ白な余白、とかね。普通の切りとり方じゃない。けれども写真というものは、偶然面白いものが撮れてしまうこともあるし、どのぐらい作者が意図して撮っているのか、ということが非常に重要なんです。僕は写真展の審査員はたくさんやってきたけど、その辺りの判断が難しい。一点見ただけでいい作品か悪い作品か、という議論はできるけれども、その一方で作者の意図や作品の主題や、作家の生き方がどのぐらいリアリティとして現れているか、ということも重要になってくる。そうすると、その作家のかなり沢山の数を見ないとその判断ができないんです。それで「SICF13」の時は、紗弥香さんの作品はポートフォリオをパラパラとめくって、うんうん、という感じだったんだけど、その後でもう一回会った時に、ゆっくり見て話を聞いたんです。

 

「SICF13」出展作品『木々の肖像』
 

髙﨑:「SICF14」と同時開催した「SICF13受賞者展」の後に、一緒に展示していた切り絵の悠さんと絵画のフクシマチヒロさんと一緒に、作品を見せに行ったんですよね。

 

南條:そうそう、フェイスブックで悠さんからメッセージが来たんだ(笑)。それで 3人でポートフォリオを持って来て。その時に紗弥香さんが山で生活しながら写真を撮っていたという話を聞いて、彼女の人物像と作品が一致してきたんだな。

 

—山で生活されていたんですか?

 

髙﨑:はい。ここ3年ぐらいですが、夏場の約4ヶ月間、山小屋で働きながら写真を撮っているんです。岐阜と長野の県境にある御嶽山の山小屋で。お休みの時は、他の山に行ったりもします。

 

作家の「生き方」と作品が一致しているところに、作品としての強さがある。(南條)

 

 

南條:その山での生活というのは、常人の生活じゃないんですよ。仙人みたいなものだから。そういった話を聞いた時に、作品の説得力も増してくる。山の生活の中で撮っているということ自体が、作品の信憑性や説得力の一部になってくるんです。ただ単に車でパッと山に行って撮ってきた写真とは、意味合いが違う。古くさい言葉だけど、「生き方」というのかな。作家の「生き方」と作品が一致しているところに、作品としての強さがある。実際、紗弥香さんの写真の思い切りの良さや潔さというのはなかなか出てこないですよ。その潔さと山に登ったら4ヶ月降りてこないということは、どこかでつながっているんだと思います。紗弥香さんの潔さというのは、一種の才能なんですよ。また、バシッと一気通貫したシリーズがいくつもあるということもいいと思う。これは見た時に説得力があり、はっきりと意図が伝わってくる。そこに揺るがない狙いが見えてくるんです。

 

- 髙﨑さんは、どんな思いで写真を撮られているのでしょうか。

 

髙﨑:撮っている瞬間は感覚的なものですが、作品としてまとめる時はそれだけではありません。私の場合は何かを撮りにいくのではなく、自分が行動した先、身を置いた先で、自分が撮るべきものに出会ったら撮る、というスタンスです。ですので、山に登っても1枚も写真を撮らないこともありました。今は「自分の感じ方ひとつで世界は一変する」という、普遍的なコンセプトのもと新しい世界を見てみたいという思いで作品をつくっています。

 


 

- 「SICF13」に参加されてみて、いかがでしたか?

 

髙﨑:今所属している「GALLERY エクリュの森」のオーナーにも声をかけていただいたり、写真家以外の作家友達ができたりと、得たものは大きかったですね。

 

南條:日本では、若い作家がどこで作品を見せて次のステップに進んで行くか、ということがなかなか見えない難しさがあるよね。SICFはその入口の一つになっているんだね。

 

- SICFで南條さんと髙﨑さんが出会われたことが、六本木ヒルズクラブでの個展にもつながりました。

 


『SNOW SUITES』シリーズの一枚

 

南條:出会ってからここまで、すごくスムーズにつながっている気がするね。ヒルズクラブでの展示は、ここの空間を若い作家の発表の場として生かせるなら、ということでマネージャーの了解を得てやっています。今回はマネージャーが冬に雪山の写真を見せたいということで、紗弥香さんの『SNOW SUITES』シリーズを選びました。今までは六本木ヒルズのイメージもあって都会がテーマだったんだけれども、最近は少し自然の方にふってみよう、ということで企画しました。

 

自分のやりたいことを見極め、SICFに「これが自分の見せたいものなんだ」というエッセンスを出してください。(南條)

 

- 南條さんは色々な場面で若い作家をバックアップされていますが、展覧会も積極的にご覧になっていますか?

 

南條:時間がなくてギャラリー巡りはなかなかできないんですけどね。SICFやアートフェア、大学の卒業制作展の講評会に呼ばれた時なんかに、まとめて見るようにしていますよ。僕にとって審査をするということは、まとめて相当な数を見られるというメリットがあるんです。

 

- 作家の皆さんや、SICFに出展を考えている方にメッセージをいただけますか?

 

南條:自分がやりたいことを見極めることはとても大事だと思いますね。どういう風に生きるか、ということと作品がつながっていないと、しんどいんじゃないかな。そこを見極めた上で、SICFに「これが自分の見せたいものなんだ」というエッセンスを出してください。ギャラリーと違って小さな空間なので、そこで自分のどのエッセンスを出すか、という取捨選択が必要です。自分のエッセンスを説得力のあるかたちで見せないと、難しいですよ。あとは、新しいものを見せて欲しいですね。それは別にインターネットを使うとかいうことではなくて、もう少し感覚的なことだと思います。今、時代がどんどん前に進み、世界も変わりつつある。そういった時代感覚が反映された作品を見てみたいという期待がありますね。もちろん工芸的なものでもいいんだけど、工芸の中から新しいものが出て来てもいいと思う。僕はもう、過去に興味はない。アートにも、もう少し革新の風が必要なんじゃないかと思いますね。

 

髙﨑:本当に、何がどのような流れで繋がっていくかわからないので、やりたいことをやってみたらいいと思います。私自身も、SICFがきっかけで色々なご縁を頂き、今に繋がっているので。

 

インタビュー・文 宮越裕生