テキスタイルでかたちづくる不在の身体感覚
今回のスペシャルインタビューは、SICF14グランプリを受賞した塩見友梨奈さん。
作品や制作をはじめたきっかけ、今後の活動などのお話をうかがいました。
作品について
SICF14では子ども用のブランコの形をした体験できる作品を展示しました。タイトルは「首吊りビリー」。多重人格を患った実在する人物、ビリー・ミリガン(1955-)をモデルにした作品です。
ごく普通に店頭に並んでいる、幼稚園から小学校低学年の子供が使うような、24種類のテキスタイルを使用し、繋ぎ合わせた24本の手が作品全体を覆っています。(ビリー・ミリガンには24の人格があると言われている。)子供が使う柄は、かわいいようにみえて、いっぱい並ぶと気持ちが悪い、いろんな色が使われていて、布自体が主張してきます。この作品は、ファスナーを閉じれば、真っ暗になり、手も足も出せないように閉じ込められます。ブランコは普通2点で吊られていますが、それが1点で吊られる事によって急に不安定になります。それが首を吊っているようにも見え、されるがまま、ぐらぐらと不安定に揺れ動くので、「不安定で不安な」浮遊感を感じるブランコです。ひとつの身体の中で24の人格が生きている状態は、ビリーにとっての「不安」であり、その状態はとても「不安定」です。
作品を作るときには、いろんな”人”をモデルにしていて、トランスジェンダーであったり、多重人格であったり、そういう人たちの身体と精神の違いを意識する事が多いです。
今回は、初めて鑑賞者に実際に体験してもらう作品を展示しました。会期中、たくさんの子どもたちが乗ってくれました。お母さんの手を離れたとたんに泣いてしまう子もいましたが、中に入ったまま出てこない子も…。体験してもらう事によって、鑑賞者の方々といろいろなお話ができて、私も楽しい時間を過ごせました。
制作活動のきっかけ
元々、着物が好きで、大学に入った頃は着物の染め職人になりたいと思っていました。着物には、絵羽柄というのがあって、全部パターンを切り出して、全体の柄を決めてから、下絵を描き、全てほどいてから染め、それから、また立体的に繋ぎ合わせる方法があります。最終の完成形を予定して、そこまでの段階を踏んで行く作り方です。衣服の形状をした作品はそういった作り方で制作していました。身体のどの位置にどの模様がくるのか、身体の表面に模様を描く、という考え方は今も作品の根底にあります。
テキスタイルデザインや染めをやっていたので、”布”がすごく好きで、形が(重力によって)変わったり、平面なのに立体にできたり、色々な素材感があるところに惹かれます。それと同時に、いろんな人形:球体関節人形とか、ダッチワイフとか、マネキンとか、ぬいぐるみとか、四肢があるものにもとても惹かれます。胴体から、四本の手や足が出ていて、その抜け殻の状態のものが服と似ていますよね。人の体の表面的な部分、表面だけの人の姿のような抜け殻みたいなものに、何か人間に近いのに人間ではない魅力を感じています。
布は吊るすと、重力によって不定形になります。どんなに形を作っても吊るすと、ゆがんでいくような。それがとても面白いところで、それで”人”を表現している事に意味を感じています。
今後の活動について
舞台衣装や布を使った作品も作りたいのですが、色々な表現方法を模索しています。作品のテーマとしては、人間や身体であったり、皮膚や、表面的な方法を使った表現は続けて行きたいので、昨年の「ULTRA AWARD 2012 Exhibition」で発表した『23分間のドレス』(2012)のような「人間がいない状態での身体パフォーマンス」のような作品を制作していきたいです。
プロフィール
塩見友梨奈 (しおみゆりな)
【略歴】
2010 京都造形芸術大学 美術工芸学科 染織コース卒業
2012 京都造形芸術大学院 修士課程 芸術表現専攻修了
【主な受賞歴】
2012 ULTRA AWARD 2012 優秀賞
2013 京都府美術工芸新鋭展2013 選抜部門 大賞
【主な活動】
2008 着物ブランドプロジェクト商品化(京朋株式会社)
2010 ART CAMP 2010(サントリーミュージアム天保山/大阪)
2011 個展「サーカス」(id Gallery/京都)
2012 個展「浮遊する境界線」(新風館・TOKYU HANDS TRUCK MARKET gallery・Gallery Ort Project/京都)
2012 ULTRA AWARD 2012(ART ZONE・ULTRA FACTORY/京都)
2012 Hongik International Art Festival(弘益大学/韓国・ソウル)
2013 京都府美術工芸新鋭展2013(京都文化博物館/京都)