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SPECIAL INTERVIEW

special interview vol.9 
佐野景子

何気ない日常に新鮮な視点を吹き込む


 

今回のスペシャルインタビューは、SICF13グランプリを受賞した佐野景子さん。
先日スパイラルにてグランプリアーティスト展を開催したばかりの佐野さんに、作品や制作をはじめたきっかけ、今後の活動などのお話をうかがいました。

 

作品について

 

吹きガラスの技法を用いて、漫画等に登場する吹き出しのかたちを再現した『声の風船』。この作品は、吹きガラスという紀元前から存在する、今や珍しくも何ともない技法のユニークさに気付いたことが制作のきっかけとなっています。ものやかたちの作り方、作られ方がいろいろとある中で、唯一「自分の息」や「空気」が形を作っていくことのできるたいへん面白い方法です。
ただガラスをぷーっと膨らましただけのものが工房に転がっていて、あるときそれがすごく魅力的に感じました。それはなんでだろう?と考えたとき、(吹きガラスは)空気がそこにある、というのがわかる形だという事に気づき、その当たり前の気づきや何気ない発見を作品にしたいと思うようになりました。

『声の風船』は声という自分の息、自分から出た空気を「吹き出し」という誰もが知っている単純なかたちに落とし込み、吹きガラスのダイナミックさや形のユニークさを純粋に作品化しました。私は見る人に対して、人から解釈を与えられなくてもいいような、皆が知っているような事実に基づいて作品を作りたいと思っています。『息のかたち』に関しても、講評のときに審査員の方が「ふわー」(本来は「ふぅー」)と言っていて、ふわーでもふぅーでもそういう空気感が伝わっているんだと思いました。

 

 

制作活動のきっかけ

 

美大に入り、素材演習のような授業の中でガラスに触れた瞬間、これをやりたい!と直感的に思いました。透明な素材、というところに惹かれるのと同時に、それまでガラスは自分で扱える素材だと思っていなかったので、自分の手で作れるんだ!という衝撃的な出会いでした。
ガラスは透明で、固いし、冷たいし、無味無臭みたいな感じが、どことなく澄んだ音を連想させます。以前の作品は、音に着目し制作していました。例えば、乾杯するときにグラスとグラスをぶつけると、とてもきれいな音がします。生活の中で聞くその音から、ガラスという素材がすぐ想像できるように、ガラス素材からガラスの出す音を表現できないだろうかと思っていました。空気の揺れが音であり、その音が組み合わさって音楽になる、といったイメージで○、△、□といった単純な形と色で構成し、作品自体がバランスをとりながらゆらゆらと揺れるような作品を作っていました。

しかし、制作を進めていく中でガラスという素材を扱うことに疑問や抵抗を感じる時期がありました。そんな時期に専門学校で助手をしていたのですが、初めてガラスに触れ、新鮮な目を持って作品を作っている学生と出会い、彼らの話や意見を聞く事が自身の制作に影響を与えてくれたと思います。

知ってはいたけど、気付けていなかったいろいろなことを、気付かせてくれるようなハッとする行動や言葉にたくさん出会い、新しい視点を与えられました。それから、ガラスは空気というものに、目に見えるかたちを与える素材ということを再認識し、そういう目でもう一回見てみようと思ったら、再びガラスが面白くなってきました。

 

 

今後の活動について

 

最近行ったプロジェクトでは、自分の一息分の息で吹いた風船型の吹きガラスをアドバルーンに見立て、作品を持って、銀座の歩行者天国を歩くというパフォーマンスを行いました。銀座で展示をすると決まったときフィールドリサーチのため銀座の街を歩き回ったのですが、銀座の象徴ともいえる「歩行者天国」の自動車と歩行者の立場がある瞬間から逆転し、普通の道が天国になってしまうユニークなシステムがとても印象的でした。自分の”息”が美術作品となるのか、という試みの風船型の作品を制作していた中、自分の”息”が銀座の街の主役とも言える、”歩いている人”に対して何かアプローチできないかと考え、実際に「私は天国を歩いています」というアドバルーンの作品を持って歩き、その状況を見せるというパフォーマンスとして作品を発表しました。
いままで私は、歩行者天国でも歩道しか歩いてこなかったけれど、この車道の部分が天国なんだと思ったら、車道を歩かずにはいられなくなり、そこを歩くのがすごく楽しくなりました。そして、この作品の制作最中にラジオからふと「おもしろきこともなき世をおもしろく」という高杉晋作の辞世の句が流れてきたのですが、銀座でのパフォーマンスの感覚は本当にこの句の通りだと思いました。
自分を取り巻くさまざまなものごとを、どのように捉え解釈し、意味を付けていくのか。私にとって、作品を作る上での大きなテーマです。

日常のちょっとした解釈の仕方や、認識、視点の変換を誘うような作品を作りたいなと思っています。

 

 

プロフィール

佐野景子 (さのきょうこ)

1985 年生まれ。静岡在住。
2007 年 武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科卒業
2009 年 富山ガラス造形研究所 研究科修了

【主な展示】
グループ・企画展
2009年 ガラス教育機関合同作品展
2011年 第 4 回現代ガラス大賞展 富山 2011

 

【受賞暦】
2009年 富山ガラス造形研究所 卒業制作優秀作品賞
2011年 第 4 回現代ガラス大賞展 富山 2011 優秀賞
グランシップアートコンペ 奨励賞
2012年 SICF13グランプリ賞