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SPECIAL INTERVIEW

vol.34 SICF受賞者特別インタビュー
Leo Koda

 

SICF23 MARKET部門 グランプリアーティスト インタビュー

さまざまな知識や刺激を受け入れて、未知の関係性をつくる
Leo Koda

文 : 土田貴宏(つちだたかひろ)

 


 

日本とスイスでデザインを学び、現在はオランダのアイントホーフェンを拠点に活動しているデザイナーのLeo Kodaさん。子どもの頃からプロダクトデザインに興味をもち、学生時代もさまざまな刺激を吸収してきた彼の作風は、専門的な知識に基づきながらも独特の親しみやすさがあります。SICF23のMARKET部門グランプリを受賞した《In Fill Out》は、3Dプリンタで出力したシートを、お湯で茹でることによって膨らませて完成させる作品。現代のテクノロジーとクラフトの要素を無理なく一体にして、不思議な質感をもつプロダクトを生み出しました。こうした発想の背景には、ヨーロッパの先進的なデザイン学校において現在進行形で発展している、自由で寛容なものづくりへの取り組みがあるようです。インタビューの時点ではアーティスト・イン・レジデンスでイタリアに滞在していたKodaさんに、そのクリエイションについて聞きました。

 

SICF23 MARKET部門 グランプリアーティスト展 展示風景

SICF23 MARKET部門 グランプリアーティスト展 展示風景

 


 

Leo Koda

Leo Koda | プロダクトデザイナー

 

1997年生まれ。2022年スイスのローザンヌ美術大学(ECAL)プロダクトデザイン専攻卒業。現在、オランダのアイントホーフェンにデザインスタジオを構える。2018年山際照明造形美術振興会奨学生。主な展覧会に、「Rossana Orlandi exhibition」(2022、M7/ドーハ、カタール)、「supersalone | Salone del Mobile『The Lost Graduation Show』」(2021、Rho Fiera/ミラノ、イタリア)など。

Photo: Go Minami
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土田貴宏|デザインジャーナリスト/ライター

 

1970年、北海道生まれ。会社員などを経て、2001年からフリーランスで活動。国内外での取材やリサーチを通して、雑誌をはじめ各種媒体に寄稿中。家具、プロダクト、インテリアなどのデザインについて書くことが多い。東京藝術大学ほかで非常勤講師を務める。 21_21 DESIGN SIGHT企画展「The Original」ディレクター(2023)。近著『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』(PRINT & BUILD)。

 


インタビュー

 

_Kodaさんが最初にデザインに興味をもったきっかけは何だったのでしょうか。

Koda:11歳くらいの頃、家のリビングルームにある「トロメオ」というランプを見ていたのがきっかけだと思います。兄弟と歳が離れていたので、小学校から帰ってからひとりの時間が長く、ずっと視界にあったトロメオに愛着が湧いてきたんです。

 

_トロメオは、光の角度や位置を変えられるように可動式のフレームがある照明ですね。

Koda:それが関節のある人間みたいに見えてきて、感情移入したというか。話しかけることはなくても、人形のような、友達のような存在になりました。そして、このランプは誰がつくったんだろうと思い、プロダクトデザイナーという職業があることを知りました。そこで初めてデザインというものを意識したんです。その後、お年玉を貯めて自分で買ったアップルの「MacBook」も大好きでした。まだ白いプラスチック製で、スリープ状態の時に白い光が心臓の鼓動のように明滅していたモデルです。トロメオと同じように、人に通じるものが見出せるデザインに惹かれていたのかもしれません。夜、抱っこして一緒に眠るくらい好きでした。

 

_中学時代からデザインを学び始めたそうですね。

Koda:開校して間もない大阪市立(当時)の中高一貫校で、中学から理数系やスポーツ系などの専門コースに分かれたユニークな学校でした。造形芸術のコースに進んだのですが、最初は基礎なので絵や彫刻といった手を動かす作業が続き、「早くデザインがしたいのに」と思っていました。ただ高校もプロダクトデザインを専門で学べたわけではないので、武蔵野美術大学に入ってやっと本当にデザインに集中できる環境になったと感じました。特に2年次に山中(一宏)教授のコースに進んでから、デザインがもっと好きになっていきました。山中さんはイギリスのRCA(ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)出身の方で、例えば本棚をつくるとしても、本棚をデザインするという課題ではなく、5冊の本を置くインテリアエレメントを提案しなさいと言われる。広く解釈できるテーマに対して、学生がいろんなアプローチで答えを出していくような授業が続きました。

 

_手を使ってものをつくることをしながら、発想を膨らませるような思考も鍛えられたわけですね。

Koda:そうですね。山中さんはもちろん、年上の学生と話す機会があったり、外部から来てくださる先生の授業でアドバイスをもらえたり、当時の会話は今も時々思い出すくらい影響を受けています。イギリスのデザイナー、ロウエッジズが来たこともすごく記憶に残っています。彼らの「イエローページ」という課題では、まず電話帳でローカルのお店や工場を探して電話し、何かさせてくださいと依頼するんです。僕らは地元の八百屋さんに行き、いろんな話を聞く中で、野菜を売る時に使う食品トレイにフィルムをかけるためだけの機械を知ってとてもおもしろいと思いました。その機械で、トレイとフィルムの間に野菜を固定して、エンドウ豆を転がして進めるゲームのようなものをつくりました。野菜はカレーなどのレシピ用の具材です。パッケージとは言えないし、単にゲームではないし、社会システムまでは大きくないけど、それぞれが組み合わさったものになりました。

 

_大学卒業後、スイスのECAL(ローザンヌ州立美術学校)に進んだのはなぜですか。

Koda:昔から好きなプロダクトはどれも海外のデザイナーのもので、海外への憧れはずっとありました。外国のデザイン学校についての知識はあまりなかったけれど、ECALを卒業されたの方と在学中に話す機会があり、現役の第一線のデザイナーが教えに来ていると知って、そこで勉強したいと思いました。

 

_しかし入学はちょうど2020年、新型コロナのパンデミックが始まった年だったそうですね。

Koda:ワクチンがない頃だったので、フェイスシールドにマスクをつけて、怖い思いをしながら飛行機に乗りました。入学当時はまだ学校も半分閉じている状態で、座学はリモート、工房は人数制限のある予約制でした。

_SICF23のMARKET部門でグランプリを受賞した《In Fill Out》は、その頃につくりはじめたものですね。

Koda:ローザンヌに引っ越した頃、卒業した学生に3Dプリンタをもらったんです。まだ自分の部屋にキッチンと3Dプリンタとベッドしかない状態で、何ができるかを考えた時、キッチンを工房にしようと思いました。そして、3Dプリンタでつくった樹脂の作品にもうひとつクラフト的に手を加えるため、出力したものをオーブンに入れたり、スチームしたり、いろいろ試しました。オーブンに入れると、溶ける直前にお餅みたいにプクーって膨らんでから、結局は樹脂が溶けちゃうんです。その点、お湯は最高温度が100度だから温度管理がしやすい。3Dプリンタで薄い中空のシートを出力し、お湯で茹でると膨らんで立体になるように、構造を工夫していきました。

 

_素材にはPLA(ポリ乳酸)という環境負荷の低い樹脂が使われていますね。

Koda:これはテック寄りの話で、沸点の100度で柔らかくなるけれど溶けない素材でなければなりません。たとえばPET(ポリエチレンテフタレート)は耐熱性が高いのでお湯では形が変わらない。そのあたりから考えてPLAになりました。もちろん環境負荷が少ないことも考え合わせています。植物由来の素材が、キッチンで加工されることも面白いと思っています。

 

_《In Fill Out》は色使いも個性的です。カラーリングについてはどのように決めていますか。

Koda:色そのものよりも、色合いのムラに注目しています。お湯に浮かべて膨らませているので、《In Fill Out》は表と裏で色の濃さが違う。お湯に使っている側の方が濃くなります。こうしたムラは予想ができず、1点1点がまったく同じにはならないので、機械生産でつくれないものができます。

 

_この作品には、ECALの先生のアドバイスも反映されているのでしょうか。

Koda:もともと個人で始めた作品ですが、途中で先生に見せてみたら、授業の中で進めようということになりました。最初のセメスターではデザイナーのトマス・アロンソが先生で、素材をPLAにする時も彼の意見をもらっています。より具体的なアドバイスをくれたのはMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究員でもあるクリストフ・ギュベランです。MITには4Dプリンティングという概念があって、3Dプリントしたものをさらに展開する際のヒントを教えてくれました。こうした先生が学校の中にいるのはコミュニケーションしやすく、贅沢な環境だったと思います。ECALは、興味の対象がバラバラだった自分に、現実的なことを認識させてくれたところ。クライアントを相手にした課題も多く、教師を務める現役のデザイナーの熱量も大きい。そんな学校のシステム自体、すごい発明だと思います。

 

_ECALを卒業した後、有名なデザインアカデミーがあるオランダのアイントホーフェンに拠点を移したのはなぜですか。

Koda:やっぱりアカデミーへの興味がありました。アイントホーフェンには、アカデミーを卒業したデザイナーたちが100人以上も集まって制作している「セクティC」という街のようなエリアがあるんです。友達と一緒に訪ねた時、ここにいたいと思ったのが最大の理由でした。僕と同世代のデザイナーも多く、スタジオを借りたいと言ったら空いている場所もあった。そこを4人でシェアしています。まわりにいろんなつくり手が揃っていて、機械が足りなければ隣から借りたり、写真が必要なら写真家に頼んだりできます。

 

_Kodaさんの活動には理想的な場所かもしれないですね。

Koda:学校のようだけど、みんなプロフェッショナルで、とてもおもしろいところです。アイントホーフェンは以前はフィリップスの本社があった街なので、工場だった建物がたくさん残っていて、みんなで空間をシェアしながら活動しています。同じオランダでも、アムステルダムやロッテルダムに比べるともっと荒々しくて強いダッチデザインの感じがします。

 

_今後の活動について教えてください。

Koda:まだ発表していない作品が溜まってきたので、タイミングを考えているところです。日本では「DESIGNART TOKYO」への出展が決まっていて、《In Fill Out》をユーザーが自分で茹でて完成させる新しいキットを展示する予定です。《In Fill Out》は出発点が自分のキッチンを工房にすることだったから、ユーザーの方がDIYすると、完成品を販売するのとは違う意味が生まれます。料理する感覚に近くても、ものとの関わりは段違いに深くなり、ものへの愛情も深まるはずです。少量生産のデザインが、お金持ちだけの遊びになるのは嫌なんです。ギャラリーワークが悪だとはまったく思いませんが、僕は強いメッセージがあるものを多くの人に届けたい。だから量産品のデザインにも興味があります。

 

_ユーザーとのコミュニケーションを大切にしているんですね。先日のスパイラルのSICF23 MARKET部門 グランプリアーティスト展 では、イタリアに滞在しながら、リモートで在廊して来場者と対話していました。

Koda:スパイラルはデザインに興味のない方もたくさん集まる場所であり、《In Fill Out》も見ただけで茹でるプロセスは想像できません。その点を伝えられるようなシステムを考えました。展示にキッチンを使ったのも同じ理由で、キッチンがある違和感から「なぜ?」ってなりますよね。デザイン自体は専門的だから、展示はわかりやすさを心がけています。以前だったら、ヨーロッパにいることで日本でのコミュニケーションを諦める場面があったかもしれません。でもテクノロジーの発達によって、両方でやっていける時代になった。僕らの世代は恵まれていると思います。

 

Photo(会場風景): TADA (YUKAI)