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SPECIAL INTERVIEW

vol.17 SICF受賞者特別対談 
okada mariko × 栗栖良依

描くように紡がれる作品と、「スロー」なプロダクトがもつ強度


記憶や思い出の蓄積をベースに、絵を描くように刺繍表現を行うアーティスト、okada marikoさんは2010年、学生生活の集大成となる作品『チクセキ』で「SICF11」の南條史生賞を受賞。一方、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ 2014」や「横浜ランデヴー プロジェクト」、「スローレーベル」などのディレクターを務め、あらゆる人々が出会い、ともに活動する場をつくってきた栗栖良依さん。そんな2人をつなぐ「スローレーベル」とそれぞれの活動の軌跡、そして、きっかけとしてのSICFについて話を聞いた。

 

 

 

okada mariko アーティスト

1987年栃木県生まれ。幼少期より宮沢賢治の童話世界に触れる。女子美術大学デザイン学科ヴィジュアルデザイン在籍中に、日本の伝統的手工芸である文化刺繍と出会い、刺繍による作品制作を開始。記憶や思い出の蓄積が今の自分を生かし、未来へ繋げるという想いから、祈りやチクセキをテーマに作品を表現する。「SICF11」にて「南條史生賞」を受賞。2016年2月6日、7日に京都市勧業館 みやこめっせ、3月 5日、6日に東京オーヴァル京王閣で開催する「布博」に出展予定。2月11日〜21日に元麻布ギャラリーで開催する「FLAT展」に参加。

http://okadamariko.jimdo.com/

 

栗栖良依 スローレーベル ディレクター

1977年東京都生まれ。東京造形大学にてアートマネージメントを学び、卒業後はイベントや舞台の制作に従事。1998年の長野オリンピックでは式典交流班として運営に携わる。2006~07年、イタリア・ミラノのドムスアカデミーに留学し、ビジネスデザイン修士号を取得。世界各地を旅しながら、地域のプロデュースや市民参加型エンターテイメント作品を手がける。2011年より「横浜ランデヴー プロジェクト」ディレクター就任し、同年「スローレーベル」を設立。「ヨコハマ・パラトリエンナーレ 2014」の総合ディレクターも務める。

http://www.slowlabel.info/


インタビュー

 

時間をかけて取り組んだ作品を学校内でしか展示しないのはもったいないですし、学校の外でどう評価されるのか、どこか挑戦のような気持ちもありました。

 

―まず、okadaさんがSICFに出展されたきっかけについて教えてください。

 

okada:私が初めてSICFに参加したのは、「SICF11」の前年、2009年の「SICF10」でした。大学生だった当時は、自分の作品が大学の外でどういうふうに見られるのかを経験したいと思っていました。あと、その時から将来はアーティストとしてやっていきたいという思いがあったので、いろんな人に自分の作品を見てもらいたかった。スパイラルだったら、たくさんの人に見てもらえるかなと。あとは「SICF」のノージャンルなところにも惹かれました。

 

栗栖:公募展って一般的には分野を限定して募集するものが多いと思うので、ノージャンルっていうのは領域を超えて活動している人にとっては魅力的ですよね。

 

okada:はい。自分の作品をどうカテゴライズしていいのか、私自身にもわからなかったんです。

 

―2度目に出展した「SICF11」で、審査員である南條史生さん(森美術館館長)の賞を受賞されたんですね。

 

okada:1度目に参加したとき、やはりある程度作品のインパクトが大切だと思ったんです。たくさんの人の中で展示するにあたって、どうやったら自分の作品を見てもらえるかなと考えて、「SICF11」では、卒業制作の『チクセキ』を出展しました。時間をかけて取り組んだ作品を学校内でしか展示しないのはもったいないですし、学校の外でどう評価されるのか、どこか挑戦のような気持ちもありました。

 

 

「SICF11」南條史生賞 受賞作『チクセキ』

 

 

―okadaさんはその後2013年に、栗栖さんがディレクターを務める「スローレーベル」から童話『青い鳥』をテーマにした商品を発表されています。この「スローレーベル」では主にどういった活動を行われているのでしょうか?

 

栗栖:「スローレーベル」のはじまりは2000年に始動した、スパイラルが企業や専門家とアーティストの出会い(ランデヴー)から新たなクリエーションを生み出すプロジェクト「ランデヴー プロジェクト」(※1)まで遡ります。これは全国各地を拠点に様々な形態で実施されるのですが、2009年に横浜の象の鼻テラス(※2)を拠点に開始したのが「横浜ランデヴー プロジェクト」。私は2011年、ディレクターとしてそのプロジェクトに参加することになりました。従来の「ランデヴー プロジェクト」は、アーティストと地場産業の職人さんや企業との出会いがほとんどなのですが、「横浜ランデヴー プロジェクト」は障がい者施設との出会いという点が、他と大きく異なります。

 

―障がいのある方々と協働し、新たなクリエーションを行なっていくということなのですね。

 

栗栖:はい。ただ障がい者施設のみなさんがどんなものづくりをしているかわからないということで、まずは施設にアーティストを派遣し、視察に行きました。すると面白い特徴が見られたんです。例えばそれまでの「ランデヴー プロジェクト」では、企業や職人さんと手を組むので、アウトプットはマスプロダクトになることがほとんどでした。対して障がい者施設ではひとつひとつ手でものを作っているので、マスプロダクトはできません。その「ひとつひとつが特色のあるものができる」という点に、ある種の「強み」を見出したんですね。そして、施設とアーティストが制作した作品を取り扱う雑貨ブランドであり、障がいのある人たちと協働していく取り組みを指す「スローレーベル」を2011年に立ち上げました。

 

私が審査員を務めることにより、
SICFが隠れた才能の発掘の場となることも願っています。

 

―okadaさんと「スローレーベル」がコラボレーションを行なうことになったきっかけについて教えてください。

 

栗栖:コラボレーション相手となるようなアーティストの方は常に探しているのですが、偶然「SICF」で審査員を務めるスパイラルのチーフキュレーターの岡田勉さんに「okada marikoさんという良いアーティストがいるからぜひ紹介したい」と言われて。岡田さんからokadaさんを紹介されたという(笑)。

 

okada:私は岡田さんから「スパイラルがアートプロデュースの一環としてやっている『ランデヴー プロジェクト』から生まれた『横浜ランデヴー プロジェクト』がちょうどブランドを立ち上げるから、そのレセプションに来てみたら?」と誘っていただきました。そのブランドが「スローレーベル」だったのですが、そのときは「後々何かできたらいいね」という漠然とした感じで。後日レセプションで栗栖さんにお会いして手作りの名刺を渡したとき「こういうの、スローっぽいね」と言ってもらったことが印象に残っています。

 

栗栖:「スローレーベル」の商品は「スローマニファクチュアリング」。つまり大量生産ができない「スロー」なものづくりがテーマなんです。okadaさんは、名刺一枚一枚に糸を縫いつけていて「あ、なんか合うかも」と。

 

―「青い鳥」をテーマにした『ぬい絵の青い鳥』は、okadaさんが「スローレーベル」から発表したオリジナルのブローチと巾着なんですね。

 

栗栖:2013年に徳島で始まった「スローレーベル徳島」は藍染をテーマにしたプロジェクトだったので、糸や布を使うokadaさんの作風にはまりそうだと思って声をかけました。徳島は藍染のもとになる染料の、日本有数の産地なんです。

 

okada:『ぬい絵の青い鳥』は、藍染の糸や藍がちりばめられた素材をつかって自分でブローチをつくるキット商品で、鳥をかたどっているフェルトも藍染によるものです。デザインと工程は私が担当させていただいていて、実際の絵を描いたり、藍染をしてくださっているのは、障がい者施設の方々です。

 

 

『ぬい絵の青い鳥』

 

 

栗栖:実際に商品化したものは、コレクションとして大阪の阪急うめだ本店で発表したんですよね。

 

okada:はい。そのコレクションを見たフェリシモさんが興味を持ってくださって、第2弾となるポーチも制作することができました。自分の作品が製品になって、それを売って、買ってくれる人がいるっていうのは、全部初めてのこと。とても良い経験をさせていただいたなと思っています。2011年の「SICF」の受賞後に何年かの時間を経て、試行錯誤を重ねて、2013年にやっと形になりました。

 

―栗栖さんは、「SICF17」の審査員をされるということで、出展者の中からはokadaさんのように「スローレーベル」に参加するクリエーターが現れるかもしれませんね。

 

栗栖:そうですね、良いクリエーターの方がいれば、「スローレーベル」でコラボレーションすることも考えられますし、2017年には第2回の「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」も控えていますので、そこにつながるような方と出会えたらいいですね。また、様々な障がい者施設の方々にもSICFという発表の場があることを伝えたいと思っています。「プロフェッショナル」と呼ばれるようなクリエーターと渡り合える表現力を持っている人は、そうした施設のなかにもたくさんいます。SICFのようなクオリティーの高い作品発表の場で、彼らにも対等に評価されるという経験をしてほしい。私が審査員を務めることにより、SICFが隠れた才能の発掘の場となることも願っています。

 

 

 

※1 ランデヴー プロジェクト
ランデヴー(Rendez-vous)とは「出会い」を意味し、ランデヴー プロジェクトは、技術者や科学者、職人、アーティストやデザイナーなど、今まで互いに出会うことの少なかった人々に分野を超えた「出会い」から、新しい視点を活かしたモノづくりを提案していくプラットホームです。個人のニーズに根差し、環境に配慮したモノ作りを目指し、企業が持つ専門性をノウハウ、アーティストの創造性と批評性を活用して行ないます。

 

※2 象の鼻テラス
象の鼻テラスは、横浜市文化観光局の委託により、スパイラル/株式会社ワコールアートセンターが運営をしています。
http://www.zounohana.com/

 

関連リンク

Slow Factory
布博

 

 

インタビュー・文 野路千晶