JP / EN

SPECIAL INTERVIEW

vol.37 「Spiral Xmas Market 2024」開催インタビュー ネルソン・ホー

vol.37 「Spiral Xmas Market 2024」開催インタビュー ネルソン・ホー

 

 

スパイラルでは、総勢約50組のクリエイターが手がけたアイテムと多彩なアートが揃う「Spiral Xmas Market」を2024年12月6日(金)~25日(水)まで開催します。 このイベントのキービジュアル・装飾を手がけ、SICFにも参加経験のあるアーティスト、ネルソン・ホーさんに幼い頃のクリスマスのあたたかな思い出から、今回のクリスマスマーケットに対する想いまで、お話を伺いました。彼の幼少期や日本画に出会ったきっかけなど、ネルソンさんの「描くこと」に対する想いを深堀っていきます。

 

 

 

 

ネルソン・ホー

 

1998年 ペナン・マレーシア生まれ、東京都在住。
2022年 多摩美術大学 日本画専攻 卒業。

古代人がメッセージを伝えたり、当時の事件を記録したりするために岩絵具を使って壁画を描いたように、メンタルヘルスやLGBTQへの差別など、現代の社会問題を記録するツールとして、岩絵具で絵を描いている。そして、キャンバスから展示空間全体へと物語を広げ、コンセプトやシリーズに応じて、刺繍、陶芸、映像、音声などを使い、観客がより絵画の世界観に入りやすくなるようなインスタレーションを制作している。

 

【主な経歴】
2022年 「Memory is a Garden」GALLERY ETHER(東京)
「アートアワードトーキョー丸の内」審査員建畠晢賞(東京)
2023年 「FOCUS LONDON」Saatchi Gallery(ロンドン)
「KYOBASHI ART WALL」優秀作品(東京)
「SICF24」スパイラル(東京)
2024年 「ART TAIPEI」台北世貿一館(台北)
「赤い空に飛んでいた赤い鳥」KYOBASHI ART ROOM(東京)

 

Website

Instagram

 

 


 

子どもの目から見たクリスマス

 

—今回の企画で最初にネルソンさんのプランを拝見したときから、「子どもの目からみたクリスマス」というテーマがとても印象的でした。どうしてこのテーマにしようと思ったのでしょうか?

ネルソンさん:最近、たまたま昔の写真を見つけて。その写真のなかで子どもの頃のネルソンが楽しそうにサンタクロースを描いていたんです。それを見たときに「子どもの頃はクリスマスが楽しみで仕方がなかったな」と思い出しました。同時に、大人になるにつれて、だんだんとクリスマスを楽しめなくなっていることにも気がついたんです。12月って仕事も忙しい時期ですし、家族も日本にいないから、クリスマスの意味がわからなくなってしまっていたんですよね。 でもそれって、自分だけではなくて、他の大人たちも同じではないのかと思ったんです。
だから、大人になった人たちに「クリスマスの魔法」を思い出してもらいたいと考えて、このテーマにしました。

 

 

—今回のキービジュアルにも、クリスマスの訪れを待ち望んでいる子どもが描かれていますね。

ネルソンさん:そうなんです!スノードームの中のクリスマスツリーを眺めながら、「早くクリスマスが来ないかな。まだかな……」というような。純粋にクリスマスを待ち望んでいた頃の自分を思い出してもらいたいです。

 

クリスマスを待ち望んでいたあの頃の自分

 

—ネルソンさんご自身は、子どもの頃どのようにクリスマスを過ごしていましたか?

ネルソンさん:クリスマスの夜は、サンタさんにプレゼントを用意していました。 ヨーロッパだとクッキーとミルクが多いと思いますが、僕の出身のマレーシアには中国の文化もあるからか、餃子とコーラをプレゼントしていたんです(笑)。少し大きくなるといたずらをするようになって、餃子に辛いものを入れたり、サンタさんを捕まえようとトラップを仕掛けてみたり。

 

—餃子とコーラとは!新鮮ですね。

ネルソンさん:あとは、毎年オーストラリアにいる親戚の家でクリスマスを過ごしていました。でもオーストラリアも季節が反対だから、クリスマスは暑いんですよね。だから、僕のクリスマスの記憶はTシャツ姿なんです。キービジュアルに登場する子どもも、よく見るとTシャツを着て絵本を読んでいるんですよ。 この作品にはモデルがいて、左にいるのが親戚で、その隣にいるのが子どもの頃の自分です。あの頃はよく絵本を読みながら、クリスマスを待ち望んでいましたね。

 

 

—どんな絵本を読んでいたんですか?

ネルソンさん:今でも印象に残っているのは『The Polar Express』(Chris van Allsburg, 1985)と『The Gingerbread Man』(Barbara McClintock, 1875)ですね。すごく大好きな2冊で、今回の作品にもジンジャーブレッドマンのモチーフを入れました。

『The Polar Express』は、雪のなかから列車がやってくるシーンがとても好きなんです。朝起きて、扉を開けると雪が降っている。その景色が寂しげで、切ないような。マレーシアやオーストラリアだと扉を開けても夏だから、太陽が明るくて眩しいんですよ。暑い国で過ごしてきたから、真っ白なウィンターワンダーランドのような、ホワイトクリスマスに対して憧れがあったんです。

 

—東京でも雪が降ることはめったにないので、私もいまだにワクワクします。

ネルソンさん:東京でもホワイトクリスマスはあまりないですよね。そうは言っても12月もすごく寒いから、僕はそれだけでとても嬉しいんですよ。日が落ちるのも早くなって、「あー!ウィンターがやってきたなあ」と気分が上がります。

 

—雪を初めて見たのはネルソンさんが大人になってからですか?

ネルソンさん:はい!日本に来てから初めて見ました。クリスマスに、白馬(長野県)にある友達の別荘に行ったときでした。朝起きたら、窓の外に雪が降っていて、思わず「雪〜!」と声をあげました。人生で初めてのホワイトクリスマスで、幼い頃の夢がやっと実現した瞬間でした。あと、その時期の白馬にはクリスマスを楽しむ家族がたくさんいて、子どもの頃に過ごしていたクリスマスの記憶と繋がって心が温まりました。

 

 

「心の中の子どもを連れてきて!」

 

ネルソンさん:白馬での思い出と比べると、東京のクリスマスは商業的な要素が強いと思います。イルミネーションももちろん綺麗ではあるんですが、「人とのつながり」よりもビジネスとしての側面を感じてしまって、私にとってのクリスマスとはちょっと違うなと思ったんです。だから今回は、自分が幼い頃からイメージしていたクリスマスへの期待感や、幸福感を伝えたくてデザインしました。

 

—今準備を進めていくなかで、私も子どもの頃に家族と過ごしたクリスマスのことを、久しぶりに思い出しました。ネルソンさんは、今回のSpiral Xmas Marketをどんな方達に見ていただきたいですか?

ネルソンさん:社会人の方に特に見てほしいですね。社会に出ると、子どもっぽい考え方や気持ちは隠しながら生きていかないといけないので、窮屈だなと感じています。せめてこのクリスマスの間だけでも隠さずに、「子どもの自分」と一緒に遊んでもいいんだと思ってもらえたら。「心の中の子どもを連れてきて!」と伝えたいです。 もうひとつ、素直に思い浮かんだのは家族です。日本に住んでいないので実際にはなかなか難しいのですが、会場で実物を見てほしいですね。

 

—来場される方にとっても、子どもの頃を思い出すきっかけになってくれたら嬉しいですよね。最後に、今回の見どころを教えてください。

ネルソンさん:会場に展示しているキービジュアルの原画や、装飾の細かいディティールまでじっくり見て、楽しんでほしいです。実は同じモチーフを違う場所にも使っていて、絵と絵のつながりを表現しています。

例えばキービジュアルに描かれた雪で遊んでいる子どもたちは、スパイラルマーケットのラッピングにも登場しています。その他にも、ジンジャーブレッドマンが他の小さな作品の中にも入っていたり。そういったリンクしている部分を探して、ストーリーを感じてもらえたら。子どもの世界観に入り込んで、絵本を読んでいるような気分で楽しんでほしいですね。

 

 


 

子どもの頃から好きだった「描くこと」

 

—ネルソンさんがアーティストになったきっかけを教えてください。

ネルソンさん:子どもの頃からずっと描くことが好きだったんです。家の中に、何を描いてもいい白い壁があって。そこに、クレヨンなどで絵を描いて、余白がなくなったらまた真っ白にして……。それが絵を描いていた最初の記憶かな。その後は、ポケモンが好きだったので、毎日ポケモンを真似して描いたり、ドラえもんやパワーパフガールズなどのキャラクターを、友達から頼まれて描いたりしていました。

 

—子どもの頃から現在まで、ずっと絵を描くことが好きだったのでしょうか?

ネルソンさん:そうですね、絵を描くことはずっと好きで、美術科のある高校に通っていました。授業では美術史を学んだり、油絵やデッサン、ファッションもやっていました。服をつくって、着て。他にもデザインをやったり、立体作品をつくったり、どれも少しずつですが、本当にいろいろな勉強をしました。そのなかでもやっぱり絵を描くことが好きだったので、美大に進学しようかと、多摩美術大学に入ったんです。

 

 

日本画との出会い

 

—日本画専攻を志望して、日本の美術大学に進んだのでしょうか?

ネルソンさん:日本でアートを学ぶことにしたのは、正直に言えばたまたまだったんです。高校卒業後は、アートだけでなく新しい言語も勉強したかったので、フランスやドイツも候補として考えていました。日本という選択肢は3番目だったんですよ。でも、両親から治安のよい日本を勧められて、日本に来ました。 美術予備校に通い始めて、せっかく日本にいるなら、日本画をやってみようかなと。ただ、予備校の先生に「ネルソン、『日本画』とは何かわかりますか?」と聞かれたときに、「わかりません」と答えたら、「それはダメです!」と言われてしまって(笑)。 ちょうど山種美術館で開催されていた加山又造氏の個展のチケットを頂いて、観に行きました。そしたら、すごく感動して……作品にとても興味がわいて、日本画が好きになりました。

 

—ネルソンさんは岩絵具で現代社会の問題を記録するというテーマで作品を制作されているんですよね。

ネルソンさん:そうですね。最初に、日本画の歴史を知りたいと思ってルーツを辿ってみたんです。敦煌の壁画や、寺で描かれたようなもの、もっと遡ればフランスにあるラスコーの壁画も有名ですよね。そこまでいくと、原始人が岩絵具で壁画を描いている。昔から人類は岩絵具を使っていて、自分の気持ちや「今日牛を捕まえたよー!」という日記のような内容だったり、自分の家族に関することだったり、さまざまなことを描いて記録している。そういうところがとてもおもしろいなと思ったんです。岩絵具の歴史はとても長いんですよね。そこで、現代に生きている自分が昔の人と同じように、岩絵具を使って記録したらおもしろいんじゃないかなと思いました。それがきっかけかもしれないですね。

 

—岩絵具で描いた赤い線が印象的な作品も多いですよね。以前、《毎日、君に手紙をかいてあげる》という作品についてのお話のなかで、「赤い糸」という言葉の意味合いが好きだと仰っていました。ご自身で描く赤い線には、特別な意味があるのでしょうか?

ネルソンさん:大学生のころから赤い糸や線が好きで作品に取り入れていました。特に意識して描くようになったきっかけは、《毎日、君に手紙をかいてあげる》という封筒の作品です。封筒にある郵便番号を書くための枠線が赤いのがおもしろいなと思って、赤いペンを使って描いてみたらいい感じになって。さらに「赤い糸」の意味合いを知って、もっと好きになりました。「どんな人間でも見えない赤い糸がつながっている」。作品のなかでも、赤い糸がつながっています。同じように、自分の作品と鑑賞者との赤い糸=つながりとして描いています。

 

 


 

小さなネルソンが隣にいるような感覚で

 

—インタビューの前編では、今回のSpiral Xmas Marketのテーマに沿って、子どもの頃のクリスマスと、大人になってからのクリスマスについてお伺いしました。絵を描くこと、作品をつくることに置き換えてみると大人になって変わったと思うことはありますか?

ネルソンさん:大人になってから、ワクワクしたり、期待することが減った気がしています。子どもの頃ってどこに行っても何をしても初めての経験ばかりだから楽しい。まっさらな紙に描いていくように、何を描いても楽しいという感覚だったんです。 でも最近は、子どもの頃のように「好きな色だから描く」とか「好きなモチーフだから描く」という純粋な気持ちが薄れてきているように感じることもあります。

だからといって、大人になることは悪いことばかりではなくて、子どもの頃とは違う角度で物事を捉えることができる。大人になったからこそ、気づくことがあるというか。 でもやっぱり、大人になっても、子どもの頃の「絵を描くことが好き」という気持ちを忘れないで、作品を描き続けていきたいです。

 

—好きなことを仕事にする、その先の葛藤もありますよね。絵を描くことが純粋にただ好きだった子どもの頃の気持ちを留めるために、意識していることはありますか?

ネルソンさん:仕事中は、小さなネルソンが隣にいるような感覚で、彼と一緒に作品を描いています。

最近、母と話したときに、「子どもの頃から好きだったものを、大人になって仕事としてできていることはとてもラッキーなんだよ」と言われて、確かに好きなことを実現できているってとても幸運だな、と思いました。もちろん仕事は仕事ですが、幼い頃の純粋に楽しむ気持ちを大切にしようと。もし今、6歳のネルソンにまだ絵を描いているよって言ったら、すごく喜んでくれるんじゃないかと思います。

今後も絵は絶対に描き続けたいですが、絵だけでおしまいというのは寂しいというか、惜しいなと思ってきていて。コンセプトを合わせながら、インスタレーションや他の表現方法も取り入れていきたいです。そのほうが、アーティストとしても楽しいし、これからも好きなものをたくさんつくりたいなと思っています。

 


 

Spiral Xmas Market 2024

会期:2024年12月6日(金)ー 25日(水)
*会期中、18日(水)・19日(木)は展示替えのためクローズ。

会場:スパイラルガーデン(スパイラル 1F)
東京都港区南青山5-6-23

イベントページ