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SPECIAL INTERVIEW

vol.21 SICF受賞者特別インタビュー 
関川航平

【※この対談は、2018年3月27日発行のスパイラルペーパーno.146に掲載されたものです。】

 

つくることで初めて得られる「言語」


「些細なことかもしれないですが金属の光、反射がある。目線が、トンビまで散れるかの話をいつだって。エアコンの音が聞こえる。2つの波がぶつかって、1つは小さい波、もう2つは大きな波」。こうした、散文詩を思わせる自由な言葉の連なりからなるパフォーマンス作品『片耳をふさぐ』で、美術作家の関川航平はSICF18 PLAYの最優秀賞を受賞した。『片耳をふさぐ』で、関川が20分にわたり身振り手振りを交えて声に出していたのは、関川が会場となるスパイラルで目にする光景と、自身が過去に見たいくつかの光景についてをランダムに入り混ぜて言葉にしたものだ。「見る、言葉にする、喋る。この3つの事柄の間にある“整え”の作業を解除したいという気持ちをきっかけとした作品です」と、関川は作品について話す。目の前に広がる風景をぼんやりと見て、既知の言葉を通してその状況を把握し、要素を選びとり、声に出す。これらの間には実は大きな隔たりがあり、そこからこぼれ落ちてしまうものに、関川は問題意識を向けるとともに可能性を見出している。「歌うときに片耳をふさいで自分の音程を聞く。そんなふうに内(過去)と外(現在見ている状況)の往復をイメージした作品タイトルにしました」。

 

 

『片耳をふさぐ』(2017)
「SICF18 PLAY」最優秀賞受賞作品

 

関川が手がける作品ジャンルは、パフォーマンスやインスタレーション、イラストレーションまで幅広い。しかしながらテーマとしてそれぞれ伝えたいこと・言いたいことは「なにもない」のだと言う。「学生時代には、思考が他人に伝わるまでに発生する“ねじれ”が気になっていました。たとえば自分が考えていることが100%だとして、作品が完成した時点で70%になってしまうかもしれない。すると、見る人には50%くらいしか伝わらないんじゃないかって。それじゃあ、伝えることが0%ならば、伝導率100%になるんじゃないかとか、そんなことをずっと考えていました。最近はその図式で考えているのではなく、そもそも意図は伝わらず、意図したものとは別の何かが伝わっていくこと、その伝達に含まれることについて考えています」。アート作品の多くに付随する「伝えたいこと」。それらに疑いを持ちながらも関川が作品を制作し続けてきたのは、「実際に手を動かしてみて初めてわかること、発見することが面白いから」だと話す。「ドローイング、インスタレーション、パフォーマンスなどは、自分のなかではそれぞれ異なる言語のようなものなんです。制作するなかで“自分はこのジャンルでこういうことができるのかもしれない”と発見できる。それは多言語話者の感覚に近いのかもしれません」。

関川の最新作は、映像とパフォーマンスで構成される『あの(独奏)』。「あのお茶」「あのペットボトル」「あの腕時計」など、指示詞と名詞を組み合わせた言葉を延々と関川が8時間語り続ける作品だ。「“あの”は、“この”や“その”よりも距離も時間も遠く、鑑賞者と自分の間で共有されるものがない寂しさがある。それは『片耳をふさぐ』よりも見る人に伝わりにくいかもしれないし、伝わらない前提の作品といってもいいかもしれません」。そして、これまでに多種多様なジャンルの作品を手がけてきた作家がいま、集中的にパフォーマンスに取り組んでいるのには次のような理由があるのだという。「最近、“言葉”を面白く感じるんです。言葉が限定的であることに、いまはとても関心があります」。作品によって得られる発見を「哲学未満の、信念に近いもの」と言い表す関川。これからも、片耳をふさいで正しい音程を探るように制作と思慮を往還しながら、発見を繰り返していくのだろう。

 

次回作へ向けた構想スケッチ

 

インタビュー・文 堀添千明

関川航平(せきがわ こうへい)

1990年宮城県生まれ。2013年筑波大学芸術専門学群特別カリキュラム版画コース卒業。パフォーマンスやインスタレーション、イラストレーションなど様々な手法で、作品における意味の伝達について考察する。これまで2014年「横浜ダンスコレクションEX2014」新人振付家部門ファイナリスト、「ゲンビどこでも企画公募2014」八谷和彦賞・観客賞、2016年「第14回グラフィック『1_WALL』」グランプリ、2017年 「SICF18 PLAY」最優秀賞などを受賞。

http://ksekigawa0528.wixsite.com/sekigawa-works