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SPECIAL INTERVIEW

vol.25 SICF20周年記念 エントランスプログラム「晴門」関連インタビュー 月岡彩

人と人との出会いから拡がる水引の新しい可能性を探して


人と人を結び付ける意味合いを持つ水引細工。SICFは、5月1日〜6日の期間、水引のパーツを組み合わせた門や装飾で、来場者をお迎えするエントランスプログラム「晴門(せいもん)」を20周年記念プログラムとして開催します。この装飾デザインを担当し、SICF2グランプリ受賞の月岡彩さん、そして製作でご協力いただいた、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科の学生の皆さんの作業場を訪ね、今回のプログラムに至った経緯や、作品に込めた思いをお伺いしました。

 

 

月岡彩(つきおかあや)

 

1978年愛媛県松山市生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒。2001年「新カクレンボ大作戦」で第2回SICFグランプリ受賞。街に身を隠す「瞬間自動販売機スカート」が評価され、国内外の展覧会やプロジェクトに参加。2007年、ニューヨークタイムズの一面を飾る。2009年には、Newsweekにて「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。デザイナー、衣装家としても活動。

http://www.tucky7.com/

 

 


インタビュー

 

―今回のプログラムに取り組むきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

 

月岡:スパイラルさんからの依頼で、ちょうど今年の4月20日にスタートした地域振興イベント「えひめさんさん物語」の「ものづくり物語プレイベント」に参加したことですね。愛媛県の東予地方にある新居浜市、西条市、四国中央市を舞台に、地域の資産とアートやアクティビティを融合させて、エリアならではの物語を紡ぐという企画です。私は、四国中央市の伊予水引金封協同組合さんと組むことになりました。伊予水引金封協同組合には日本の伝統工芸品の水引製品に携わっている会社が22社加盟しています。私は愛媛県松山市の出身なので、四国中央市は 「紙の街」というのは知っていましたが、水引細工に関わったことは一度もありませんでした。
まずは、皆さんと何ができるかを考える為、加盟されている会社1社1社を訪問しました。会社の規模は様々ですが各社に伝統工芸士さんがいらして、皆さんの仕事の素晴らしさを目の当たりにしました。実際に水引を結んでみたんですが、すごく高度な技術が必要で、すぐに私が何かをつくれるようになるとは思えませんでした。私はこの“伝統工芸士の技”をいろいろな方に知っていただきたい、それを伝える作品を創りたいと皆さんに相談しました。そして、いろいろな技術が集まった結納飾りを、白色一色で創っていただくように提案しました。結納飾りは多彩に彩られた水引を使った華やかなものなのですが、色を取り去ることで、職人の“技”が際立つのではないかと。伝統工芸士の皆さんが快く引き受けてくださり、想像を遥かに超える美しくて、繊細で、力強い結納飾りが出来上がりました。

 


えひめさんさん物語のものづくり物語プレイベントで披露した結納飾り『白無垢SHIRO-MUKU

 

ー今回の「晴門(せいもん)」では、反対にいろんな色の水引のパーツを使用されていますよね。

 

月岡:はい。伊予水引金封協同組合との製作の中で、廃盤になった等の理由で、使えなくなった水引のパーツが各社にあることを知ったんです。その水引のパーツをいくつかいただき、武蔵野美術大学の授業で、それらで「身につけられるもの」をつくるワークショップをしました。今の学生には新しい素材になると思ったのです。実際に学生の中には、その時の水引細工を成人式でヘアクセサリーとして身につけ、写真を送ってきてくれた子もいて、伊予水引金封協同組合の皆さんも、その新しい水引の可能性に大変喜んでおられました。
今回も伊予水引金封協同組合の各社から、使わなくなったパーツを提供していただき、本来の水引の煌びやかさを全面に出したいと思っています。今では結納をする人も減り、結納飾りの製産も減っていますが、今回は結納飾りのパーツもふんだんに取り入れています。とても贅沢ですね。色彩の豊かさも見ていただけると嬉しいです。

 


伊予水引金封協同組合からご提供いただいた水引のパーツ

 

ー晴門(せいもん)」は造語ですが、どのような思いを込めたんでしょうか。

 

月岡:SICFが20周年ということで、二十歳(はたち)という言葉が浮かびました。そこから、晴の日を演出するもの、新しい門出を祝うもの、が良いのではないかと。今回スパイラルの正面を彩らせていたくため、入り口となる「正門(せいもん)」という意味もかけています。
また、SICFは来場者と作家、いろんな人を結ぶ企画です。私もSICF 2の時に出会った人たちと今も繋がっています。水引の基本の技に「結び」があります。人を結ぶSICFのお祝いの場にとても相応しい素材です。SICFの二十歳(はたち)を水引で華やかに演出できたらと思います。そして更に進化していって欲しいです。

 


晴門(せいもん)を構成する、水引(梅)のパーツを組み合わせる武蔵野美術大学空間演出デザイン学科の学生の皆さん

 

ー「晴門(せいもん)」の完成イメージ図を見たのですが、しめ縄や、赤い柱などの要素がありますね。最初からそのようなイメージがあったのでしょうか。

 

月岡:それが何なのかわからない抽象的なものより、見たことのある何かに見立てたかったんです。自分が今まで創ってきたものもそうなんですけど、フェイクだったり、あたりまえのものがちょっとしたことで違うものに変身したり、そういう仕掛けが好きなんです。今回、エントランスということで、いくつか日本らしい象徴的な入り口考えてみました。その中に鳥居やしめ縄がありました。鳥居やしめ縄が昔と今をつなぐように、「晴門」をくぐることで、人や時間や空間など、さまざまなものを行き来できればと思います。

 

—今回、学生との協働ということですが、製作を通して何か感じて欲しいことはありますか。

月岡 :「知る」という事が大切だと思っています。素材としては100円均一ショップでも手に入る水引ですが、こんな量の水引細工に触れる機会はないと思います。いろんな種類や色があって、いろんな形にひとつ一つ手づくりされたパーツ(細工)、それらに触れるだけでも何か感じてもらえると思います。彼女たちにとって一番身近な水引細工はご祝儀袋だと思いますが、今後見る目が変わるかもしれませんね。

 

—今後の展開を教えてください。

月岡 :水引を使った展開だと、「えひめさんさん物語」の中のものづくり物語(5月5日オープンファクトリー)で、『白無垢SHIRO-MUKU』の進化版を展示します。通常の結納飾りの形態ではなく、結納飾りを構成するひとつ一つを単体で存在できるようにしました。羽を広げてたたずむ鶴や、早く歩きそうな亀、釣りたてのような鯛など、それぞれをひとつのオブジェとしてとらえ、創っていただきました。また今回は、単色は変わらないのですが「色」も提案しています。結納飾りの枠を超え、伝統工芸品の域を超えて見ていただけるようになればいいですね。
受注販売にはなりますが、1点から購入していただけるように設定もしています。本当に美しいので、家に連れて帰って欲しいです(笑)。

 

インタビュー・文 編集部