「祈りの対象」としての生命の樹
—「Tree of Life」(生命の樹)をテーマにしたきっかけがあれば教えてください。
Sugata:昔から命を「看取ること」が多い影響 か、幼い頃から「命って何だろう」と考えることが多くて、「死んでしまっても残るものがある」ということをずっと感じていたんです。それからいろいろと本などを読んで、「目に見えない存在」にフォーカスしていくようになりました。
もともと「Tree of Life=生命の樹」には、宗教や国によっていろいろな見解があり、さまざまなかたちがあります。自由度が高いモチーフなので、私の感覚の「生命の樹」をつくりました。全てのエネルギーが総合的に関係しあい、そして助け合って私たちは存在している、という「命の強さ」。
それが今回表現したかったことです。

《Tree of life》(2024) SICF25 EXHIBITION部門 グランプリ受賞作品 Photo: TADA(YUKAI)
石関:昨年出展したSICF25では、どのような作品を展示されたんですか?
Sugata:花をモチーフにした作品です。根っこが手になっていて、根には陶器を使って骨のような硬質な素材でつくりました。顔もついていて、摩訶不思議な雰囲気をつくり出しました。
石関:植物と動物の合体のようですね。
Sugata:私はずっと「祈りの対象」をテーマとしていて、すべてシンメトリーで作っているんです。アニミズム的な考え、「自然信仰」に美しさを感じていて、それを対象とした「祈るもの」をつくってみたいな、と。顔がついていたり、見上げて何かを感じるような・・・。
自分の生命とシンクロさせる感覚を持ってもらえればいいなと思っています。
石関:まさに「木」そのものですね。建物もそうですけど、木や山などの信仰の対象って、見上げることによって気持ちが浄化されたり、自分とは違うものを感じたり、そういう部分があるんでしょうね。
木自体が生命のイメージじゃないですか。
「生命の樹」って「世界樹」という言い方をされたり、色々な文化で見られます。イメージも「生」があれば「死」もあり、そして「再生」もあり、さまざまな捉えられ方があります。それは、木や山がどんどん大きくなっていく様子を私達人間は目の当たりにしているし、冬に枯れて春には再生するという季節を通じた生命の循環も感じられるからだと思うんです。
Sugata:そうですね。壮大な景色を見ると、そこに自分を投影しますよね。
結局は「自分を探したい」という行為でもあるのかな、と。木は、小さな芽からどんどん大きくなって、そのあとは実をつけたり、他の生物に何かを供給したりするようになる。
例えば、下に生えている植物に水が足りていなかった場合、根っこからそれを感じ取って、自分の養分を分け与えている、ということもあるそうなんですよ。
「見上げる」ことは、そういった生きるための理想を探す、自分もこうありたい、こうあろうということを眺める行為なのかなと思いますね。
石関:木は「成長する」イメージがあります。Monaさんの、花から始めて、木になっていくというクリエーションのプロセスも重なります。そういう意味では、自分の人生、あるいはそれだけではなく、見る人の人生ともシンクロさせることができるのかもしれません。
「LOVEファッション─私を着がえるとき」 東京オペラシティ アートギャラリー 2025年4月16日~6月22日 撮影:スパイラル
「まとう」対象としての植物
石関:服飾において、植物は装飾の素材としての長い歴史があります。
KCIが手がけた展覧会『LOVEファッション–私を着がえるとき』を企画する時に、人間が服を着る中での根源的な装飾のモチーフって何だろう?やはり植物なんだろうか?ということを考えたんです。紐解いてみると、古代から装飾として花は使われています。花は身近にある綺麗なものの象徴であり、身を包み、まとう「美しいもの」として植物の柄が用いられているんです。それはヨーロッパだけでなく、古今東西で。
「生命の樹」も、装飾のモチーフとして時々出てくるんですよ。有名なところだと、インド更紗とか。木の枝でどんどん分かれていくことで、柄に変化を与えると思うんです。花柄だと、どうしても単調な繰り返しになってしまうじゃないですか。木は、幹があって、枝があって、そこからまた花が出て、葉っぱが出て、その先にまた…
Sugata:ストーリー性がありますよね!
石関:そう!そうですよね。たぶんデザインする側も熱中したと思うんですよね。そうやってイマジネーションがどんどん広がっていく存在として「木」があるのかなと思います。
Sugata:つくっていてもそう思います!終わりないストーリーでありながら、何にでも通じる「幹」があるというか。やっぱり幹があるからこその強みだと思います。
石関:根っこも広がりますしね。
Sugata:幹と根っこ、ふたつの世界があるんですよね。木は、その両方に広がっていく世界を眺めている存在なんだと思います。
石関:神話の世界でも「生命の樹」はモチーフとしてよく登場するんです。地下にも天上にも広がって万物を眺める存在だからなんでしょうね。
Sugata:植物っていうのは眺められる存在でもあるし、それを「まとえる」なんて最高ですよね!
石関:「まといたい」からこそ、服飾の中で「花柄」や「造花」が登場したと思うんですよね。
もともとは自然の花を飾ることから始まったと思うんですけど、やっぱり生花だと長くは持たない。そのはかなさに惹かれる時もあるんですけど、ずっと身に着けていたいとか、季節を問わずに好きな花を飾りたいとか、人びとの願望やイマジネーションが膨らんで造花が広がっていったんじゃないかな、と。
Sugata:『LOVEファッション』展を拝見したんですが、第一部の「生き物を纏う」に、剥製や異なる種の鳥の羽を組み合わせたオリジナルの羽を用いたアイテムが展示されていて。見方によっては残酷だと思うのですが、やっぱり人って自然が大好きなんだな、と。その美しさとどうにかして一緒にいたい!という欲求が理解できたというか、共感しました。
石関:歪んだ愛情のような、ね。
Sugata:偏執狂的にはなってしまうのですが、それでもやっぱり美しい。多くの人が、鳥の羽も生の花も身につけたいと感じたことはあると思うんです。自然の美しさに憧れ、それと共に生きたい、という感情はとてもわかりますね。
石関:10年ぐらい前に出た写真集で、アフリカのエチオピア南部に住んでいる民族の衣装を撮影した「ナチュラル・ファッション 自然を纏うアフリカ民族写真集」(2013)という本があるんです。通常の服ではなく、特別な行事の時の衣装が中心なんですが、生の植物をまとって、化粧をして、ある意味原始的なんですけど、それがめちゃくちゃ綺麗なんですよ。
Sugata:現代に限らず、「まといたい」というエネルギーと配置のセンスがすごいですよね。なぜここに黄色い花をつけようと思ったの?とか。それは、人間的・動物的感覚なんでしょうか。
石関:「飾りたい」という欲求と、飾る時に繰り返したいろいろな試行錯誤が積み重なって、民族の文化として残っていくのかなと思いますね。
面白いですよね。私が言うのはなんですが、ハイブランドだけがお洒落じゃないというか。
Sugata:本当に!一方で、私はハイブランドにすごく憧れがあって。メティエダールとか、いつか本物のショーを見てみたいなと思っています。人間の、行き着くところまで行った技術ですよね。
※メティエダールコレクション=シャネルが発表した、アトリエの卓越した職人技を讃えるショー。