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SPECIAL INTERVIEW

vol.12 SICF受賞者特別対談 
大西景太 × 照井順政

 

映像作家と作曲家の出会いから生まれたミュージックビデオ「地下鉄の動態」をめぐって


まるで音と映像が最初からそう在ったもののように、ぴったりとシンクロしているミュージックビデオ「地下鉄の動態」。各楽器の音に同期したアニメーションが地下鉄をかたちづくり、流れるようなシークエンスを構成する。ディレクションとアニメーションは映像作家の大西景太さん、音楽はオルタナティブ・ロックバンド、ハイスイノナサが手がけた。彼らの出会いは、大西さんがスパイラル奨励賞を受賞したSICF12(2011)がきっかけだったという。大西さんとハイスイノナサの照井順政さんにお話を伺った。

 

大西景太

1980年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院修了。音に関わる映像表現をテーマにインスタレーション作品等を制作し、「アートと音楽/新しい共感覚をもとめて」(東京都現代美術館、2012)などに出品。ディレクションを手がけたハイスイノナサ「地下鉄の動態」(2012)は第16回文化庁メディア芸術祭にてエンターテイメント部門新人賞受賞。シンセサイザーバンド”クリスタル”のメンバーでもある 。
http://www.onishikeita.com/

 

照井順政

作曲家 / 演奏家。ミニマル、アンビエント、ポストロック、エレクトロニカなどといった様々な要素を合わせもつオルタナティブロックバンド「ハイスイノナサ」にてギターを担当。「omni」、「people in the box」のサポートや楽曲提供、アイドルのプロデュースなども手がける。

http://www.haisuinonasa.com/


“ハイスイノナサの音楽と合う”と直感したらしく、会場で声をかけてくれたんです。(大西)

 

 

-大西さんとハイスイノナサがコラボレーションされたきっかけはSICFだったそうですね。

 

大西:はい。SICF12の時に出品していた「Forest and trees」は、12個のデジタルフォトフレームが音と映像を再生し、やがてひとつの音楽を生成していくという作品でした。照井さんの友人がその作品を見て”ハイスイノナサの音楽と合う”と直感したらしく、会場で声をかけてくれたんです。

 

照井:しかも、その場で「これを聞いてくれ!」みたいな感じで、僕らの音楽を聴かせてくれたらしいです。

 

大西:そう、いきなり「一緒に何かやったら合うと思うんだけど!」と言って、持っていたイヤホンで聴かせてくれて。その方のインパクトがあまりにも大きくて、圧倒されました。

 

照井:すごいですよね(笑)。

 

大西:その後、彼が照井さんと会う機会をセッティングしてくれたんですよ。その時に初めて照井さんと会って、3時間ぐらい音楽の話で盛り上がりました。僕自身もバンドをやっていたりして音楽の経験があったので、好きなアーティストの話で盛り上がったりして。

 

照井:ダモ鈴木(※1)の話でね。その時に「地下鉄の動態」のデモができつつあったので、大西さんに聴いてもらって、「音と図形が連動して動き、それが徐々に地下鉄を形作っていくというようなのはどうでしょう?」と少しだけイメージを話して、そこから始まったんです。

 

僕の思う地下鉄のイメージと大西さんの映像を上手くくっつけられたら、と。(照井)

 

-音や映像のイメージについて、言葉でやりとりをするのは難しくなかったですか?

 

照井:「Forest and trees」など、大西さんの作品を見ていて、音と図形が連動して動くような表現が一番作りやすいのかなと思っていたんです。それで、僕の思う地下鉄のイメージと大西さんの映像を上手くくっつけられたら、というところを相談していきました。当初は3D映像になるとは思っていなかったんですけれど。

 

大西:「Forest and trees」は2Dの淡々としたループ映像だったので、それを少し変えたいなと思っていました。それでコラボレーションの話が持ち上がった時は、ちょうど3Dソフトを導入したばかりの頃だったんです。そんな時にタイミング良くコラボレーションしたおかげで、3D映像が作ることができました。ハイスイノナサの音楽と一緒にやることによって、音楽の抑揚を手に入れたおかげで、映像にめりはりがついたのも良かったですね。
「SICF12」で展示した「Forest and Trees」はその年の「第15回メディア芸術祭アート部門審査員推薦作品」に、「地下鉄の動態」は昨年メキシコの短編アニメーション映画祭「CutOutFest」でBestMusicVideo賞に選んで頂きました。

 

 

-大西さんに音楽の経験があったということも、うまく作用していたのでしょうか?

 

大西:それはあると思いますね。僕自身興味があって、少しだったらわかるので。

 

照井:あそこまで細かく音と映像を合わせよう、という人はなかなかいないですからね。

 

-作業的にはどのように連携されたのですか?

 

大西:照井さんから楽器ごとの打ち込みデータを貰って、音楽ソフトで音の動きを確認しながら映像を作っていきました。音楽ソフトのインターフェイスだと、音を視覚的に確認できるんです。音楽ソフトと映像ソフトを同時に立ち上げて作業していましたね。

 

照井:でも、録音した音源しか渡していないパートもあったんですよ。その場合はMIDI(※2)化できないというか、打ち込みデータのように目で見て確認することができないので、大変だったと思います。耳で聴いて、それに合わせて映像を作っていくしかないので。

 

-コンピュータと人間の耳の合わせ技だったんですね。

 

照井:周りの人から、「これ音楽やっている人が作ったよね」とか、「同じ人が一人で作ったんじゃないの?」とか言われます。

 

世の中には中間領域にある表現というものもあると思うのですが、SICFはそういう方にとっても出展しやすいと思います。(大西)

 

-大西さんがSICFに参加されたきっかけはどんなことだったのでしょうか?

 

大西:もともと僕は音楽と映像が交わるような作品を作っていたのですが、ちょうどSICFに作品を出す前ぐらいの時期は、デザインの仕事や、舞台美術の映像制作などをしていた頃でした。でも、久しぶりに自分の作品を作って発表したいなと思って、展示場所を探していたんです。ところが、貸しギャラリーなんかは、音やジャンルの制限が多く、あまりいい所が見つかりませんでした。そんな時にSICFを見つけて、応募しました。世の中には中間領域にある表現というものもあると思うのですが、SICFはそういう方にとっても出展しやすいと思います。

 

−またコラボレーションされる計画はありますか?

 

照井:今度は、できあがった曲に映像を付けてもらうのではなく、ゼロから一緒に作れたら、という話をしています。ちょうど今新曲を作りはじめているので、大西さんと話しながら作っていけたらいいですね。

 

-コラボレーションすることで、それぞれに活動の幅が広がったのではないでしょうか。

 

照井:かなり広がりましたね。僕はアートも映像も好きですし、以前から音楽以外のこともやりたかったんです。特に映像と一緒にできたら、ということはずっと思っていたのですが、周りにそういう知り合いもいないし、なかなか実現できませんでした。それが大西さんと出会えて「地下鉄の動態」を作ったことで、最近では色々な方から「一緒に何かやりませんか」と連絡がくるようになって。僕たちのやりたいことが周りに分かってもらえて、協力してくださる方を見つけやすくなったんです。大西さんの活動の広がりにもなっていたらいいなと思っているのですが。

 

大西:それは完全に恩恵を受けていると思います。SICFの翌年に、東京都現代美術館で行われた「アートと音楽」(2012)という展覧会に参加したんですが、その時は「地下鉄の動態」を見た方が僕を推薦して下さったそうです。その展示には「forest and trees」をアップデートしたものを出展しました。その他にも東京メトロのCMで地下鉄のアニメーションを作ったりですとか、色々と依頼を頂きました。

 

出展者がその場にいると、物事が発展するスピードが速いということはあると思う。(照井)

 

照井:SICFは、出展者の方がその場にいるというのもいいですよね。出展者がその場にいると、物事が発展するスピードが速いということはあると思う。クリエイターとの出会いをもとめている方にもいいと思いますね。

 
大西:今年からは、パーテーションの壁の色が茶系から白に変わりますよね。会場の雰囲気もかなり変わるのではないでしょうか。

 

-ハイスイノナサは、スパイラル内「CAY」にてライブが予定されているそうですね。

 

照井: はい。2月28日に行われる lycoriscoris(moph records)というアーティストのリリースパーティに出演します。no.9 orchestra や haruka nakamuraさん、sawakoさんなど、エレクトロニカ系の有名アーティストが出演します。ハイスイノナサだけバンド界隈からの参加なのですが、新鮮な気持ちで見ていただけるのではないかと思います。
じつは今日は、大西さんにそのライブのVJを頼みたいなと思っていたんです。大西さんのスケジュール次第だなあと思っていたんですが。

 

大西:じゃあ、やります。

 

照井:よし、この場で言って正解だ(笑)。良かったです。

 

インタビュー・文 宮越裕生

 

※1 ダモ鈴木:1950年生まれ、ヴォーカリスト / アーティスト。旧・西ドイツの前衛的ロックグループ「CAN」の元ボーカリストとして知られ、先鋭的なアーティストたちから絶大なリスペクトを集めている。

 

※2 MIDI(ミディ):シンセサイザーやコンピューターなどの演奏データを、機器間でデジタル転送するためのデータ転送規格。

 

【お知らせ】
「Until then -lycoriscoris release party-」に出演を予定しておりましたハイスイノナサは、メンバーの体調不良のため、やむを得ず出演をキャンセルさせていただくことになりました。心よりお詫び申し上げます。(2014/2/27)

 

Until then -lycoriscoris release party-
日程:2014年2月28日(金)
時間:OPEN / START 18:30
料金:予約 2,500円 当日 3,000円(ご入場の際に1ドリンク代として600円を頂きます)
席種:着席または立見(ご来場順)
会場:CAY(スパイラルB1F)
〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23
出演 :no.9 orchestra、haruka nakamura special ambient session(haruka nakamura×sawako×moskitoo×AOKI,hayato×ARAKI Shin)、ハイスイノナサ、lycoriscoris、Ametsub(DJ)