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SPECIAL INTERVIEW

special interview vol.8 
林田健

過去から現在までの人の痕跡を物質のなかに見出す


今回のスペシャルインタビューは、SICF12で南條史生賞を受賞した林田健さん。
作品や制作活動のきっかけなどについてお話をうかがいました。

 

作品について

 

昔から自分の身近な風景、特に現代都市を象徴するようなものをモチーフとして描いています。風景画というとバルビゾン派などに代表されるような、自然を描いたものをイメージされる方が多いかもしれませんが、僕らの世代では街はすでに都市化しており、植物よりもコンクリートの感触の方がより身近なもので、建物などを描く方がしっくりします。真新しいものよりも少し古びて泥や油がこびりついたものに強く魅力を感じます。まさに僕らが子どもの頃からそこにあったものが作品の原風景となっています。

また、自分にとっての風景とは自分が生活している中で目にしたもので、人物や静物なども風景としてとらえています。そのため初期のモチーフは建物が特に多かったのですが、2010年頃からはトイレやスイッチなどの物も多くなっています。それは現在、僕が高校で教員の仕事をしており、学校という空間の中でよく目にするものだということもあります。過去に建物を多く描いていたころは牛乳配達の仕事をしており、よく団地などを回っていたからだと思います。

 

写真左上)  「17歳の肖像」 2008年、 左下) 「視覚と触覚に関する外的シナプスが及ぼす要因(シナプス2)」 2009年、 右) 「babel」 2007年

 

団地は日本の高度経済成長期に多く建てられ、基本的には同じ形のものを寄せ集めてできあがっています。多く使われているものは大量生産品であり、またそれらを組み合わせてひとつの空間ができあがっているのではないかと思います。その点ではさきほど説明したトイレのタイルや便器なども同じだと言えます。そしてここに現代を象徴する一つの側面があるのではないかと思います。インターネットなどの普及による匿名性社会、その一方で非常に希薄な個性を訴えること、中高生期の憂鬱感、大学生では自分探しの旅、僕ら30代の世代においては就職難だったため、ロストジェネレーションとまで称されてしまう社会状況において自分の存在価値を見失ってしまうのではないかと思います。まさしく大量生産における一つのパーツの無価値化とでも言えばよいでしょうか。

 

「世界と赤い屋根の団地」 2011年

 

写真左から) 「この世界に召還される君に捧ぐ」 2012年、 「MelancholiaⅢ」 2012年

 

僕の作品では基本的に風景の中に人を描くことはしません。それは物質に染み付いたよごれや傷のほうが人そのものよりもより強く人間臭さを感じるからだと思います。よく廃墟などに少し怖い感情を抱くのも強く人間の気配を感じるからだと思います。このようなことから世界や社会の多くの問題は自分が身近に生活している中にその問題の一端が映し出されているのではないかと考えます。そしてその風景を描き出せば、そこからその時代に住む人や社会的状況を見せることができると考えています。僕にとってのモチーフは空想の世界やファンタジー的なものではなく、ただそこにあるもの、「現実」でしかありません。過去から現在までの人の痕跡を物質の中に見出し、そこから未来を見つめていきたいと思います。

絵が持つprimitiveな力を信じてrebel paintingを以って立ち向かいたい。

 

「残光(雨湿)」 2010年

 

制作活動のきっかけ

 

小さい時からものを作ることが好きで、特に小学校の頃は図画工作の授業に夢中でした。しかしいつの頃からか美術にそんなに興味はなくなりエンジニアになりたいと思い、高校では理数系のコースを選択しました。大学に進学する時にもう一度自分のやりたいことを考え美大進学を決めました。大学を卒業するときは何となく絵を描いていきたいなという程度でフリーターの道を選択しましたが、本当に自分が作家としてやっていくことを決意したのは20代中頃で、その頃いろいろな事が自分の選択肢からなくなり最後には絵を描くことしか残らなかった、というのが本当の意味での制作活動の「きっかけ」というか始まりだったと思います。

自分はそんなに器用に絵を描けるわけではないので、誰よりも多くの作品をつくることでスキルを上げることが必要だと感じていました。絵を描くことを仕事にするには質の高い作品を早いサイクルで完成させることが重要であり、1点ものの絵画にとってそれは特に大切なことだと思います。それからは公募展など参加できるものには手当たり次第で応募しました。そしていつの頃からか個展やグループ展なども含めて年間30本以上のイベントをこなすようになっていました。しかしゴッホや葛飾北斎のことを思えばまだまだだと感じます。絵で生きていくことを実現するため、これからもがんばっていきたいと思います。

 

 

写真左から)  「television」 2010年、 「死すべきもの、生きるべきもの(そして静かに瞳を開ける)」 2011年

 

今後の活動について

 

2012年10月に名古屋のgallery+cafe blankaで個展を開催する予定です。
また、Tokyo Midtown Award 2012 アートコンペの2次審査(上位6名)を通過しまして、10月にミッドタウンにて展示が決まりました。

 

【インタビュー:2012年7月18日】

 

プロフィール

 

林田 健 (はやしだ けん)
1979年生まれ 名古屋市在住

 

作家ホームページ

 

【主な展示】

 

個展
2008年 「BABEL/in my place」(名古屋WHITE MATESビル)ギャラリー山口(東京)
2011年 「My name is no name.」(トーキョーワンダーサイト本郷)

 

グループ・企画展
2010年 「シブヤスタイル Vol.4」(西武渋谷店B館8階 美術画廊)
2010年 「痕跡、二人展」(ギャルリーくさ笛、名古屋)
2011年 「2011-2012 Select Exhibition」(gallery+cafe blanka、名古屋)
2011年 「8 mix exhibition」(Gallery SER、東京)
2012年 「460人展」(名古屋市民ギャラリー矢田)

 

アートフェア
2010年 「Cutlog Art Fair」(Bourse du commerce de Paris、フランス)
2011年 「MANCY’S ART NIGHTS」(Mancy’s Tokyo)

 

オークション
2009年 「SHINWA ART AUCTION CONTEMPORARY ART」(シンワアートミュージアム、東京)

 

【受賞暦】
2007年 熊谷守一大賞展、入選
2007年 第16回青木繁記念大賞公募展、入選
2008年 TWS-Emerging2009、入選
2008年 トーキョーワンダーウォール公募2008、入選
2010年 第14回新生展、入選
2010年 第74回河北美術展、「山本壮一郎賞」受賞
2011年 Asian Art Way 2011 in SHANGHAI、「半島1919日本文化村賞」授賞
2011年 SICF12 「南條史生賞」受賞
2011年 第4回アーティクル賞、入選