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SPECIAL INTERVIEW

vol.22 個展「身体と世界の対話 vol.2」開催インタビュー 
神楽岡久美

 

1000年後の身体美を検証するアート


 

小さな鏡による光の粒の集合体に、鑑賞者が点描画のように映し出され、見る者と作品が呼応する様が印象的な作品『光を摘む』でSICF16にてグランプリを受賞した神楽岡久美さん。スパイラルの運営母体である株式会社ワコールが運営する「ワコールスタディホール京都」にて、現在、関西初の個展「身体と世界の対話 vol.2」(2019年1月26日まで)を開催している神楽岡さんに、近年の制作活動についてや、作家として大切にしている事を聞いた。

 

神楽岡久美(かぐらおかくみ)

1986年東京都生まれ。2012年武蔵野美術大学大学院造形研究科デザイン専攻空間演出デザインコース修了。2012年から14年まで玩具企画デザイン会社にて、商品企画、開発、デザイン、展示空間ディレクターを務めたのち作家として活動を始める。2015年「SICF16」にてグランプリを受賞。Yuka Tsuruno Gallery、T -Art Galleryなどのギャラリーをはじめ、十和田市現代美術館(青森)、BankART1929(神奈川)などの美術館やアートセンターにて企画展、個展を行なう。2017年『アイスタイル芸術スポーツ振興財団』より助成アーティストとして選定される。「身体とは感覚を持って外界と対話するためのツールである。」をステートメントに、現在は、『美的身体のメタモルフォーゼ』の制作を行っている。

http://www.kumi-kaguraoka.com/


インタビュー

 

—はじめに今回の展示について教えていただけますか。

 

神楽岡 : 実は、2016年にも「身体と世界の対話」というタイトルで個展をしていて、今回はその2回目にあたります。「身体と世界の対話」は作家としての自覚というか、自分なりの意識を持って作り始めた作品がぎゅっと詰まった展覧会シリーズ。テーマとして身体という軸が出てきて、そこから考え、向き合い直してつくった『光を摘む』と『美的身体のメタモルフォーゼ』という作品を出展しています。『美的身体のメタモルフォーゼ』は、身体の矯正によって、未来の美しい身体を検証するギプスの作品です。また、これからも続けていくという意味を込めてvol.1やvol.2などのナンバリングをしています。今後は、身体を軸にした新たな作品が増えていくことも考えられますし、例えば、今回は『光を摘む』を撮影した写真作品を2点出展しているんですが、これまでの作品に対する新たな発見から生まれてくる作品を展示することも考えられます。

 

「身体と世界の対話 vol.2 」より『美的身体のメタモルフォーゼ』  会場 : ワコールスタディホール京都

 

—1つの作品に対して、伝え方が多様になってきたということでしょうか。

 

神楽岡 : そうですね。実際「SICF16受賞者展」で、『身体矯正ギプス vol.1 what is beautiful body?』を壁掛けで展示した際に、鑑賞者から、そのものだけあってもわかりづらいので、装着した状態なのか、説明的なもの、あるいは映像がある方が良いのではないかとの感想をいただきました。今回の展覧会では、その映像作品を新作として発表しています。作品がどう機能し、身体のどのパーツを女性の憧れる形に矯正するのかを説明する紹介映像です。

 

「SICF16受賞者展」(2016) 会場 : スパイラルガーデン

 

—女性の憧れる形とはどういったものでしょうか。

 

神楽岡 : 美を追求する歴史は古く、ファッションや化粧のような「皮膚の拡張」もありますが、私は「美意識による身体への行為」としての「身体の拘束」に着目しました。中国の纏足、西洋のコルセット、カヤン族の真鍮リングによる長い首などのように、骨格をも変える行為です。その人類史の中から、共通する美の考え方を抽出すると共に、これからの時代に、文化や環境の変化によって生まれてくるであろう美も推測しています。リサーチを進める中で、生命体としての生きる強さも美に関係していることがわかってきたので、例えば1000年後を考えた時に、地球環境や宇宙環境にも変化があることを考慮し、それらに適応できるギプスをつくっています。また、テクノロジーの発展によって、新しいことが発見され、歴史も少しずつ変わっていくので、そのあたりも考慮しています。

 

テクノロジーを駆使し、究極の機能美を追求する


 

—身体を軸に作品を制作しているとのことですが、いつから身体や身体性に興味を持ち始めたんですか。

 

神楽岡 : ステートメントのような作家としての軸を持ち始めたのは、本当に最近です。SICF16のグランプリ受賞がきっかけで、作家として名前がちょっとずつ出てきた時に、しっかりとステートメントを持たなきゃと思いました。これまでの作品や自分の育ってきた環境を見返した時に、身体が軸になると思ったんです。気づかされたというのが正しいのかもしれません。例えば、高校生の時から、ファッションが好きだったというのも関係していると思います。あと、父親が外科医なんですが、家に医学書があったり、父がイメージトレーニングで、人間の皮膚に似せた模型のようなクッションを縫った痕跡があったりして(笑)。身近なバックグラウンドというのは、もしかしたら影響があるかもしれませんね。

 

「身体と世界の対話 vol.2 」より『光を摘む』 会場 : ワコールスタディホール京都

 

—作品は、実際に身体を矯正できるものなのでしょうか。

 

神楽岡 : はい。実際、SICF16受賞者展で出展した時からは実用面でブラッシュアップを重ねています。当初は、装着することによって美しくなるためのギプスと謳っていたんですけど、取材の度に自分が着けるということが頻繁になるとは想像できておらず、毎回装着に苦労していました。そこでジョイント部分を改良するなどして、今の形に至ります。

 

−今後はパーツを増やして行くような展開なんでしょうか。

 

神楽岡 :

今考えている完成形は、全身フルボディです。今は、鼻を高くするギプス、福耳にするギプス、首を伸ばすギプス、猫背を矯正するギプスと脚を矯正するギプスだけなんですけど、腰回りやお尻回り、あと、骨盤からつま先まで一体化しているギプスをつくろうとしています。最近は、エンジニアや、平面を3Dに起こすことが得意な方などに、作品の制作について相談や協力していただく機会が増えました。ただ、3Dソフトで図面をつくる時も、このエッジの角をつけるか、丸くするかなどのデザインの部分は、自分で紙のプロットをつくって、その部分の機能や全体像を確認して、調整するという感じです。

 

 

 

作家の考えや思考を提示することの重要性


 

—独自のリサーチをベースに作品をつくるアーティストが増えきたように思いますが、神楽岡さんも徹底的にリサーチを行なっていますよね。

 

神楽岡 : はい。自分の視野ってすごく限られていると思っているんです。本を読んだだけでも、もう一人の人生を歩めたように思えたりします。情報が溢れた時代だからこそ、人に聞かなくても、いろんなことが調べられる環境が整っていますし、連絡先も簡単に調べられたので、学生の頃から、他の大学の研究室や解剖学の先生に会いに行っていました。最近は、人類学の有識者や、様々な分野の専門家と会って、実際に話を聞くことで、以前より驚きや発見が多くなり、表現への落とし込みが深くなりました。その中で、アートは自分とは違うジャンルの人との境界を超え、共有し得るものではないかと思い始めました。

 

—共有するとはどういう事でしょうか。

 

神楽岡 : 私はどちらかというと、作品を通して観る人に新たな価値観や、ものごとの視点、未来ではこういう可能性もあるよね、と提案するように考えを伝えたいと思っています。その形態が言語なのか、立体や平面、映像作品としてなのかは、その作品にとって一番適切な形や方法で提案していこうと考えながら制作しているので作品によって異なるでしょうね。

また、作品の制作において2D、3Dソフトで制作する過程が増えてきたことで、作品をデータ化すること、そしてそれによって作品自体を世界中と共有できることは、ある種、共通言語のような媒体にもなりうることに気づき、作品のデータ化ということにも重きを置くようになりました。

 

 

— 伝え方という点では、SICF16の応募時に提出いただいたポートフォリオの説得力や表現力も話題になりました

 

神楽岡 : 今見ると、使っている写真とかが気になるんですけどね(笑)。

SICFは、他のアートの見本市と違って、本当にまだ世に出ていない人と出会えるところが面白いですよね。私も公募展での初の受賞はSICFでした。今回の展覧会もそうですが、この受賞歴にはお世話になっているので、これからの活動においても、プロフィールなどに積極的に書かせていただこうと思います。

 

 

関連リンク

 

神楽岡久美 個展 身体と世界の対話 vol.2  (ワコールスタディホール京都)

 

 

インタビュー・文 編集部